なぜ新米女性警官は狙われた!?
2014年、北海道。
札幌市民を恐怖に陥れた連続爆破事件が発生した。
無差別テロかに見えた犯行...しかし、その標的はなぜか心当たりのない若い女性。
しかも彼女は新米警官だった。一体なぜ彼女は狙われたのか。
その女性は警察学校卒業後、交番勤務を経て札幌方面北警察署に配属され、
そこで実習生として刑事の仕事を学んでいた。
初めての家宅捜査は、複数のコンビニから年賀はがきを万引きした容疑をかけられていた
51歳の主婦の家。捜査を進めると、証拠となる年賀はがきが見つかった。
年が明け、2014年1月27日。
この日、年賀はがきを万引きした女の取り調べが行われていた。
その時、突然爆発音! 署内の車の後部から火の手が!
幸いにもすぐに火は消えたが、そこには鍋などで使うカセットコンロのガスボンベが
2本破裂していた。
この車の持ち主は警察官だった。
警察を直接狙った爆発事件。しかし目撃者もなく捜査は難航した。
テロの可能性も考えられるため北署だけでなく本部の北海道警捜査一課も動くことに。
車の持ち主の警察官は犯人について明確な心当たりはないという。
その数日後、怪しい封書が届いた。
その中に「犯行声明」と書いてある一通の手紙が入っていた。
ローマ字のゴム印で書かれた文面には、
なぜか、あの女性新米警官が名指しされ、
「あいつが余計なことをしなければこんなことにならなかったんだ」と書かれていた。
女性は交番勤務時代を思い出したが...犯人は思い当たらない。
警察がマスコミに情報を流さないでいると...数日後、地元の新聞社に手紙が届いた。
「メディアの方へ、北署はダメだ、公表しないでばかりだ。前回と違って傷者が出るくらいの爆発だ。新米警官が署の前で、首から名前をぶら下がったら止めてやる。」
手紙の内容はとにかく不気味な文章だった。
犯行予告とも取れる内容のため新聞社も公表せず、警察に届けるにとどまった。
次々にエスカレートしていく犯行
危険を避けるため、新米警官の女性はこの事件から外されることになった。
解決の糸口がつかめないまま3週間が過ぎた頃。
2月20日、北署管内にある大型量販店2階の靴売り場で火があがった!
それはまさに北署にあった爆弾と同じような形状。
まもなくガスボンベが爆発するかもしれない。
周囲の客もパニックに!するとスプリンクラーが作動した。
この事件により、200人ほどの客が店外へ避難する事態に。
幸い怪我人は出なかったが、2階フロアは水浸しになった。
札幌方面北警察署管内で起きた2つの事件。
どちらもガスボンベを使った犯行で...同一犯の可能性が高い。
犯人は防犯カメラに写っているはずだが...犯行前の時間、2階に上がった客の数は膨大。
しかも顔が判別できるほど鮮明ではなかった。
今回も犯人につながる情報が得られぬまま、さらに4週間が過ぎた3月18日。
大型スーパーの立体駐車場が3度目の犯行現場となった!
車の後部に置かれたガスボンベが爆発。
被害にあった車は後部バンパーが溶け、大きくえぐれるほどの威力だった。
そして犯行はエスカレートする。
犯人が4件目に選んだ場所は...大型ホームセンターの男子トイレだった。
熱せれたガスボンベはついに...大爆発!!
