33人の命を奪った殺人メロン
2011年7月、アメリカ。
インディアナ州に住むパチョリック家は、3歳になる娘、マディソンへの
サプライズパーティを企画していた。
母、ミシェルは妊娠5か月。赤ちゃんの性別も分かる時期だった。
妹が欲しいというマディソンにパーティーで出されたケーキを切るように言うミシェル。
アメリカにはケーキのスポンジの色などで赤ちゃんの性別を報告する
ユニークな習慣がある。
青なら弟、ピンクなら妹...マディソンが切ったスポンジの色は...ピンクだった。
喜ぶマディソン...幸せに包まれるパチョリック一家。
しかしこの後、待望の新たな命が危険にさらされることに。
この家族に一体何が起こったのか?
予期しない早産。小さな命を襲う危機
パーティーから2か月後の9月。
母ミシェルの体に異変が起こる。寒気に加え、足の付け根が痛む。
38度の熱も出た事から、インフルエンザのような症状だった。
すぐに定期検診で通っている産婦人科に行くと、ただの風邪だと診断された。
だが、しばらくして熱は下がったものの、体はだるく気力がわかない。
実はこの時、ミシェルのお腹の中の胎児は深刻な状態だった。
それはしばらく前に食べた、あるフルーツについた細菌が原因だった。
そのフルーツは遠く離れたコロラド州ですでに大パニックを起こしていた。
患者の発生はついに全米に広がり、80人を超え...ついに30人を超す死者も。
激しい腹痛...意識が混濁し全身痙攣。コロラドでは重い症状が人々を襲っていた。
被害者の数が最も多かったコロラド州の疾病管理予防センター支部は
食品管理機関であるFDAと手を組み原因を究明しようとしていた。
一方、遠く離れたコロラド州で集団食中毒が起きていることなど知らなかったミシェルは
ここ最近、退屈させていた娘を連れてネイルサロンへ。
その時、突如として急激な痛みがミシェルを襲った。
子宮が押しつぶされそうな感覚...すぐさま総合病院に。
産科医師によると、なんともう赤ちゃんが生まれようとしているという。
2週間前にインフルエンザのような症状があったことを聞いた医師は
その言葉で胎児が危機的状況にあると判断し、急いで出産の準備を始めた。
医師は、ある細菌に感染した妊婦がインフルエンザに似た症状を発症し
早産や流産になることを知っていた。
ミシェルが病院に到着して3時間。
普通分娩で生まれたわずか1670gの赤ちゃんはやはり細菌に感染しており、
危機的な状況だった。
多くの命を奪うリステリア菌の脅威
一方で、ミシェルと赤ちゃんの血液は研究機関に届けられ細菌の特定を急いだ。
そこで発見されたのは...リステリア菌だった。
リステリア菌は牛や豚など家畜の腸内や魚類であったり、
土壌、河川などの自然界に広く潜在する細菌。
食べ物を介して口に入ると免疫細胞に侵入し、増殖することがある。
筋繊維に痛みを生じさせ、全身を回り多臓器不全や髄膜炎を引き起こすと言われている。
しかし、健康な成人の場合は免疫細胞に侵入できず、発症することはほとんどない。
一方で高齢者や糖尿病などの持病を持つ人、そして胎児には命を奪うほどの猛威をふるう。
彼らが感染するとおよそ30%が死に至るという恐ろしい細菌。
毎年アメリカではおよそ2500人がリステリア菌に感染し、
そのうち約500人が死亡している。
ミシェルの場合、リステリア菌が免疫細胞に紛れて胎盤に侵入。
無菌状態の子宮内が汚染され、本能で危険を感じた胎児が母体から出てしまったのだ。
ミシェルの赤ちゃんはケンダルと名付けられ、
リステリア菌を消滅させるための抗菌薬が投与された。
ミシェルにも同じ薬が投与され、症状は回復に向かっていた。
そんなミシェルに医師がある質問をした。
医師「7月からの2か月の間、メロンを食べたことはありますか?」
確かにミシェルは3週間ほど前にメロンを食べていた。
実は、多くの命を奪ったリステリア菌はこのメロンに付着していたのだ。
リステリア菌は新生児の脳を攻撃する可能性が高い。
そして今後、ケンダルの脳に達した場合、脳損傷や髄膜炎が起きて、
最悪の場合、寝たきりの状態になる危険もあった。
出産後にようやく娘に会えることになったが、その小さな体には感染による黄疸が出ていた。
これは肝機能の低下によるものだった。
自分がメロンを食べたばかりに生まれて来た娘がこんな姿に。
ミシェルは自分を責めるしかなかった。
感染の後遺症と闘う幼き命の運命は?
ところで、なぜメロンに恐ろしい殺人菌が付着したのか?
食品を管理する機関FDAは、リステリア菌が検出された流通経路を調べた。
メロンの購入先は大型スーパーだった。
そして、コロラドの農家がこのメロンを卸していたことも判明した。
そこは全米でも有数の大規模農場。
さっそく調査員が向かい、その農家にあったメロンが調べられた。
すると患者と同じリステリア菌がメロンの皮から発見された。
ついに感染源が特定されたのだ。
スーパーや小売店からその農家のメロンがすべて回収され、
これ以上被害が増えないようにマスコミを使って警告した。
農家を運営していた兄弟は業務上過失致死で逮捕され、
5年の保護観察と6か月の自宅拘禁、さらに約3千万円の罰金と
100時間の地域奉仕活動が言い渡された。
結局、このメロンを食べて食中毒になった感染者は147人。
33人が死亡し、一人が流産するという結果になった。
一方、母ミシェルと生まれたばかりのケンダルのリステリア菌は
4日間の抗菌薬投与で消滅し、ミシェルは先に退院することができた。
ケンダルは除菌されたものの、感染の後遺症と戦っていた。
わずかなミルクでも吐き出してしまう。しかし、幼い命は懸命に生きようとしていた。
そして3か月がすぎ、クリスマスの直前にケンダルは退院することができた。
メロンによる集団食中毒事件から7年。
仰天スタッフはパチョリック家を訪ねた。
母のミシェルと夫のデイブ、10歳になったマディソンが迎えてくれた。
そして現在6歳のケンダルはとても元気そうだった。
元気いっぱいに走り回るケンダルだが、ようやく同学年の子ども達の成長に追いついた。
心配されていた脳の障害は見受けられない。しかし、慎重に観察が必要だという。
お姉ちゃんが大好きでなんでも真似をする妹。
食欲も旺盛で、何でも食べる!ケンダルはたくましく成長していた。