相撲部屋で起きたフグ中毒事件
今年、とあるスーパーでフグの肝を含んだ切り身を販売し、問題となった。
現在食品衛生法では、フグの肝は、販売・提供が禁止されている。
過去に相撲部屋でそんな食材が入った鍋を食べた若手力士たちが
食中毒となり、死者まで出した事件があった。
ちゃんこ番の楽しみが悲劇のきっかけに
今から50年以上前、福岡県。
ある夜、救急搬送されてきた力士達。
突然6人もの大の男たちが一斉に病院に運び込まれた。
症状は、しびれや腹痛、嘔吐など。何人かは重体で意識がなく、非常に危険な状態だった。
翌朝1人が死亡し、その2日後にはさらに1人が死亡した。
一方で、危篤状態に陥っていた男性の他3人は一命を取り留めた。
事件があった相撲部屋の力士たちは、九州場所が行われていたため福岡県にいた。
稽古場を後にする、若い衆たち。
彼らには、力士たち全員分の食事を作る『ちゃんこ番』という仕事があった。
腹を空かせた兄弟子達は彼らの作った料理をかきこむ。
一方で...ちゃんこ番はつきっきりで給仕。
兄弟子が食べ終わると、ようやくちゃんこ番の食事となるのだが、具など残っていない。
しかし当時、ちゃんこ番にはある秘密があった。
それは自分たち用の食材をこっそり、残しておくという裏ワザ。
兄弟子が食べつくした後でも密かに食事を楽しむことが出来た。
そして、事件の日。
この日も取り組みが終わると、ちゃんこ番たちは一足先に宿舎へ戻り、夕食の準備。
兄弟子たちが先に食べ終わり、ちゃんこ番たちの食事の時間に。
いつものように密かにとっておいた食材を食べまくった!
しかし、まもなく異変が発生!
突然の嘔吐...ちゃんこ番の力士だけが、次々に苦しみ出した。
昔は食べられていた「フグの肝」
実はこの日の鍋の材料に使われたのは「フグ」。
九州場所が行なわれる福岡は、全国でも有数のフグの産地だった。
全国をまわる力士たちは、その土地ならではの食材で料理を作る事も多く、
食材としてフグを使う事も少なくなかった。
だから、フグの扱いはお手の物。
当時は福岡など多くの場所で、フグを調理するにあたっての規定はなかった。
その為、ちゃんこ番が調理しても法律的に問題は無かった。
フグは、テトロドトキシンという人の命を奪うほどの猛毒を持っている。
特効薬はなく、致死率のきわめて高い毒。
フグ鍋は力士全員が食べていたが、
ちゃんこ番の力士たちがこっそり取っておいた食材はフグの肝だった。
フグの肝は古くから、食通をもうならせるほど美味だと言われ、
フグ料理店で提供されていたこともあった。
だから、ちゃんこ番の力士たちは、兄弟子達には肝を入れず、
自分たちだけこっそり食べたのだった。
当時のちゃんこ番だった男性によると、
それ以前にも食べていたが、何ともなかったという。
実は、フグの毒はフグ自体が作るのではない。
エサとして食べている貝類やヒトデなどに含まれる微量の毒が
フグの肝などに蓄積されることで致死量の高い猛毒となる。
つまり、フグ毒の多いエサを多く食べれば、毒性の強いフグになり、
フグ毒の少ないエサを食べたフグは、毒性の弱いフグになるのだという。
2人の力士が命を落としたフグ中毒事件は、大きな衝撃を与えた。
それ以降も、フグの肝による死亡事故があり、今では原則的にフグの肝は食用として
認められていない。