コオロギ格闘技、<闘蟋(とうしつ)>。
これは、コオロギ達の戦いで、中国ではおよそ1200年も昔から、
宮廷内の貴族達の娯楽として親しまれていた。
それがやがて、気軽に楽しめる遊びとして庶民にも定着し、
現在でも、1千万人を超える、熱狂的な闘蟋ファンがいると言われている。
その試合方法は、
まず、プラスチック製のリングに、対戦するオスのコオロギを入れ、
専用の棒で触覚を刺激。
こうして、闘争本能をかきたてたところで、仕切りをはずすのである。
実は、オスのコオロギは縄張り意識が強く、こうすることでバトルが始まるのだ。
そして、縄張り争いに勝ったコオロギは、勝どきの鳴き声をあげる習性がある為、
これが、試合の勝敗を見極めるポイントになる。
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この闘蟋は、中国では毎年、チーム対抗戦による全国大会まで開かれているが、
決して高額な賞金がかけられているわけではない。
この伝統競技の頂点に立つこと、それが男たちの名誉であり、誇りなのである。
そんな過酷な全国大会を、何度も制したツワモノが北京にいた。
それが、ヤン・ウェイトウ。
彼は、今回の大会で勝てる、強いコオロギを手に入れるため、
コオロギの名産地、山東(サントン)省のネイヨウ郡に向かった。
ここは、黄河流域の湿り気のある大地と、涼しい気候によって、
屈強なコオロギがよく育つと言われている地域で
毎年、中国全土から100万人を超える人々が、コオロギを買いに訪れるのだ。
その売上げは、なんと14億円にも上るといい、
村の農夫達にとっては、まさに貴重な副収入!
強いアゴとキバ、踏ん張りをきかせる為の後ろ足が太い、などの条件を
全て満たした最強クラスのコオロギになると、1匹10万円の値段で売れるため、
村の人達は夜通し、コオロギ探しに打ち込むのである。
そんな村で、試合用のコオロギを150匹購入した、ヤンさんは、
北京の自宅へ戻り、コオロギたちを飼育する。
実は、コオロギには「養盆(ようぼん)」と呼ばれる、個室の鉢があり、
その中には水入れ皿やエサ皿、さらには、コオロギ専用のベッドまで完備。
食事も、エビやカニの身をペースト状にした特製のエサを与え、
さらには、コオロギ専用のお風呂まで用意されているのである。
そして、全国大会の予選リーグの日。
試合会場となる北京の国立会館には、18チームのツワモノ達が集結した。
その中には、北京チームを率いるヤンさんの姿が。
まず、コオロギたちは量りにかけられ、厳正な体重測定が行われる。
そして階級別に、ライト級、ミドル級、ヘビー級と分けられ、
1チーム7匹のコオロギによる対抗戦が行われるのだ。
その試合では、数々の技が繰り広げられる。
まずは、「打撃」。間合いをつめると、頭で一撃。
続いて、アゴの力だけで投げ飛ばす「投げ技」。
さらには、アゴを使っての「絞め技」など、
我々の想像を超える、壮絶な死闘が繰り広げられているのだ。
ヤンさん率いる北京チームの第1試合は、天津(テンシン)チームとの対戦。
すると、北京チームのコオロギが豪快な投げ技で、見事な勝利。
その後も順調に勝ち星をあげ、北京チームは決勝大会進出を決めた。
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数週間後、決勝リーグに挑んだ北京チーム。
1回戦は、驚異的な強さで圧勝したが、
2回戦で、優勝候補である蘇州(そしゅう)チームに敗退。
ヤンさん率いる北京チームは、惜しくも3位という結果に終わってしまったのである。
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