日本中が震撼 衝撃の食中毒事件
今から29年前...1990年。
この時、1つの集団食中毒事件がきっかけで多くの日本人は初めて恐ろしい細菌の存在を知ることとなる。
それは、現在までに全国で50人以上の死者を出し、誰もが知る細菌だった。
関東のある都市。
この病院で小児科部長を務める辻のもとに腹痛を訴える少女がやってきた。
実はこの当時...少女の通う幼稚園では多くの園児が風邪を理由に欠席していた。
体調を悪くした少女の母は当初、同じように風邪をひいたのでは...と思ったのだが、
その後、少女の便の中に血が混じっていた事で母は不安になり、辻医師のもとへやってきたのだ。
その時、辻医師が疑ったのは赤痢菌などの細菌が原因で起きる急性腸炎の可能性だった。
さらにこの少女以降、同じような下痢や腹痛の症状を訴える多くの患者たちがやってきた。
中には重篤な症状になる患者もいたがその原因がわからない...。
そんな中、少女の血液の検査結果が出た...少女は溶血性尿毒症症候群だった。
悪化した場合、急性腎不全などを引き起こすとされ、命にもかかわる。
そして...この症状によって、別の病院で治療中の園児が命を落としていた。
一刻も早く、原因を見つけないといけない。
焦る辻だったが...その時、彼はある症例が思い当たった。
それは1982年、アメリカで起きた大手ハンバーガーチェーンによる集団食中毒事件。
加熱不足のハンバーガーが原因とされ多数の人が感染。
危険な新型大腸菌として初めて知られたその菌は、O157だった!
腸管出血性大腸菌O157...激しい腹痛と下痢を起こす病原性大腸菌の1つ。
体内に入ると大腸へ。そこで、菌がベロ毒素を出すと血便や激しい腹痛の症状を起こす。
さらに合併症を起こすと死に至ることでも知られていて、
この事件の21年後の平成23年には焼肉店でユッケなどが感染源になり、5人が死亡した。
これをきっかけに、生肉の提供に制限がかかったことでも知られている。
日本初のO157集団感染事件、原因は!?
だが、今から29年前の日本では腸管出血性大腸菌O157の存在は、ごくわずかの研究者以外にその存在を知られていなかった。
そんな中、辻の勤務する病院は当時ではかなり稀なO157などの検査試薬を持っていた。
辻医師はすぐに集団食中毒の原因、O157を特定。
実はこれこそが日本初のO157による集団感染事件だった。
だがこの恐ろしい事態が起きた原因は、一体なんなのか?
辻には当初から気になっていたことがあった。
患者の半数以上は園児...しかも皆、同じ幼稚園。
となれば、園児たちは何か共通のものを口にしているはず。
だが、園児たちが食べたと思われる給食などからは菌が検出されなかった。
そしてO157は、意外なところから発見される。
なんと感染源は幼稚園で使用されていた「水」だったのだ!
それは信じられない理由だった。
幼稚園の飲み水は敷地内にある井戸から引いていた。
そして、O157に汚染されていた汚水タンクが破損し水が漏れ、近くにあった井戸水に入ったと思われた。
最終的に、別の病院で治療していた症状の重かった園児2名が命を奪われた悲劇。
O157はこの時初めて世間に知られることになった。
さらに、この事件は井戸水の滅菌処理を行っていなかった幼稚園のずさんな管理体制などもあり大きな波紋を呼んだ。
この事件から29年...O157による食中毒は今でも毎年のように起こっている。
知識のない時代...命を失いかけた3歳児
そして...O157による恐ろしい事態は、家庭内のほんのちょっとした事でも起きる!
それは2007年、東京。
意識不明の重体に陥り、人工呼吸器をつけられた3歳の中村渓くん。
家族の呼びかけにも反応はない...この子を苦しめていた原因もO157だった。
渓くんはICUで懸命な治療が行われていたが、深刻な合併症を起こしていた。
彼の場合、O157が出すベロ毒素が、血中に入ってしまったのだ。
その毒が血中に入ってしまうと...毛細血管に炎症を生じさせ、腎臓の血管に炎症が起きると、血管が詰まり尿が出なくなる。
このまま尿が出なければ体内の老廃物を排除できず、高血圧になり心不全を引き起こし死に至る。
そのため、人工透析で血液中の老廃物をろ過し、綺麗な血液を体に戻す治療が行われた。
なぜ突然、渓くんはこんな事になってしまったのか?
食べ物が原因だと医師に言われたが、両親にはそれが何か思いあたらなかった。
原因を突き止めるため、保健所も調査を開始した。
職員から両親にも記憶を頼りに渓くんが食べたものを遡って思い出してほしいと依頼。
そう言われた両親は、職員にある紙を差し出した。
そこには、渓くんがここ数日で食べたものが事細かに書かれていた。
その内容を見ると、職員はすぐにある日のメニューに目が留まった。
それは...焼肉だった。
焼肉を食べたという日は、母親の体調が悪かったため父親と渓くんの2人で食べた。
牛肉、豚肉、レバーにモツ。
父親も肉はよく焼かなければ危険という知識はあった。
特にレバーやモツはよく火を通して...父親が焼いた肉を渓くんも喜んで食べた。
こうして十分気を付けていたが、実はこの行動の中に、O157が感染した原因があった!
焼肉を焼いていた父親...実は生肉をつかんだその箸で出来上がった肉を取り分けていた。
生肉に菌が付着している場合、箸でつまんだ時点で菌は箸に移ることがある。
O157は熱に弱く、よく加熱すれば菌は死滅する。
しかし焼いた肉を皿に移す際に同じ箸を使えば、菌はまた肉に移り、体内に入ってしまう。
この親子の事件は12年前の出来事。
当時、箸で感染することなどほとんどの人が知らなかった。
自分の不注意から息子がこんな目に遭うなんて...。
なんとか助かってほしい...両親は必死に渓くんに語りかけ、尿が出るようにお守りも作った。
そして、入院から14日後。
ほんのわずかではあったがついに尿が出た!腎臓の機能が回復してきたのだ。
そして入院20日後には、意識を取り戻し...23日後には、呼びかけに反応。
さらに入院1か月を過ぎた頃には、笑顔が戻った。
そして入院から52日後。渓くんは無事退院することができた。
この出来事から12年...渓くんは現在中学生。
テニスもする、元気な15歳に成長した。
幸いにも後遺症は全くないとのこと。
そして命の危機をもたらした焼肉はというと...今でも大好きでよく食べているという。