『カズレーザーと学ぶ。』今回のテーマは「皮膚」これまで知られてこなかった「皮膚」の驚くべき機能とは!?
これまで知られてこなかった
「皮膚」の驚くべき機能とは!?
『モテる香りからガンの早期発見まで“皮膚ガス”を操って人生を変える!』
人の皮膚の表面から出てくる揮発性物質の総称“皮膚ガス”は300種類以上あり、異性を惹きつけるガスやガンの早期発見につながるものまでここ10年で解明されてきたと、東海大学教授・関根嘉香は言う。
皮膚ガスが放出される経路は主に3通りある。
①血液の中に含まれる物質で揮発性を持っているものは、皮膚の表面から直接放散される。
②汗腺や脂腺・皮脂といった皮膚腺を通じて放出されるものもある。
③皮膚の表面の汗とか皮脂などが原料になりバクテリアが分解したもの。
いわゆる加齢臭と呼ばれる臭いの正体“2-ノネナール”、これは皮脂の中に含まれるパルミトレイン酸と言う脂肪酸が酸化され出てくる成分。年を重ねると、皮脂の分泌量そのものは減るが、皮脂の種類が変わり、パルミトレイン酸が多くなる。また、酸化するための活性酸素も増えてくるため、加齢と共に臭いを感じてしまうと言う。
また関根さんいわく、“2-ノネナール”を減らすにはポリフェノールを多く含んだ食べ物、例えばカシスや梅が有効。カシスを1週間(1日6g)摂取し、“2-ノネナール”が47%減少したという実験結果がある。
他にも“ジアセチル”は、皮膚表面にある常在菌により汗の中の乳酸が分解され生じるもので大体30代から40代に多いと言う。
これら加齢臭を引き起こす成分は、夕方4時から5時くらい、朝の6時から7時くらいに発散されるためその後の時間に、優しく洗い流すことで臭いを抑えることにもつながる。しかしあまり強く洗いすぎると皮膚の防御作用が働き、皮脂や汗の分泌量が増えて逆効果とのこと。
また、異性を惹きつける効果のある、モテる皮膚ガスとも言える“γ-ラクトン(ガンマラクトン)”は、腸内環境の影響を受けるため、善玉菌、特にビフィズス菌を多く含む食べ物を摂取することで増やすこともできる。代表的なものはヨーグルトだが、他にも、ビフィズス菌のえさとなるオリゴ糖を取ることで腸内環境が改善され、ラクトンの量が増えると言う。
PATMとは、一緒にいる自分以外の人がくしゃみやのどの違和感を訴え、まるで自分がアレルゲン(アレルギー症状を引き起こす原因)のようになって周囲の人に影響を及ぼす症状です。“PATM”の方が放出するガスの一つに“トルエン”という化学物質があります。通常は肝臓で分解し無害化しているが、肝臓の分解能力が落ちていると、皮膚からそのまま放出されてしまう。いまだ医学的には不明な点も多いと言われているが、腸内環境の改善や抗酸化成分を含む食品を取ることで改善したケースもある。
これら皮膚ガスは、医療の進歩にも大きく関わってきており、ガンの早期発見にもつながることが期待されている。
東海大学教授の関根嘉香
『冬の乾燥とうつの関係性 皮膚はもう1つの脳』
人体の体重の6分の1を占めている“皮膚”は、人間の中でも最大の臓器であり、ノーベル生理学・医学賞の受賞により、皮膚科学の研究分野が一躍脚光を浴びるようになったと、慶應義塾大学環境情報学部准教授・仲谷正史は語る。
皮膚にダメージを与え、赤い光と青い光を照射し、傷の修復具合を比較するという実験を行ったところ、赤い光の方が回復が早いという結果が出た。この実験を元に研究を進めていくと皮膚のもっとも外側にある、ケラチノサイトという細胞で光を感じていることがわかった(1)。
他にも、ドイツのルール大学ボーフム校の研究チームによって行われた白檀(サンダルウッド)の香りを皮膚で感じると、傷の治りが早くなるというような実験結果も紹介。香りを鼻ではなく皮膚細胞が感じることで再生能力を高めうることを明かした。
また、ケラチノサイトには、舌で感じるいわゆる酸性度やうま味、苦味などの受容体も発現してることがわかっていると言う。
