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1998年に購入された作品だが、長期にわたる修復作業などのためにルーヴル美術館でも未だ公開されていない。小品ながら欠損が少なく、翼や衣などの表現に古代のブロンズ鋳造技術の高い水準を見せてくれる。ルーヴル美術館の階段室を飾る《サモトラケのニケ》で有名なニケは、戦いの際に勝利を約束された側に舞い降りてくる、翼を持った勝利の女神とされる。しかし、そうした重要な決定は神々や運命の三女神などによってなされ、ニケはそれを伝達する使者としての役割を担う。翼も休めずに、衣をたなびかせながら、右手を挙げて勝利を宣告するこのニケの姿は、将兵たちが待ちに待った瞬間で、厳格な祭儀に則って執り行われる公的な宗教儀式とは別次元の、当時の人々の素朴な信仰心が伝わってくる。 |
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