太平洋戦争真っ只中の広島。
主人公・すずは、海苔屋の長女で、絵を描くのが好きなごくごく普通の女の子。
幼少期に一度だけ出会った顔も覚えていない人に嫁ぐため、広島市から呉へ向かう。
新しい家族、新しい街、新しい世界に戸惑いつつも、すずは天性の大らかさで明るく過ごす。
北條家に嫁ぎ、あくせくしてる間に、ようやく呉の街にも馴染んできたすず。
ある日、すずにリンという友達が出来る。道に迷っていた時、優しく教えてくれたのがきっかけだった。
彼女は娼婦だったが、すずはそんなことは関係なく彼女と接する。
しかし、彼女は夫・周作の結婚前に密かに通じ合っていた女性だった。
偶然にもすずは、過去に夫・周作とリンとの間にあったことに感づいてしまう。
自分は夫にとってリンさんの代用品かもしれない…
拭えない気持ちを言えずに抱えるすず。
そこへすずの広島の同級生であり、初恋の人であった水原が現れる。
水原は戦地の経験を経て、すずへの想いを告げに来たのだった。
水原の気持ちを嬉しく思いつつ、夫のことが許せず、夫のことばかりで頭がいっぱいのすず。
もう心から夫を愛するようになっていた。
一方、すずの戸惑いを見抜いたリンは、「秘密は秘密にしておけば、無かったのと同じ」と意味深な言葉を残し、姿を消す。
そんな中、戦況は日ごとに厳しくなり、配給も乏しく日々の生活にも陰りが…。
広島の実家では、戦地に赴いた兄が、たった一粒の石となって帰ってくる。
そして昭和20年3月、ついに呉の街にも大規模な空襲が。
たまたまおじの見舞いに姪っ子を連れていたすずは、防空壕から出て時限爆弾に遭遇。
爆発に巻き込まれて右腕が吹っ飛び、その腕の先に繋いでいた姪っ子は亡くなってしまう。
「人殺し! あんたがついていながらなんで、あの子が!」義姉になじられるすず。
「やめなさい! すずさんが生きていただけでもよかったんだよ。」義姉をたしなめる義母。
(本当に? 本当によかったの? すいません。すいません。私が生きていてすいません。)
それ以後、世界が歪んでいるように見えるすず。一度は実家に帰ろうとするが、娘の死を乗り越えた義姉により、思いとどまる。
その矢先、広島に原爆が落ち、実家の家族の消息が途絶えた。
容赦なく襲い掛かる戦争の恐怖。他を虐げ、自らも虐げられた国の敗戦。
すずは、この世界の片隅で生き抜いて、その姿を記録していくことを決意するのだった。