東京がパニック!恐怖の菌
今から4年前の東京。ある感染症が世間を騒がせていた。
突然の高熱や頭痛、発疹などを引き起こす感染症。蚊などの媒介による、デング熱。
そんなデング熱が猛威をふるっていたその裏で、全く別の、
ある物を食べたことによる感染症が密かに広まっていた。
それはかつて数万もの人に感染し、多くの死者も出した恐ろしい感染症だった。
風邪ではない...原因不明の高熱
2014年・夏。
数日前から頭痛と発熱の症状が出ていた1人の女性。
初めは風邪だと思っていた。
体温計を見てみると、なんと40度もの高熱。
すぐに治る...そう思っていたが熱は一向に下がらない。
しかも風邪らしい症状である鼻水や咳がほとんどない。
この時、テレビではデング熱が広がっているニュースを報じていた。
自分もデング熱なのではと思い、すぐに病院へ。
女性の診断は国立国際医療研究センターの忽那医師が担当した。
デング熱は、検査キットを使うと感染しているかどうかがすぐにわかる。
結果は...陰性だった。
デング熱ではないということはやはり、ただの風邪?
しかし、喉の腫れや鼻水といった症状がほとんどない。
その上、高熱だと上昇するはずの脈拍が少ない。
そして、肝臓と脾臓が腫れる肝脾腫の症状があった。
そこで忽那医師が疑ったのは細菌が血液の中に入った状態である菌血症の可能性。
すぐに調べると...原因が判明した。
女性が感染していたもの...それは腸チフス。
感染すると体内に潜伏、腸のリンパ節で増殖する一方、血流に乗り、全身に回る。
39度を超える高熱...重症化すると多臓器不全から死に至る場合もある。
人に宿る細菌で、便の排出時に感染が広がるケースがほとんど。
その為、衛生環境の整った現在の日本でみられることはほぼないが、
終戦直後は約6万人もの感染者を出した。
現在でも南アジアやアフリカなど、腸チフスの発生地域では
年間約12万人以上がこの感染症により命を落としていると言われている。
医師が気になった違和感とは
女性はすぐに入院...抗生物質を投与することで菌を根絶させることができる。
だが、忽那医師には気になることがあった。
それは女性に最近海外に旅行などで行った事があるかという質問をした時だった。
女性は海外には行っていなかった。
腸チフスに感染するのは主に南アジアやアフリカなど。
日本で感染者が確認される場合は、ほとんどがその地域から帰ってきたケースだった。
忽那医師が女性の回答に違和感を覚えていたその時だった。
女性と同じような症状を訴える一人の男性患者が病院へ。
調べてみると...男性も腸チフスに感染していた!
同時期に2件の腸チフス感染。
すぐに付近の病院へ連絡し、腸チフス患者の有無を確認した。
すると...都内の病院で数名の腸チフス患者がいることが判明!
さらにその患者たちは誰も海外に行っていなかった。
腸チフスは、症状が良くなった後も体の中に菌が残り続けて、
排出をし続ける無症候性キャリアと呼ばれる人が一定の割合で存在すると言われている。
つまり、感染後に体内にチフス菌が存在しているにも関わらず
症状がおさまってしまう人がいるという事。
気がつかない内に感染者を増やしてしまうケースがある。
2人の患者の共通点とは
感染している事を知らない保菌者が感染の原因になっている可能性がある。
特定を急いだ忽那医師は、まず保健所に連絡し、腸チフスの国内感染の可能性を告げた。
続いて2人の患者の感染ルートの確認。
なんと、2人は職場が近く接点もあったという。
さらに症状を起こす前、2人は偶然同じ店のお弁当を食べていた事が判明した!
その中には非加熱の生サラダがあったため、すぐに保健所に調査を依頼。
こうして保健所がその店の従業員を調査した結果、なんと店の従業員の1人から、
チフス菌が検出されたのだ!
しかも、その従業員は数か月前、腸チフスが頻発している地域で過ごしていたことも判明。
その際、チフス菌に感染したと思われた。
熱などの症状はあったが、再度日本で働き始めた時には熱も治まり、
彼自身もまさか自分が腸チフスに感染しているとは知らずそのまま調理場にいたのだ。
結局、男女計8名の患者を出したこの事件。
幸い適切な治療により、誰も大事に至ることはなかった。
現在も年間でおよそ60人の腸チフス患者が国内で報告されている。
腸チフスの感染ルートは排泄物からが主。その為石鹸による十分な手洗いや、
アルコールなどでも防ぐことは出来る。さらにチフス菌は加熱によって死滅する。
海外旅行に行く際はくれぐれも食事には気をつけたい。