夫の趣味で夫婦が絶体絶命
夏野菜の代表と言われる野菜「ナス」。
和、洋、中...様々な料理で食卓を彩る。
しかし、ある理由から危険な毒を持ったナスを
食べてしまった夫婦が命の危険に陥るという事件が起きた。
一体なぜナスに毒が?恐ろしいその正体とは?
ミートソースを食べた夫婦に異変が
今から十数年前、沖縄県で暮らす一組の夫婦がいた。
2人は家庭菜園で採れた野菜を食べるのが楽しみだった。
凝り性だった夫は、どんどん野菜作りにハマっていく。
そして、ある栽培方法を試してみたくなった。
それは「接ぎ木」という2つ以上の植物をつないで育てる栽培方法。
土壌環境に適した丈夫な「台木」に育てたい植物「穂木」をつなぎ合わせ、
生産性を高めるなどの目的で行う。
夫はいろんな植物の組み合わせを試すようになっていった。
そんなある日、事件が起きる。
妻は昼食で、ある料理を作っていた。
タマネギ、キャベツ、ナスが入った「ミートソーススパゲティ」。
夫は出かけていたため妻1人で食べた。
美味しく出来たとご機嫌だったが...その3時間後に異変が。
夫が帰宅すると、なんと妻が倒れていた。
ろれつが回らず、まともに喋ることができない。
意識も朦朧とし、体に力が入らない状態だった。
夫は苦しむ妻を連れすぐに近くの病院へ。
症状から脳梗塞が疑われたが、検査で異常が認められなかった為、様子を見ることに。
しばらくすると妻の容体は回復。夜には帰宅が許された。
妻は倒れた時のことを全く記憶していなかった。
そして、まさかの事が...夫は妻が昼に作ったミートソースを発見。
まさかこの中に妻の異変の原因があるとは疑いもせず食べてしまった!
すると、次は夫が妻と同じ症状になってしまい、同じ病院へ搬送された。
やはり夫も妻と同様に記憶がなかった。
この日は、大事を取って夫婦揃って入院。
翌朝、医師たちが集まり、患者の症例報告会が行われていた。
2人の共通点は倒れる前にミートソースを食べていたということ。
実はあの時、庭で育てていたナスを使っていた。
そして、このナスが恐ろしい毒を持っていた!
ナスの台木が猛毒の原因だった
夫婦から話を聞いた医師は、このナスに食中毒の可能性があると考え
衛生環境研究所へ連絡。
連絡を受けたのは、食中毒に詳しい大城直雅研究員。
しかし、自家栽培のナスで食中毒になったという事例は聞いた事が無かった。
だが、夫婦が苦しんだ原因は間違いなくあのナス。
医師は保健所へ食中毒の届けを出し、大城研究員もその調査に同行した。
大城研究員は夫婦の家庭菜園を調査。
そこで初めて接ぎ木がされている事を知った。
台木にしている植物について夫に聞いたが、同じナス科の植物という事以外は
詳しい事を覚えていなかった。
同じナス科の植物...そして接ぎ木。
大城研究員の頭に、ある可能性が浮かび上がった。
すぐに植物に詳しい大学教授に鑑定を依頼。
すると、今回の件の原因が判明した。
夫婦を襲った症状は、チョウセンアサガオの毒によるものだった。
チョウセンアサガオ、別名「ダチュラ」。
インド原産のナス科の観賞用植物で、日本でも全国的に分布しているが、
実は根、つぼみ、種、すべてに強い毒を持っている。
その麻痺作用によって体のふらつき・言語障害・記憶障害などの症状が現れ、
大量に摂取すると脱力や昏睡を経て、最悪の場合、死に至る危険性もある。
実は数か月前。
夫は観賞用のチョウセンアサガオがナス科の植物であることを知り、
ナスの台木にするため購入。
チョウセンアサガオ自体に毒があることは知っていたが、接ぎ木で毒は移らないだろうと
興味本位で接ぎ木を行ってしまった。
チョウセンアサガオの毒は茎を経てナスにも巡り、実に蓄積されていったと考えられる。
何も知らない妻はミートソースにこの毒ナスを使ってしまった。
夫のちょっとした好奇心がすべての引き金となってしまったのだ。
毒を持った植物との接ぎ木は非常に危険な為、不用意に行わないように。