07/08/06 OA
海の墓場に明かりを灯した男たち
今からおよそ200年前。イギリス北東部に広がる北海で
次々と船舶事故が発生、多くの人々が命を落とした。
その原因は、「ベルロック」と呼ばれる巨大な岩礁が
満潮時に水中へ隠れる事によって、船が岩礁に乗り上げてしまう事だった。
すると、「この岩礁の上に、いち早く危険を察知できる灯台を建てるべきだ」と
主張するひとりの若き技術者が現れた。
この男の名は、ロバート・スティーブンソン、30歳。
しかしその構想は、これまで誰も成しえなかった空前の大事業。
なぜなら、ベルロック岩礁の岩肌が海面上に姿を現しているのは、
潮が引いている2〜3時間だけ。
つまり、この短い時間で建設作業を進めるのは、不可能だと考えられたからだ。
だが、スティーブンソンは、事故を減らしたい!と灯台建設案を議会に提出。
しかし議会は、具体性に欠ける無謀な試みとの理由で
スティーブンソンの計画案を却下したのである。
だが、そんな中、イギリス史上最悪ともいえる船舶事故が発生。
1804年、北海を航海中の戦艦ヨーク号がベルロック岩礁に乗り上げ、
船員500人が全員、死亡してしまったのである。
これによって、議会は灯台の建設を許可。
ロバート・スティーブンソンに、現場の指揮をとるよう命じたのだ。
彼の灯台建設計画は、
[1] 岩礁を掘り進め、地盤を平らにならし基礎を作る。
[2] その上に巨大な円形状の土台を置く。
[3] ひとつずつ石を積み上げていく。
というもの。
スティーブンソンは早速、各分野の職人たちを集め、
「共に生涯に残る仕事をしよう」と訴えた。
すると、実に60人もの職人が、彼に賛同したのである。
こうして、1807年夏。
スティーブンソンと職人たちは、作業を開始した。
彼らは、満潮が近づき、岩が水面下に沈み始めると、ボートで移動し、
安全な場所に停泊している船の上で生活した。
するとスティーブンソンは、この船への往復時間が無駄だと考え、
彼は岩礁の上に宿舎を建てることを思いついた。
多少の危険は伴うが、その宿舎で寝泊りをして作業を行おうと考えたのだ。
そんなある日、事件が・・・
スティーブンソンが、満潮時の時刻を読み間違えてしまったために、
職人たちの足元に海水が忍び寄り、全員の命が危機にさらされたのである。
このときは、偶然通りかかった貨物船に救出され、何とか助かったものの、
今回の件で職人達は、スティーブンソンに対し、不信感を抱き始めたのだ。
さらにその後、16歳の小型船操縦士・スコットが、
作業中に誤って海に落下し、命を落とすと言う事故が発生。
これによって、スティーブンソンと職人たちの間にますます深い溝が…。
そんな彼らに追い討ちをかけるように、ベルロック岩礁の宿舎を嵐が襲った。
「このままでは命が危ない!」
宿舎で待機する職人たちの不安が最高潮に達する。
だが、スティーブンソンの設計した宿舎は、嵐にびくともせず、
職人たちの命を救ったのである。
これによってスティーブンソンは、職人たちの信頼を取り戻し、
一致団結して作業を進めることが出来るようになったのだ。
こうして、建設開始から4年目の1811年11月。
職人たちと共に、ついにベルロック灯台を完成させた、スティーブンソン。
そして、この灯台は、200年近くたった今でも、
北海に安全の光を灯し続けているのだ。