夏から秋にかけて活発に活動する虫、カミキリムシ。今回、捕まえようとして鮮やかに指をかまれてしまった科学の素浪人・矢野左衛門が飼うことにしました。しかしカミキリムシの“カミ”って、紙?髪?なかなか知られていないその生態を、今回「目がテン!」が解き明かします。
江戸時代に出版された重修本草綱目啓蒙という本に、カミキリムシという名前の意外な由来が載っていました。それは「髪をも良く切る」…「紙」ではなく、「髪」!ならばと、やってきたのがカリスマ美容師で有名な、ザック。矢野左衛門、何と無謀にもカミキリムシで女性の髪をカットしてしまおうという、史上初の実験にチャレンジです。選ばれたのは、本当にたまたまお店に来た女子高生、コギャル。ハサミをカミキリに持ち替えて髪の毛に当ててみると、切れるには切れるけれど量が少ない。そこで6人がかり、いや6匹がかりで切ってみると、切れる、切れる、実験は大成功。見事5センチのカットに仕上がりました。電子顕微鏡でハサミとカミキリのそれぞれの切り口を調べてみると、ハサミに比べるとやや周辺がささくれているものの、髪の中心部の痛みは少なく、意外ときちんとカットされています。更にカミキリのアゴをアップで見てみると、歯が鋭いうえにノコギリ状になっています。これが良く切れる秘密でした。
矢野左衛門の飼っているカミキリムシの所になんと子猫が!危うしカミキリムシ。ところが矢野左衛門が駆けつけると、何と子猫はしっぽを巻いているではありませんか。何とカミキリムシは、裏返しになったところに入ってきた猫の手に、思いっきりかみ付いていたのでした。これでは猫もたまりません。そこで、どのくらいかむ力があるのか測定です。普段使っている圧力測定器は、紙で出来ているのでかみ切られてしまう為、特製のセンサーを用意して測ってみました。すると結果は959g。ちなみに同じアゴの構造を持つクワガタムシを測定すると646g。このカミキリムシの体重は45gなので、実に体重のおよそ21倍もの力でかんでいるのです。
| カミキリのかむ力をヒトに置き換えると、なんと1tクラス!
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そんな強いアゴを使って、カミキリムシは一体何を食べているのでしょう?まずは林の中でカミキリの幼虫を探してみると、木の奥深くに棲んでいました。実はカミキリムシの幼虫は、木を食べているのです。幼虫の体内には、木の主成分のセルロースを分解する酵素が有り、さらにこの後、タンパク質に合成して栄養補給しているのです。しかし成虫になると種類によって食べるものが違います。主に葉や茎を食べるもの、木の皮を食べるもの、花の蜜を吸うものと分けることが出来ますが、それは口の向きで見分けることが出来ます。口が下向きについているカミキリムシは、葉や茎、木の皮などが食べやすくなっていて夜行性です。一方ハナカミキリ類は、昼に行動し、花の蜜を吸いやすいように口が上向きについています。カミキリムシを飼うときは、口の向きにご注意を…。
最近、カミキリムシにあらぬ疑いがかけられています。それは、松を枯らしているということ。ここ10年ほどで、松は劇的に枯れ続けているのです。矢野左衛門がその疑いを晴らすべく調査開始です。すると、松の木にマツノマダラカミキリというカミキリムシを発見。木の中には確かに、木を食べる幼虫がいました。
しかしかなり小さな虫です。これでマツが劇的に枯れるとも思えません。そこでその成虫を解剖してみました。すると、体内にたくさんのマツノザイセンチュウというちいさなセンチュウが寄生していました。このセンチュウは松の細胞をエサとして食べ、その際に水を運ぶ仮道管という大切な器官を壊してしまいます。そのため、木が衰弱して枯れてしまうのです。カミキリムシがセンチュウのいる木に卵を産みつけると、その木で育った幼虫がさなぎになったときにセンチュウが幼虫の体内に進入します。そして成虫になったカミキリムシが別の松の木に卵を産むというサイクルを繰り返すことによって、大規模な松枯れが起きるのです。カミキリムシは、松枯れの直接の犯人ではなく、単なる運び屋だったのです。逆にカミキリムシが傷つけた木の穴は、そこから流れる樹液によって昆虫たちの絶好のエサ場となったり、棲み家となったりと、とても大切なものなのです。またカミキリムシの幼虫はキツツキの餌となるなど、カミキリムシ自体は自然界に無くてはならない存在なのです。
| 松枯れの犯人は、マツノザイセンチュウ。カミキリはマツノザイセンチュウに利用されていただけ!
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