恐ろしい痛み止めの真実
偉大な男の逮捕に世界中が衝撃を受けた。
足はフラフラで正常とは思えない状態。
その人物とはゴルフ界のスーパースター、タイガー・ウッズ。
偉大な記録を次々と塗り替え、絶対的な実力者だった男が見るも無惨な姿に。
実は彼、鎮痛剤依存となっていた。
アメリカで鎮痛剤依存者は200万人以上いるといわれ、
死者は年々増加し、2015年には3万人を超えたというデータもある。
これを受け、去年10月。
トランプ大統領は鎮痛剤の乱用による薬物中毒の拡大を国家的不名誉と宣言した。
大ケガの激痛から解放してくれる薬
アメリカ・マサチューセッツ州、ウィンチェスター。
仰天スタッフは、ある人物を訪ねた。
マイケル・ダカン(32歳)。彼は高校の時、鎮痛剤の闇に堕ちた。
マイケルは、高校時代アメリカンフットボールとアイスホッケーで活躍していた。
しかし、練習中に手首を骨折。
激痛だった事もあり、マイケルはすぐに処方された鎮痛剤を飲んだ。
すると激痛は治まり、見違える程元気に。
そして、痛みがなくなると気分も良くなった。
だが時間が経てば...再び激痛が襲う。
痛さでいても立ってもいられず、再び痛み止めを飲んだ。
薬が苦痛から解放してくれたのだ。
痛みを感じるメカニズムとは、刺激を受けると神経を通じて脳へ信号が送られ、
それを脳がキャッチし痛みと認識する。
実は、患部では体を守ろうと痛みをあえて強める様々な物質が分泌される。
患部が赤くなったり、腫れ上がったりするのは体を守ろうと認識させるため。
一方、鎮痛剤は主にオピオイド系鎮痛剤と呼ばれる医療用麻薬と非麻薬性鎮痛剤の
2種類がある。
非麻薬性鎮痛剤は、患部で発生する、痛みを強める物質を作りにくくする薬。
ロキソニンやアスピリンなどがあり、日本で処方されるのはこれがほとんど。
もう一つのオピオイド系鎮痛剤は、脳に伝える伝達物質を作りにくくする薬。
これは脳に影響を及ぼす場合がある。
マイケルに処方されていたのは、このオピオイド系鎮痛剤だった。
このオピオイドとは、ケシの実から採取される成分を化合したもので依存性がある。
日本で馴染みがあるのがモルヒネなど。
日本では、オピオイド系鎮痛剤の処方はガンによる痛みか、
1か月以上続く慢性的な痛みの場合のみに使用される。
しかも、専門の資格を持った医師しか処方できない。
だがアメリカの場合、短時間の講習を受ければどの医師でも処方することが可能となっていた。
痛みもないのに鎮痛剤を使う毎日
痛みが出れば、薬で抑え続ける毎日。
一方で、人間の体は同じ薬の量では効き目が小さくなっていく。
だから、薬の量はどんどん増えてしまう。
数日が経ち、マイケルのケガはほぼ治った。
痛みはもうなかったが、心配だからと再び鎮痛剤を出してもらった。
実はオピオイド系の薬は強い痛みがある場合、
服用を続けても依存の心配はあまりないとされている。
だが、痛みがほとんどなく脳も正常な時に服用すると、
快楽物質が大量に分泌され中毒症状を引き起こす。それが依存につながる。
しかしそんな事など知らないマイケルは、そろそろ痛みが来ると勝手に思い込み
痛くもないのに薬を飲むようになった。
やがて、マイケルの体に異変が起きる。
それは友人たちと旅行に行った時だった。
この時、薬は持って行かなかった。
すると...今まで味わった事のない体のだるさが襲い、汗も大量に出て一睡もできなかった。
その体のダルさは、帰宅後にやはり薬を飲む事でおさまった。
マイケルは薬の効き目がなくなれば禁断症状が出る体になっていた。
その後マイケルは、スポーツ推薦で大学へ進学。
すると、将来を期待されたプレッシャーと、またいつ体のダルさが襲ってくるのかという
精神的不安からより一層、薬から抜け出せなくなっていく。
多くの人が依存してしまう恐怖
アメリカでは、歌手のプリンスがオピオイド系鎮痛剤の過剰摂取で亡くなっている。
そして、タイガー・ウッズも依存した過去がある。
孤独になり、大きなストレスを感じると薬に頼ってしまうというデータもある。
精神的不安から、さらに薬からぬけ出せなくなったマイケルは、
医師に嘘をついて処方してもらうが、それも限界となっていった。
ついには、闇ルートで購入するように。
体もどんどん痩せていき、人と話すのも面倒で引きこもりがちになった。
そして家族とも疎遠になり、ますます孤独になっていく。
やがて大学へは行かなくなり、中退した。
薬に依存する自分を周りはどんな目で見ているのか?
こんな自分が嫌になる。薬なんか飲まない方がいいに決まっている。
でも、薬を見れば体が欲しがる。
そんな自分から脱却しようと、ようやく両親に全てを打ち明けたマイケル。
そして彼は、治療プログラムに参加した。
同じ苦しみを味わう人たちを目の当たりにして、
マイケルも初めて自分は孤独でないと感じられたという。
こうして現在、マイケルは8年間薬物を断っている。
5年前に結婚し、2人の息子にも恵まれた。
マイケルは自分の経験を生かし、薬物中毒者をサポートする会社を立ち上げた。
現在、アメリカでは鎮痛剤の処方の制限を見直す法案が検討されている。