インド北東部の小さな村<ラブール・コダール・カティ>。
ここに、村人たちから注目される、ひとりの少女がいる。
<ラクシュミ・タトゥマ>ちゃん2歳。
あどけない表情は、ごく普通の女の子だが、
村人たちは「神様の生まれ変わりだ」と信じている。
その理由は、彼女には手足が8本があるからなのだ。
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これは、極めて稀な肉体を持ち、神として崇拝された少女と、
彼女を支える家族の姿を追ったイギリス制作のドキュメンタリー番組。
『女神と呼ばれた少女』
小さな村で、平穏に暮らしていたシャンブー・タトゥマと妻のプーナム。
しかし、プーナムが女の子を出産すると、生活は一変することに。
女の子が、計8本の手足を持って生まれてきたのだ。
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ヒンズー教が広く信仰されるインドでは、複数の腕を持ち富と幸運をもたらす神様、
女神『ラクシュミー』が、古代から人々にあがめられている。
最初は驚きを隠せなかった両親だが、
生まれてきた女の子を女神『ラクシュミー』の生まれ変わりと思い、
女神と同じ名前を付けることにしたのだ。
すると、この女神誕生話は、またたくまに、村中に広まっていくことに。
【あの子は女神の生まれ変わりだ】
多くの村人たちが集まり、彼女を神様の生まれ変わりだと崇拝する毎日。
しかし、大都市バンガロールで総合病院を経営する小児外科の権威、
シャーラン・パティル医師の見解は、全く異なっていた。
「一刻も早く治療を行わなければ、命に危険がおよぶ可能性がある。」
そう考えたバティル医師は、直ちにラクシュミのいる村を訪れ、
両親にラクシュミの体の状態を確認したいと伝えた。
この時初めて、パティル医師がその目で直接ラクシュミの体を確認すると
健康な4本の手足の下に動かぬ4本の手足をもつ別の胴体がついていた。
彼女は、極めてまれな<寄生体>だったのだ。
寄生体とは、双子の体の一部が結合して生まれることで、
その原因は、いまだ解明されていない。
ラクシュミの場合、母親のお腹で育った双子の1人が生を受けることができず、
その首から下の部分が、ラクシュミの体に結合していたのである。
この結合した部分が壊死すると、ラクシュミの心臓に重大な障害を
及ぼすことがあり、
医師は、このままではラクシュミの命が危険だと伝え、
手術費用を病院が全額負担する条件で、
両親に、ラクシュミの結合した体を切り離す、分離手術をすすめた。
しかし、彼らには、パティル医師の話を簡単には受け入れられない理由があった。
それはラクシュミの4本の手足を切り離すことは、
彼女を女神の生まれ変わりと信じ崇拝する村人たちの思いを
裏切ってしまうのではないかということ。
2人は、大きな選択を迫られることに。
そして一晩中、話し合った2人は、分離手術を受けさせる決断を下した。
神様の生まれ変わりとして育てるよりも、娘の命を救うことを選んだのだ。
両親は、そんな強い想いを胸に、パティル医師の経営する病院へ
ラクシュミを連れてやってきた。
勇気ある決断をした両親のためにも、必ず手術を成功させると誓った医師たちは、
ラクシュミに、様々な精密検査を行う。
すると、ラクシュミの体には正常な心臓と2つの肺、肝臓があるものの、
腎臓が1つしかなく、もう1つの腎臓は結合した部分の中にあるということが
わかった。
医師たちは、ラクシュミの精密検査に実に1ヵ月を費やし、慎重に進めていく。
一方、わずか2歳の少女の大手術は大きな話題となり、
病院に駆けつけた多くのマスコミを通して、インド中の国民が注目することになった。
手術当日。
担当するのは、パティル医師をリーダーとした総勢30人ものエキスパートたち。
まず、ラクシュミの結合部分から、腎臓を取り出し移植することから始まった。
医師たちの懸命な作業が続き、腎臓移植はどうにか無事成功。
しかし、ここまでで手術開始からすでに12時間。
そして、いよいよ結合した体を分離する作業に入ることに。
特殊な器具を使い、慎重に背骨を切断。
もしも中の脊髄に大きなダメージを与えれば、
ラクシュミは永久に歩けない体になってしまう。
0.1ミリ単位の緻密な作業を続け、骨盤に切り込みを入れ、正常な形に作り直す。
こうすることで、2本の足がまっすぐ下に伸びるようにするのだ。
ようやく手術は最終段階。
医師たちは、切断箇所を丁寧に縫合。
そして、ラクシュミの足がギプスで固定され、
実に、27時間にも及んだ大手術は見事成功に終わった。
医師たちの顔に、安堵の笑みがこぼれる。
パティル医師は、まっさきに両親のもとへ。
「手術は成功しました。笑う時がきましたよ。」
しばらくして、ラクシュミの病室を訪れた両親は、手術後初めて娘と対面。
「私のかわいい子や」そう呼びかけると、プーナムは、
娘の足がまっすぐついていることを、その目でしっかりと確認した。
しかし…手術後、ラクシュミの姿をひと目見ようと、
連日、病室に押し掛ける多くのマスコミ。
両親はそんな報道陣を必死に追い払ったが、その騒ぎは、いっこうにおさまらず、
1ヵ月後、マスコミから逃れるように病院を後にしてしまう。
村に戻ることをやめた家族は、遠く離れた静かな街で暮らすことに決めた。
娘の幸せが何よりの幸せと話す両親は、障害者のための学校にラクシュミを
通わせ、毎日リハビリを行いながら前向きに生きている。
そして医師たちもまた、近い将来、
ラクシュミが自分の足で歩けるまでに回復する日が必ず来るはずだと信じている。
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