GALLERY 作品紹介
◆ エピローグ ◆
第3章 アルチンボルド―肖像の遊びと変容
本展を締めくくるのは、16世紀後半に活躍した奇才の画家、ジュゼッペ・アルチンボルドの「四季」連作に属する2点の傑作、《春》と《秋》です。
ハプスブルク家の宮廷で三代にわたる神聖ローマ皇帝に仕えたアルチンボルドは、さまざまな動植物や事物を寄せ集めて構成し、複雑な寓意を込めた奇抜な人物画によって、絶大な人気を博しました。その人気を支えていたのは、彼の絵画の最大の特徴である「多義性」です。
《春》を例にとってみましょう。鑑賞者は、《春》のなかに人物の姿を見ながら、同時にそれを構成する花の一つひとつを識別することができ、1点の絵画を肖像画としても静物画としても楽しむことができます。また、多種多様な植物が寄せ集まったイメージには、「春」の季節の寓意と同時に、森羅万象を掌握するかのような強大な権力の隠喩を読み取ることができるでしょう。表現と意味内容のいずれにおいても多義性をもつこうしたイメージは、人文主義に根ざしたルネサンスの宮廷文化のなかで、視覚と知性の双方を楽しませる奇想として支持を得ました。
ただ一人の人物に似ていること―「肖似性」を本来的特徴とする肖像は、多義性とは相容れないように思われます。しかし興味深いことに、ルネサンスから20世紀のシュルレアリスムに至るまで、多義性を帯びた奇想が最も華々しく展開された芸術ジャンルは、肖像でした。本章では、見る人の視線によって多義的イメージに変容する肖像の醍醐味を、アルチンボルドの作品を通して堪能していただけるでしょう。
ハプスブルク家の宮廷で三代にわたる神聖ローマ皇帝に仕えたアルチンボルドは、さまざまな動植物や事物を寄せ集めて構成し、複雑な寓意を込めた奇抜な人物画によって、絶大な人気を博しました。その人気を支えていたのは、彼の絵画の最大の特徴である「多義性」です。
《春》を例にとってみましょう。鑑賞者は、《春》のなかに人物の姿を見ながら、同時にそれを構成する花の一つひとつを識別することができ、1点の絵画を肖像画としても静物画としても楽しむことができます。また、多種多様な植物が寄せ集まったイメージには、「春」の季節の寓意と同時に、森羅万象を掌握するかのような強大な権力の隠喩を読み取ることができるでしょう。表現と意味内容のいずれにおいても多義性をもつこうしたイメージは、人文主義に根ざしたルネサンスの宮廷文化のなかで、視覚と知性の双方を楽しませる奇想として支持を得ました。
ただ一人の人物に似ていること―「肖似性」を本来的特徴とする肖像は、多義性とは相容れないように思われます。しかし興味深いことに、ルネサンスから20世紀のシュルレアリスムに至るまで、多義性を帯びた奇想が最も華々しく展開された芸術ジャンルは、肖像でした。本章では、見る人の視線によって多義的イメージに変容する肖像の醍醐味を、アルチンボルドの作品を通して堪能していただけるでしょう。
エピローグ ◆ アルチンボルド―肖像の遊びと変容
ジュゼッペ・アルチンボルド
《春》
1573年 油彩/カンヴァス 76×63.5 cm
ミラノ出身のアルチンボルドは、1562年にハプスブルク家の宮廷に招聘され、ウィーンとプラハで三代にわたる神聖ローマ皇帝に仕えました。《春》は、皇帝マクシミリアン2世からザクセン選帝侯への贈り物として、1573年に制作された4点組みの「四季」連作に属する作品です。その構図は、約10年前の1563年にマクシミリアン帝自身のために制作された同主題の作品とほぼ同じですが、四辺の花綱飾りは後世の加筆と考えられています。肖像画の伝統的な形式を踏襲した横向きの人物像は、約80種にも及ぶ世界各地の春の草花で緻密に構成されています。アルチンボルドは、珍しい動植物を含むマクシミリアン帝の植物園や動物園で自由に写生することができました。多種多様な草花からなる「春」の奇妙な肖像は、万物を掌握し、統治する皇帝の権力を象徴してもいるのです。