日本の最高峰、富士山。その高さ、3776m。
だが世界には、富士山よりも高い山を走るマラソンレースが存在する。
それが、アフリカ・カメルーン共和国で行われる、カメルーン山マラソン。
高さ4095mのカメルーン山を一気に駆け上がり、頂上で折り返して駆け下りる。
距離は、フルマラソンとほぼ同じ42キロ。
およそ半数の選手が完走できずに脱落する、超過酷なレースなのである。
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だが、そんなこのレースで、これまで7回もの優勝を飾った女性ランナーがいた。
カメルーン山のふもとの街ブエアに住む、サラ・エトンゲ(37歳)。
「山の女王」と呼ばれるサラは、7人の子供を持つ母親で
大会の賞金によって家計を支えていた。
そう、レースの優勝者には、カメルーンの平均年収のおよそ7年分という、
破格の賞金が与えられるのである。
だが、そんなサラを脅かすライバルが現れた。
それが、キャサリン・グワング(26歳)。
名門陸上クラブでトレーニングを積み、この6年間で3度の優勝。
次の女王を狙う、新進気鋭のランナーである。
カメルーン山マラソンは、「成人男子の部」「成人女子の部」
「20歳以下の青年の部」の3部に分かれて行われる。
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そして、青年の部の注目選手が、ピエロ(17歳)。
彼はなんと、山の女王サラの息子。小さい頃から、母が走るのをずっと見ていて、
自分も、母のようになりたいと思ったのである。
一方、全くの無名ながら、青年の部の優勝を狙っているのが、
マックス・ムワンボ(17歳)。
彼の父親ジョンは、第一回大会の優勝者。
だが、今は世間から忘れ去られ、ひっそりと暮らしている。
そんな父の無念を晴らすべく、自分が変わりに走ろうと決意したという。
だが、大会の日が迫ったある日、山の女王サラにアクシデントが。
練習中に転倒して、両膝を痛めてしまったのだ。果たして、大会までに治るのか?
大会当日、およそ400名の選手が集まり、レースがスタート。
山の女王サラの若きライバル、キャサリンは快調な出だし、女子の第2位に。
だが一方、サラは遅れている。まだヒザのケガが完治していないのか・・・
そしてレースの舞台は、山へ。
成人男子の上位選手たちが、次々と斜面を駆け上っていく。
と、そこへ、サラの息子ピエロが現れた。彼は現在、青年の部のトップ。
一方、初代チャンピオンの息子、マックスは2位集団に。
続いて山に入ってきたのは、キャサリン。
遅れてサラが現れるが、体をくの字に曲げ、実に苦しそう。
そしてレースが、山の急斜面へと差し掛かると
選手たちは道なき道を一歩一歩登っていくのがやっと。
だが、サラがここにきて、ペースを上げ始めていた。さすがは山の女王。
ひざの痛みをこらえ、どんどん登っていく。
そして、ついにライバルキャサリンをとらえ、一気に2位に浮上!
しかし、本当にきついのはここから。
この日、山頂付近は霧に覆われ、強風が吹き付ける最悪の天候。
急激な気温の変化が選手たちの体温とスタミナを、容赦なく奪っていく。
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高山病で、意識が朦朧としてしまう選手や、下りの急斜面に足が付いていかず、
座り込んでしまう選手もいる。
そんな中、先に山頂に現れたのはキャサリンだった。
彼女は再びサラを抜き返していたのである。
続いて、サラが到着。苦悶の表情を浮かべながらも、あきらめずに折り返していく。
こうしてレースは、下りへ。ここで急激に増えるのが負傷者。
疲れ果てた選手たちが、下り斜面に足を取られ転倒するのだ。
そして、そんな難所をサラが下りきった、その時、彼女のうしろについて
観客たちが走り始めたのである。サラを最後まで見届けようというのだ。
こうして勝負は、街中へ。
すると、キャサリンにアクシデントが。何と、シューズが壊れてしまったのだ。
それでも彼女は裸足のまま、スパートをかける。
と、その後ろに、大勢の観客を引き連れて走る、サラの姿が!
果たして、キャサリンを、追い抜くことは出来るのか・・・
そして・・・結果は、キャサリンがそのままゴール。3位となった。
一際大きな声援を浴びてゴールへと向かったサラだったが、4位に。
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一方、青年の部は、サラの息子ピエロが3位入賞、
初代チャンピオンの息子マックスは、9位と言う結果となった。
世界に類を見ない過酷なレース、カメルーン山マラソン。
今回を最後に、サラは現役を引退した。
だが来年もまた、激しいレースが繰り広げられるに違いない。
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