死を覚悟 菌はいつどこで入った?
2013年、岡山県岡山市。
誰もが普通にやるようなささいな事で、命の危機にさらされた女性がいた。
彼女は当時19歳の専門学校生。
飲食店でアルバイトをしていた。仕事はホールでの接客係なのだが、
厨房の下ごしらえを手伝うこともよくあった。
彼女は3人姉妹の末っ子。
姉2人は一人暮らしを始めていて、家を出ていた。
そして、恐ろしい出来事が。
9月のある夜、すでに家を出ていた姉が近く結婚するので、
姉のために結婚式のウェルカムボードを作成していた。
夢中で作業を続けて2時間。
大きなあくびをしたその時...違和感が。
それは口が元に戻りにくく、口周りが突っ張るようなイヤな感覚だった。
さらに...「いー」を発音するように口が横に開いたままになった!
自分の意思では動かせない!
明らかに体がおかしい!!
さらに...今度は強く歯を噛みだした!
これも体が勝手に動いて...自分ではどうにもできない!
ヨダレもあふれてくる。
「このままでは舌を噛み切ってしまうかも?」と思い
タオルを押し込んだ!
両親が救急車を呼び病院へ搬送される頃には、首にまで強いこわばりが出始めていた!
彼女を見た医師は...ある症状を強く疑った!
それは...破傷風だった。
破傷風の恐ろしい症状
破傷風とは...傷口などから破傷風菌が感染し、菌がつくる毒素によって引き起こされる症状。
毒素は神経を侵し、筋肉に強い痙攣を引き起こす。
彼女がそうだったように、最初は口が動かしにくくなる症状などから始まる事が多く
口が勝手に「いー」のカタチになってしまう現象も。
これは「痙笑」という破傷風特有の症状。
顔面から始まった症状はやがて全身に広がっていき、重症だと体が弓を引いたような格好になってしまう。やがて呼吸筋の麻痺により窒息死することもある。
破傷風にかかってしまった原因について、医師から両親にこんな質問があった。
それは最近ボランティア活動や、アウトドアなどをやっていなかったかというもの。
破傷風菌は、土壌などに広く分布している、いわばどこにでもいる菌。
土に接触する機会が多いと感染の可能性も高まるのだが...両親は思い当たらなかった。
現在でも致死率30%程とされる破傷風。
医師は、彼女に抗破傷風薬を投与したがこの病院では十分な治療の設備がなかったため、
彼女は再び救急車で大学病院へ運ばれ、すぐにICUに入った。
破傷風の場合、光や音などの刺激がきっかけとなって呼吸停止になるケースもあるため、
タオルで目隠しがされた。
破傷風は、初期症状から48時間以内に全身性のけいれんが起きるとその後、
死亡率が高くなる。
彼女を苦しめた破傷風の感染原因とは
幸いなことに彼女は、全身性痙攣は起こらず回復に向かった。
そしてこんなことを医師に指摘された。
母子手帳の記録をみると、彼女は破傷風の予防接種を受けていなかったのだ。
破傷風の定期予防接種は、日本では1968年から。
ジフテリア・百日咳との3種混合ワクチンとしてはじめられた。
現在、破傷風を発症するのは、それ以前に生まれた50歳より上の世代がほとんど。
しかし、1975年、ワクチンの副作用で子どもが死亡する事例が起き、社会問題に。
その後ワクチンは改良されたが、不安を訴える声も多く、
1994年まで地域によって接種状況はバラバラだった。
そのため若い人でも、接種経験がない人がいる。
彼女の場合、処置が早かったので、症状も深刻にならずに済んだ。
ところで、彼女は、一体どこでいつ感染してしまったのか?
実は彼女、もともと手に湿疹などが出来やすい体質だった。
最近土に触れる事はなかったのだが、
バイト先の飲食店で扱う食材に、泥つきの新鮮な玉ねぎがあった!
湿疹のある手で、その皮むきをしていたのだ。
断定はできないものの、その作業の時に感染したと推測された。
水害など大量の土砂があふれた被災地では、破傷風に感染する危険も増す。
ボランティアなどで被災地に入る場合も、注意が必要。
ワクチンの効果も10年ほどで薄くなってしまうので、心配な方は追加接種をお勧めします!!