世界が注目するナゾの家族
イタリア、トスカーナ地方の古都、世界遺産の町シエナ。
仰天スタッフは、ここに住むある女性を訪ねた。
レティツィア・マルシリさん、52歳。
海洋学者として地元で有名なレティツィアさん。
彼女は去年あることで世界的に有名になった。
それは彼女の持つ、不思議な体質だった!
なぜか痛みに強い家族
それを初めて認識したのは6歳の時。
レティツィアさんは超お転婆でいつも男の子たちと遊んでいた。
壁を上ろうとしたその時、出ていた釘が彼女の胸の下に刺さった。
しかし、彼女は痛がりも泣きもせず服の汚れを気にする始末。
この様な不思議なことは一度や二度のことではなかった。
本人はケガをして痛がる友達を見て、なんでそんなに大げさなリアクションをとるんだ、
精神が強ければどんなことにも耐えられる...と思っていたという。
彼女の痛みを感じないエピソードは多くの知人を驚かせた。
そしていつしか彼女は「鉄の女」と呼ばれるようになった。
といっても全く感じないわけではなく、最初の痛みと神経が刺激される感覚はあるが
それが魔法のように一瞬で消えていくのだという。
しかもそれは、レティツィアだけでなく...彼女の妹エレナさんも同じだった。
エレナさんも骨折をしても痛がらず、随分たってから気付くことも。
そして、さらにもう1人、姉妹の母親も同じだった。
そんな家族の中でただ1人、普通に痛みを感じるパパ。
この家では、父が痛がると「大げさすぎる」と家族に言われた。
痛みだけではなかった。
この家の女子たちは辛いものが大好きだった。
さらに彼女たちは暑さ、寒さを感じにくく汗を殆どかかなかった。
ちなみに歯の痛み、頭痛も一瞬感じるが、
大体20秒もたてば痛みはむしろ心地よく感じる。
大学で海洋学を研究し始めたレティツィアは時に腐敗した動物を扱うこともあった。
しかし彼女は、強烈な悪臭も平気だった。
ついに謎の体質の秘密が判明
そんな彼女の不思議な体質にようやくスポットが当たる。
それは、2000年の冬だった。
なんと、レティツィアさんは真冬なのに真夏のような恰好をしていた。
それを見て話しかけて来たのはレティツィアと同じシエナ大学のアロイージ准教授。
このアロイージ准教授、実は神経科学者で痛みについて研究するスペシャリストだった。
彼女のこれまでの研究では痛みを感じない人たちは体温調節ができにくい
ということはわかっていたが、それは全く痛みを感じない人。
レティツィアさんの場合は痛みを最初の一瞬は感じるという初めてのケースだった。
この出来事以来、アロイージ准教授はレティツィアの体を研究し始めた。
そして、10数年もの研究の末、
ようやく2017年イギリスの博士らにより研究結果が発表された。
その原因は遺伝子にあった。
レティツィアの皮膚の痛覚神経の数は通常の人と変わりない。
ただ、痛みに関わるたんぱく質を作る「ZFHX2」という遺伝子が一部変異していたため
痛みがきちんと伝わらないという。
一方で、痛みは消えてしまっても、体は我々と同じようにダメージを受けていると分かった。
この遺伝子が医療の進歩につながる?
そんなレティツィアさんが今までで一番痛かった痛みは...膀胱炎。
内臓の痛みは他の人と同じように感じるらしい。
それは妹エレナさんも同じ。
普通分娩でエレナさんは壮絶な痛みを味わった。
そして驚くことに、痛みが消える体質はエレナさんの娘にも遺伝していた。
遺伝子の突然変異は、レティツィアさんと彼女の母、妹以外に
彼女たちの3人の子どもにも受け継がれていた。
そのため一家の苗字から、マルシリ症候群と名付けられた。
アロイージ准教授によると、この遺伝子の突然変異がどうやったら起きるのかは研究段階。
これが解明されたら多くの人を助けられるかもしれないという。
それは、あのタイガー・ウッズも陥った鎮痛剤依存。
鎮痛剤に精神的に支配され、痛みがなくても不安で頼ってしまう。
実はアメリカで鎮痛剤依存症は200万人以上いると言われ、死者は年々増加
2015年には3万人を超えたというデータも。
しかし彼女たちの変異遺伝子に関連した新しい薬の開発が出来れば、
麻薬性鎮痛剤とは違った安全な治療法となるかもしれない。
レティツィアさんも
「私の特別な遺伝子が誰かを救う事ができたらこんなに嬉しいことはない」と語っている。
いつかそんな日が来ることを期待したい。