開催中のシドニーオリンピック。9月24日に始まるのが、日本が強い競技の一つ、シンクロナイズドスイミング。でも、先週に続いてなぜか登場するのが科学の素浪人・矢野左衛門。いったいなぜ矢野左衛門がシンクロ？
それはとある日のこと。矢野左衛門のTVに突如映った「犬神家の一族」。そこで矢野左衛門が目にしたのが、有名な沼から足が2本出ている映像。「これだ！」実はこれは登場人物・佐清（すけきよ）が死体で発見される場面なのです。「この妙技、佐清もぐりに挑戦したい！」思わぬ所で矢野左衛門の挑戦が始まりました。
ところが矢野左衛門は首を痛めており、挑戦断念。助太刀と名乗りをあげたのが、北海道出身で泳ぎには全然自信の無い湊 真九郎（みなと しんくろう）。はたして彼は佐清もぐりを成功させる事が出来るのでしょうか？
佐清潜りは、シンクロの世界ではちゃんとV字というキチンとした名前が有りました。真九郎が早速挑戦。しかし足を上げるとなぜか体が沈んでしまいます。実はここに浮力という大きな問題が有りました。
水に浸かった物体には重力と反対に、浮力という力が働いています。水中で物体が浮いている時には、浮力と沈もうとする重力が釣り合っています。人間が浮いている時も、手や足、胴体などの各部分それぞれにおいて重力と浮力が釣り合い、結果として全体でもバランスが釣り合って浮いているのです。しかし、手や足を水面から出してしまうと、出した部分にかかっていた浮力が無くなり、全体では重力のほうが強くなってしまいます。そのため体は浮力と重力のバランスの釣り合う高さまで、沈んでしまうのです。
 | ヒトは手、足、胴体のそれぞれに浮力があるので、おぼれている人は手を挙げてはいけない！
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シンクロの評価には、体をどれだけ高く上げるかが重要です。しかしどうやってあれほど体を水面高く上げる事が出来るのでしょう？水中を見たらビックリです。両手を軽く回転させるだけで、彼女たちは水面から上に顔を出す事が出来るのです。これはスカーリングという泳法ですが、なぜこんな動きでいいのでしょうか？そこで、シンクロの選手に翼のような上下運動とスカーリングの、２つの手の動きで、立ち泳ぎをしてもらいました。すると翼のような上下運動では、確かに浮くことは浮くのですが、手を上下するたびに頭も上下して安定しません。手の動きをスローで見ると、水を下にかいた後、戻る手が、また水とぶつかって再び体を水中に引き戻す力を生んでしまっているのです。一方スカーリングは、体は上下せず、小さな力で効率よく浮く力を生み出しています。手をよく見ると、手の甲を返し、内側にも外側にも水を押し出して、常に浮く力を得ています。これと同じ動きは生物の世界でも、クリオネが上に進もうとする時などに見ることができます。
シンクロの選手に、水中と陸上で息止めをお願いしました。すると驚きの結果が出たのです。なんと水中の方が長く息が持ったのです。さらに、心拍数を計った所、これまた水中の方が少なかったのです。この現象は潜水徐脈といい、水中に潜ると心臓の打ち方が遅くなる、実はヒトのだれもが持っている現象なのです。ヒトが水に潜った時、心拍数を減らすことで酸素をゆっくり使い、長時間潜ることを可能にしているのです。この反応は、ヒトでは名残程度にしかありませんが、ペンギンやアザラシのような潜水動物では顕著に見ることができます。シンクロ選手の陸上での心拍数が毎分78で、水中に潜ると65に減るのに対し、アザラシは、心拍数が陸上で毎分100なのが水中に潜ると、なんと10分の１、10にまで減ってしまうのです。
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| 生物には、水に潜ると自動的に心拍数が減って酸素を節約するシステムがある！
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真九郎の挑戦は続きます。シンクロには、肺の中の空気も重要な働きが有りました。シンクロの演技でどうしても気になるあの鼻せん、これをはずして水に浮き、鼻から少しずつ空気を出してもらうと、何と体が沈み始めたではありませんか！肺の中の空気が浮き袋として、浮いているのに重要な役割を果たしていたのです。ちなみに選手が吐き出した分、1500ccの空気の入ったペットボトルを沈んだ選手に渡すと見る見る浮いてきました。シンクロの鼻せんは、鼻の空気が出ていってしまうのを防ぐ意味があったのです。
真九郎は浮力を稼ぐために、なんと救命胴衣を使うという作戦に出ました。しかし普通に装着した1回目、救命胴衣を膨らませた瞬間に上半身が浮かんでしまい、失敗です。そこで今度は下半身の浮力をつけるために、救命胴衣を腰に巻きつけてみました。はたして…ほんの数秒ですが水面に、ニョキっとそびえ立つ2本の足があらわれました。真九郎は見事！？佐清潜り（V字）に成功したのでした。
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