右手を使うのが怖い芸人
飲み会が苦痛だという芸人がいる。
彼は芸歴14年目、ちょこっとダンディの『ひで麿』。
本名は佐藤秀敏。彼は長年悩まされ続けている、ある症状が...。
それは手のふるえ。芸人・ひで麿が抱えたふるえの正体とは一体なんなのか?
彼が異変を感じ始めたのは小学生のころ。
ひで麿の両親は離婚し、ある事情から祖父母と暮らしていた。
普段は何ともないのだが...なぜか細かいものをつかもうとすると手が震えた。
それは学校でも。
授業中のノートは普通に書けるのだが...先生に指名され、ひとたび前に出ると急に手がふるえ出し、自分では抑えることができない。
なぜ突然ふるえ出すのか?自分でも分からなかった。
ひで麿はそんな謎の症状を抱えたまま成長。
普段ふるえはないのだが...突如その症状が出る。
それは大事なテストの時や、細かい作業をしている時、さらに焦った時など。
ふるえが起きてほしくない時にその症状が出てしまうのだ。
やがて...学校でその症状をからかわれ始めた。
ふるえてはいけない...それが逆にふるえの引き金となる。
一体なぜ...悩んだ末、祖父に相談。
だが...祖父は、それはひで麿の気が弱いからだと一蹴した。
ただただ弱い人間なだけ...そんな自分が恥ずかしくて仕方ない。
だから、ふるえの症状が起きそうな時は逆にあえて手を派手に動かしごまかした。
すると...クラスメイトにウケた!
そして、これが自分の生きる唯一の方法だと思ったひで麿は、芸人を目指すように。
高校卒業後、上京。芸人・ひで麿として活動を開始した。
人生を苦しめる手のふるえの正体
だがその症状はおさまることはなかった。
こぼしてはいけない...そう思う時に限って症状が出る。
困ったのは目上の人とのお酒の席...注意をしても常にこぼしてしまう。
さらに、フリップを使った大喜利など最悪だった。
そんなある日...ひで麿のこの謎のふるえの正体が判明する瞬間がやってきた。
彼には当時、交際していた彼女がいた。
彼女の母親と会うことになったが緊張したのかあの症状が現れた。
すると、彼女の母が病院での診察を勧めたのだ。
ひで麿は病院へ行くという発想自体が今までなかったが、言われるがまま病院へ。
その病院で、医師から「本態性振戦」という症状を聞かされた。
「本態性振戦」とはパーキンソン病など明らかな病名がある場合を除いた、生活に支障をきたすほどのふるえを起こしてしまう症状のこと。
そもそもふるえは、脳からの信号によって起きている。
本態性振戦の場合、脳にあるふるえをつかさどる部分が過敏となり、わずかな刺激でもふるえの信号が出やすくそれによってふるえてしまう。
その原因についてはいまだ明確には分かってはないが、症状はふるえのみで高齢者に多く発症するといわれる。
精神的な問題ではなく脳の問題。
これまでひで麿自身が思っていた、自分の心が弱いという考えは誤りだったのだ。
この症状は、薬での治療もあるが、ふるえのもとになる部分に直接針を刺して電気で焼いてしまう方法や超音波の治療もある。
実際に脳の手術を行った患者は、治療後ほとんどふるえることなく改善したケースも。
ようやく自身の苦しみの原因が分かったひで麿。
特に治療することはなかったが、病名が分かり気が楽になったという。
彼は現在もこの症状と闘いながらステージに立ち続けている。