放送内容

2018年11月13日 ON AIR

本当に恐い...アルコール依存の真実

1988年に発売され、その後50万枚を売り上げた「GLORIA」。
演奏するのは、ロックバンドZIGGY。そのボーカルが森重樹一、当時24歳。


派手なメイクや髪型、そして圧倒的な歌唱力とパワフルなステージ。
翌年には武道館ライブも成功させた。そんな彼が...アルコール依存症に。


時に暴力的になり、そしてうつ症状も...。その壮絶な苦しみとは...!?


いい歌を歌うために始めた酒


森重は本来、真面目で繊細な男だった。
地元の高校を優秀な成績で卒業。早稲田大学に入学すると、哲学を学んだ。
21歳でZIGGY結成。


バンド活動に対してもいたって真面目。
酒を飲み始めたキッカケは...先輩からいい歌を歌うためには睡眠が大切だと
勧められたから。


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ささいな一言...そして森重は酒を飲んでみた。寝る前に数杯...
すると翌日、いつもより声が出た気がした。


やがて...ステージに立つ前にも飲むように。
程よく酔った状態でのライブは、生真面目な自分から解放されたようで、心地よかった。


次第に昼夜を問わず飲むようになっていった。
酒を飲むと、歌詞やメロディーがおりてきた。
酒があれば、全てがうまくいくと感じた。まるで魔法のようだった。


一方でアルコールは習慣的に摂取すると、耐性ができる。
やがて森重は、酔うために更に多くの酒を飲むようになった。
そんな中、36歳で結婚。


しかし、酒は増える一方...食事もまともにとらないまま、酒だけで胃を満たす。
酒のせいで、記憶を失くすこともしばしば。
そして、アルコールは次第に彼の人柄を変えていく。


メンバーに対しても些細なことで怒りが爆発する。
アルコール依存症になると、感情が抑えられなくなる場合が多い。
実はこの時、脳に異変が起きていた。


アルコールの摂取により、理性をつかさどる前頭葉で神経伝達物質の働きが低下する。
すると、行動や感情のコントロールが利かなくなってしまうのだ。
それが続くと、前頭葉の萎縮を引き起こし、より理性をコントロールできなくなってしまう。


この時、仕事の仲間たちは、森重をただ酒癖が悪いとしか思っていなかった。
「依存症」と「そうでない人」との違い...それは飲酒時の行動を制御できるかどうかにある。


一旦飲むとやめられなくなったり、飲んではいけない場面でも酒をやめられない人は
依存症。また酒が切れると禁断症状が現れる人も、アルコール依存症である。


常に襲う「焦燥感」。
悪いことをしているとはわかっていても...酒をやめられない...。
後悔にふたをするために、また飲むしかなかった。


40歳...24時間酔っている状態に


40歳になる頃、アルコールは彼から睡眠をも奪った。
不眠もアルコール依存症の大きな症状のひとつ。睡眠がとれずに体が休まらない。
そしてブラックアウトするまで飲むようになった。


ライブのステージ上、彼の手には...なんと酒。
そして、歌い終わるとステージ上の専用冷蔵庫からまた酒を出す。
あるインタビュー映像でも...傍らには酒。24時間酔っている状態だった。


そんな生活が続き2007年、森重に娘が生まれた。
しかしこのころ、アルコールのせいで彼はうつ症状が出ていた。


飲酒によって、気分の良さを維持していた結果、大量のアルコールを飲まないと
気分が沈んでしまうようになったのだ。


娘とまともに遊んでやることもできない。
本当は自分もアルコールから逃れたい。しかし、酒が切れると禁断症状が襲ってくる。
不快な症状から逃れるためには...結局飲むしかなかった。


そうして、24時間飲み続ける日々。
さらに、被害妄想が激しくなった。
人に見られている恐怖。サングラスが欠かせない。


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アルコールに溺れる夫と、慣れない育児...妻も限界だった。
妻から離婚を切り出されると、ついに森重は酒との別れを決意。
治療を受けるため、心療内科を訪ねた。


一生向き合い続けるアルコール依存症


病院へ行った森重は医師からは抗酒薬を勧められた。
抗酒薬とはアルコールが肝臓で分解される過程で起きる"不快な悪酔い状態"を
あえて引き起こさせるもの。


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それでも...森重は飲んでしまった。
抗酒薬を飲んでいる状態での飲酒は、とてつもない気持ち悪さに襲われる。
魔法だった酒はそこにもう存在しなくなった。


誰もがなりうる「アルコール依存症」。実はある衝撃的な事実がある。

アルコール依存症というのは、脳の中にお酒を飲むとコントロールが
利かなくなるという回路が出来上がってしまい、その回路は一生なくならない。
何年も酒を断っていても、再び飲むことによってその回路はすぐ動き始めてしまうのだ。


アルコール依存症に詳しい重盛憲司医師によると、通院、投薬と並んで
大事な治療方法があるという。
それは自助グループに参加するということ。


励ましあってやめていくという事以外にも、
それぞれが人との接し方や、普段の行動の仕方で、
(酒に頼ってしまう)自分の思考や感情に気づく。
それがお酒をやめ続けるための大事なポイントなのだという。


現在なんと300万人近くいるといわれるアルコール依存症とその予備軍。
酒が強い人ほど、アルコールを体内に摂取する量が多くなるため、要注意だという。


今日まで10年近い断酒に成功している森重。
彼を支えているのは...家族、友人、仕事仲間。
たくさんの人たちが自分の病気に理解し、協力してくれている。


彼はこれからも、アルコール依存症と向き合いながら歌い続けていく。

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