個室トイレにいた男性は、幸いにも軽症で済んだが
これまでの3件に比べ、その威力は凄まじかった。
個室を仕切る壁は吹き飛び、男子トイレは全壊した。
犯人の狂気はさらにエスカレートし...4月3日午後11時45分。
現場は北署の斜向かいにある警察官舎。
1階の踊り場が火元であったが、その爆風と熱により2階の表札が溶けるほどだった。
現場には2000本以上の釘が散乱し、完全に殺意がある犯行だった。
少しずつ明らかになる犯人の姿
実は、また犯人が北署を狙ってくる可能性があると考え、
北署前の道路に向け監視カメラを設置していた。
調べると、そのカメラに不審な車が映り込んでいた。
爆発の数分前、それは官舎と署の前の通りを何往復もする黒のセダン。
しかしナンバーまではわからなかった。
そんな頃...さらに捜査が進む。
その手掛かりはテレビ局あてに届いた犯行声明文だった。
カタカナのテンプレート定規を使って文字で書かれた内容は、
あの新米警官と北署に対する不満だった。
「すべての始まりが北署」「北署は憎しみの対象」とあり
新米警官はじめ、数人の警察官の個人名も記されていた。
この声明文の存在が事件解決に向けて、大きく舵を切ることになる。
犯行声明文で名指しされた警官の中の一人から、
気になる人物がいるという証言が出てきた。
それは年末の年賀はがきの万引きで家宅捜査をした女。
その女はまさに黒のその車種に乗っていたという。
なぜこれまでこの証言が出なかったのか。
実は、最初の事件が警察署で起きた時、
その女は北署の中で取調べの最中で、アリバイがあったのだ。
女は名須川早苗という51歳の主婦。
取調べの前に爆弾を車に仕込んだ可能性も考えられた。
実はこの爆弾には重要な事実が。
爆発までの時間を検証すると、数分から数十分のタイムラグが出ることが判明した。
つまり爆発の時に取り調べ室にいることが可能なのだ。
そして、2件目の大型量販店の防犯カメラには、名須川早苗らしき人物を発見。
名須川と思われる女は、爆発物らしきポリ袋を持っていたのだ。
さらに名須川早苗の車が他の犯行現場の防犯カメラに映っていたことも判明した。
ついに容疑者を特定した警察。
一体、名須川早苗とはどんな人物なのか?
警察に対する逆恨みからの犯行だった
名須川早苗は20歳で警備会社に就職し、そこで経営者である夫と出会った。
事務処理が優秀だった早苗は可愛がられ、プライベートでも深い関係に。
当時、夫となる男性には妻子がいたが、のちに離婚。
20歳も歳の差がある早苗と新しい家庭を築き始めた。
優雅な生活だった。
しかし17年後...夫が脳梗塞で倒れ、そして半身不随となった。
名須川早苗の家宅捜索に向かった警察。
彼女は家で半身不随の夫の介護をしていた。
任意同行した早苗は一切の犯行を認めず、あの新米警官については一切、語らなかった。
早苗の家宅捜索は翌日も行われた。
夫の部屋を捜索すると...怪しいポリ袋を発見。
その中には犯行声明文に使われたと思われるゴム印とカタカナのテンプレート。
警察の取り調べから、名須川早苗は自身のものだと認めた。
ついに...名須川早苗は数々の証拠により、逮捕された。
それにしてもなぜ早苗は警察を狙ったのか。
実は、夫の警備会社では北署を始め北海道警のOBが複数働いていた。
しかし、夫が脳梗塞で倒れると...夫の会社は警察のOBに経営権が移った。
あの社長夫人の暮らしは一転...借屋暮らしとなり、
近所付き合いもほとんどなく、引きこもるような生活。
そして金に困っていたのか、早苗は4軒のコンビニから年賀はがきを万引きした。
万引きでの家宅捜索で証拠が見つかり、警察署に連行するときのことだった...
早苗はある事をこっそり、新米女性警官に頼んだ。
早苗「あの...尿漏れパッド持って行きたいんですけど」
すると、新米女性警官は、
「わかりました。被疑者、尿漏れパッドを持って行きたいとのことです」
と部屋にいる警官達に伝わるよう、大きな声で言った。
規則とはいえ、男性警官もいる前で、新米警官が発したその言葉に
早苗は、強烈な怒りを感じたという。
つまり、セレブ生活を奪ったのも、恥をかかされたのも警察、
と勝手に思い込んだ逆恨みによる犯行だった!
早苗は犯行を否認し続けたが...
2016年3月11日、名須川早苗は
「激発物破裂罪」などの罪で18年の懲役刑に。
すぐさま控訴したものの棄却。上告するも結局自ら取り下げた。
一歩間違えれば死者も出たと思われる爆破事件...この犯行は許されない。