皮膚の乾燥はうつ病とも関係しており、乾燥した培養皮膚と保湿された培養皮膚を比較したところ、コルチゾールの量に差があることが、実験からも明らかとなった。はっきりと脳が“ストレス”を感じる前に、既に皮膚細胞がコルチゾールのようなストレスホルモンを出しているというわけである(2)(3)。
これを受け、精神的なストレスや抑うつ状態といったものが、肌の保湿といった具体的な方法によって治療、もしくは対処できる可能性がある。
(1)出典:M. Denda and S. Fuziwara Visible Light Affects Barrier Function
(2)出典:Takei K. et al. (2013) Exp dermatol 22:662-664
(3)出典:Denda.M. et al. (2013) Medical Hypothesis 80:194-196
慶應義塾大学環境情報学部
准教授・仲谷正史
『あなたの細胞を簡単・安全に作り直す!?ダイレクトリプログラミングを徹底解説』
“リプログラミング”とは、いわば細胞の運命を作り変える技術で、簡単で安全に、体のあらゆる細胞を新しく作り出そうという研究が世界中で行われていると、中国の医師免許も持つ、再生医療のスペシャリスト・飯塚翠は解説した。
再生医療で注目されたのが、京都大学の山中伸弥教授の発見したiPS細胞。iPS細胞に、色々な化合物を加えることによって、「皮膚の細胞になりなさい」「骨の細胞になりなさい」と運命付けることができる。これを医学的に言うと“分化誘導”と呼び、これにより体のあらゆる細胞や組織を作り出せる。例えば脊髄損傷で神経細胞が傷ついて、神経の細胞が必要ですとなった場合、体の外でiPS細胞から神経細胞をいっぱい作り、そのできた神経細胞を移植してあげるという治療を可能にした。ただiPS細胞内で分化に適した細胞を探すのに時間がかかり、また、iPS細胞を作る際に入れる遺伝子(転写因子)により腫瘍化のリスクもあると言う。
ダイレクトリプログラミングというのは、iPS細胞を介さずに、直接遺伝子(転写因子)を入れることでいきなり皮膚の細胞に、「脳の細胞になりなさい」という指令を出すことで脳の細胞を作るというもの。
皮膚の細胞から肝臓の細胞を作る研究をしている九州大学の生体防御医学研究所・鈴木淳史教授の研究では、細長い皮膚の線維芽細胞からiPS細胞を挟まず、大量の肝細胞を生み出すことに成功したと言う。例えば肝硬変や急性肝不全などを発症した場合、従来は臓器移植しか道がなかった。しかし、この技術が進めば、肝細胞を作り、生体内に移植、臓器を再生することも可能になる。
実際にこの技術を用いて作った肝細胞を、急性肝不全を患ったマウスの肝臓付近の血管に注射すると、何も移植をしない場合たった2割のマウスしか生き残ることができなかったが、8割のマウスが生き残る、ということが実験により明らかになった。
この方法で、骨の細胞を再生すれば骨粗しょう症を、血糖値を下げるインスリンを作る細胞を作り出せば糖尿病を治癒することもできると、飯塚さんは語った。ただ、染色体を傷つける可能性やがんのリスクもあり、実用化は早ければ数年後と付け加えた。
続けて、再生医療の最先端として“ナノチップ”を使ったダイレクトリプログラミングも紹介。これは、アメリカのインディアナ州立大学のチャンダン・セン博士により発明されたもので、細胞の運命を変える色々な遺伝子(転写因子)を入れる際の“入れ方”がこれまでとは大きく異なる。化学物質やウイルスを使わず電流を用いるのだが、転写因子が乗ったチップを傷ついた皮膚の上に置き、微弱な電流を流すことで、生まれた細胞のすきまから遺伝子を入れ込むと解説。
この方法だと拒絶反応のリスクも減らすことができ、加えて大量生産自体も可能とのこと。また、実用化については、今アメリカのFDA(アメリカ食品医薬品局)に申請作業中で、「(申請が通れば)早ければ1年とか、1年ちょっとで臨床試験が可能になる」と予測した。
再生医療専門家で医師の飯塚翠