放送内容

2019年4月23日 ON AIR

どうしても人の顔を覚えられない苦しみ

2012年、東京。
ある会社に勤める女性、笠原よしこさん。
彼女にはある悩みがあった。


ある日、仕事で講習会に参加し取引先の会社の女性を紹介された。
名刺交換をしながらの挨拶。会社員同士のよくある風景だった。


しかし後日、その取引先の女性と再会した時のこと。
よしこさんは彼女に対し「はじめまして」と言ってしまった。
実はよしこさん、人の顔を覚えるのが大の苦手だったのだ。


彼女がその症状を自覚したのは小学生の頃。
習い事のスイミングスクールで...さっきまで一緒にいたコーチが分からない。
実は水着や水泳キャップなど、みんな同じ格好になると誰が誰だか識別不能となる。


学校でも、不意に話しかけられると、誰だかわからない。
顔ははっきり見えているが、記憶の中からすぐにひっぱり出せない。
そんな時は、「声」「背格好」「髪形」など、顔以外の情報を頼りに識別した。


一方で勉強も運動も問題なく出来る。親も娘の異変に気付く事はなかった。
だが大人になると、多くの人と接する。仕事にも支障が出た。

実は覚えにくい人にはある共通点があった...それは、いわゆる美形の人。
目、鼻、口のバランスが均一に揃っていると、人は無意識に「美人」と判断するという。


これは「美人顔の黄金比」とされているが、そんな美形の顔の人は、
彼女にとって特徴が無く、最も見分けがつきにくい顔立ちだった。


なんとかしなければ...と、人に会う時はホクロの位置やメガネの特徴などをメモり、
更に、講習会では胸に自動的に写真を撮影する小さなカメラを取り付けた。
自宅に帰ると、メモと写真を照らし合わせ、名前を一致させた。


妹の顔もわからない...「相貌失認」とは


だが、こんなショックな時もあった。
彼女には離れて暮らす妹がおり、1年ぶりに会う事になった時のこと。
妹との約束の場所に到着、だが...妹がどこにいるかわからなかった。


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妹から呼びかけられ、ようやく妹を見つけることができたよしこさん。
少し雰囲気が変わっていたとはいえ、そんな事で妹のことが分からなくなるなんて...
彼女は不安になり、インターネットで検索した。


すると、自分とピッタリの症状を発見する。
それは...「相貌失認」という症状だった。


顔を見ても誰の顔かわからず、個人の識別ができなくなるといった症状が現れる。
人間の脳には人の顔を識別する特別なシステムがあり、瞬時に相手が誰であるか認識する。


まず目で相手の顔の情報をキャッチ。
それを電気信号にして大脳にある「紡錘状回」という部分に送る。


そして「目」「鼻」「口」などの細かい情報に加え、
その配置のバランスなど様々な情報を脳の中にある「引き出し」のような場所にしまう。


なので、次はそれらの情報をもとに、正しい人物を「引き出し」から取り出す事が出来る。
だが相貌失認の場合、この「引き出し」の数が極端に少ない。


なので顔全体としての情報がうまく整理できず、ただ「美人」という「引き出し」に
全てをしまってしまう。これにより正確な情報が引き出せないのだ。


例えるなら、野球好きな人は打撃フォームを見ただけで、すぐにどの選手か分かる。
しかし、全く興味がない人から見れば、皆同じユニホームを着た野球選手。
選手の名前には結びつかない。


このような状況が日常的に彼女には起きているのだ。


自身の顔が認識できないケースも


そんな症状に悩んできた彼女に相貌失認の診断テストを受けてもらった。
その方法とは...1人の女性の顔の輪郭を別角度で撮影した3枚の画像を用意し、
別に用意した3人の女性の顔画像の中から同一人物を当てるというもの。


通常、数秒あれば、特定できるはずだが...
それぞれの写真を何度も見比べ、30秒以上かかりようやく識別できた。
彼女によると、ホクロや眉毛などパーツの違いを見分けて識別しているとのこと。


だが、医師によると彼女の症状はまだ軽い方だという。


重いケースでは...予期せぬ場面で出くわすと母親ですら識別できない。
さらに...写真の中の自分が探し出せない人も。つまり、自分の顔すら認識できないのだ。


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20年以上にわたり「相貌失認」の研究をしている玉井医師によると、
薬などはなく、周りの人の理解が1番の治療法だと語る。

人の顔が覚えられなくて悩んでいる人は専門医に受診を。

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