タイ北東部の小さな村、バーンコークサガー。
ここに住む、8歳の少年、タックはある夢を持っている。
それは、「スネークファイター」になること。
|
|
バーンコークサガーは、スネークファイターの村。
大人たちが戦うのは、何と体長5m以上!象をも倒す危険なヘビ「キングコブラ」。
スネークファイターたちは、そんなキングコブラを激しく挑発し、
その攻撃を紙一重でかわして見せることで収入を得ているのだ。
特に、花形スネークファイターともなれば実入りはいい。
まだ8歳のタックがスネークファイターを目指すのも、お金が稼ぎたいからであった。
実はタック、今から3年前、5歳の時に父親を事故で亡くしていた。
そこで彼は、一刻も早く家計を支えたいと考え、
わずか6歳で、村一番のスネークファイター・トンカムに、弟子入りを志願したのだ。
そんなタックの熱意に打たれたトンカムは、弟子入りを許し、
以来タックは、トンカムのそばで、戦いのテクニックや、
舞台を降りた後のヘビの世話などを学ぶこととなったのだ。
スネークファイトは、一試合が2分。
その間、キングコブラの攻撃をあえてギリギリでかわし続けるのだが、
それは当然ながら、かなり危険な行為。
師匠トンカムでさえ、これまでキングコブラにかまれ、
命を落としかけたことが4回もあるという。
そして、タックに、念願のデビュー戦が決まった。
その舞台は、村最大のイベント・キングコブラ祭り。
数千人もの観光客が、国の内外から詰め掛ける、大イベントである。
タックはさっそく特訓を開始。相手は、毒こそないが、すばやい強敵・ネズミヘビ。
|
|
懸命に攻撃をかわす練習をするが、なかなか思うように行かない。
そんな特訓の様子を見て、心配で涙するタックの母親。
だが、師匠のトンカムは、さらなる課題をタックに与えた。
それは、ヘビの頭にキスをすること。
スネークファイターの初級テクニックだが、タックにとっては勇気のいる技だ。
そして、トンカム自身も、キングコブラ祭りで、ある危険な挑戦を行う。
それは、野生のキングコブラと戦うこと。
人間に慣れていないため、飼われているものより攻撃的なのだ。
過去には、ステージ上で噛まれ、命を落としたスネークファイターも多い。
まさに、命がけの挑戦。
しかも、トンカムは、今回新たな技を披露するという。その技とは・・・
キングコブラの前に指を突き出し、全神経を集中、
ゆっくりと胴体に手を伸ばし、キングコブラを直立させたまま、持ち上げる。
これぞ新技、「浮かぶキングコブラ」。
コブラが、簡単に噛み付ける距離で行われる、危険な技なのだ。
そして、何より危ないのが手を離す時。
コブラが怒り出す直前に、すばやく手を離さなければならない。
こうして、二人の特訓は続いた。
祭り当日。タックがデビューする晴れの日だ。
会場には多くの観光客がつめかけ、
スネークファイターたちの戦いぶりに歓声を上げる。
そして、村のナンバーワン・スネークファイター、師匠トンカムの出番。
すると、野生のキングコブラが、いきなり襲い掛かった。
そのまま、激しい連続攻撃を仕掛けてくる。
トンカムは、それを紙一重でかわしながらも巧みに挑発。
細かく動き回り、狙いを絞らせない。観客も固唾を呑んで戦いを見守る。
と、ここでトンカムが両手を構えた。
いよいよ新技、「浮かぶキングコブラ」を繰り出そうというのだ。
果たして野生のキングコブラ相手に、成功するのか?すると・・・
キングコブラが動きを止めた。
直立したまま、宙に浮くように持ち上げられていく。そして・・・
無事に手を離し、見事に決まった。
トンカムは、野生のキングコブラとの戦いに勝利したのである。
そして、ついにタックの出番がやって来た。
かわいらしいスネークファイターの登場に、客席から笑みがこぼれる。
相手となるネズミヘビが登場し、いよいよデビュー戦の開始。
タックは、シッポをつかんでヘビを挑発。
ネズミヘビもすばやい動きで反撃、大きく口を開け、タックを威嚇する。
タックも負けじと懸命に動く。
心配そうに母親が見守る中、タックのファイトぶりに、客席は大いに盛り上がる。
そして、ヘビの動きが止まったところで、すかさず頭にキス。だが!!
顔を噛まれてしまった。
それでもタックは臆せず、ヘビへ立ち向かっていく。そして、思わぬ技を出した!
指をヘビの前に差し出し、軽く噛ませると、そのまま持ち上げたのだ。
これぞ、「浮かぶネズミヘビ」。
師匠の技「浮かぶキングコブラ」を、自分なりに応用してやってみたのである。
こうして、タックは無事デビュー戦を飾った。
盛大な拍手をくれた観客にお礼の挨拶をすると、
タックはすぐさま母親の元に駆け寄り、その胸に抱きついた。
スネークファイターから、8歳の子どもに戻った瞬間であった。
タックは、いつか、師匠を超える立派なスネークファイターになりたいという。
小さな村の伝統は、澄んだ瞳を持った小さな戦士によって、受け継がれていくのだ。
|