秋は競馬の季節。その競馬で走るのがサラブレッド。ウマ界の中でも最速を誇るウマです。いったいなぜ、あんなに速く走れるのでしょう?そして人馬一体とも称される、騎手の役割とは?今回、その謎を科学の目で解き明かします。
まずはサラブレッドの走りを見てみましょう。すると、なぜか序盤ウマの背が激しく揺れ、しばらくすると落ち着くのです。いったいこの差は何なのでしょう?そこにはウマの走り方の違いがあったのです。なんとウマは2種類の走りを使いこなすことの出来る生き物だったのです。スタート直後から10秒間の足のつき方は、まず後ろの左を、次に後ろの右、続いて前の右足、最後に前の左足と、足が回転するように着地しています。このような走り方を「回転襲歩」と呼ばれ、加速はいいのですが、安定性に欠け、すぐにつかれてしまう走り方です。ライオンなど、ネコ科の動物はこの回転襲歩で獲物を追いかけます。そのためダッシュはいいのですが、スタミナが続かず獲物に逃げ切られてしまうこともしばしばです。
そしてウマは、回転襲歩で加速した後の足のつき方は、まず後ろの左足、次に後ろの右足、そして次に、回転襲歩と違い、前の左足が先について最後に前の右足が着地するというように、足が交差する形に変化します。こうした走り方は、「交叉襲歩」と呼ばれ、揺れが少なく安定するため、長く走ることが出来ます。このように、2種類の走り方を使い分けることで、時速70kmのトップスピードで5kmもの長距離を走りきることが出来るのです。
| ウマの速さの秘密は、2種類の走り方を使い分けることにあった!
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その走りにはやはり強靭な心臓が必要なはず。その大きさをヒトと比べてみると、ヒトの心臓が250gであるのに、ウマは実に20倍、5,000gもありました。
いったいその心拍はどれくらいのペースなのでしょう。矢野さんが自分の心拍と比較してみると、矢野さんの安静時が90であるのに、サラブレッドは3分の1の30と、ものすごくゆっくりです。しかし、運動時には最高で200まで跳ね上がり、運動後は心拍数が正常に戻るのも早く、非常に高性能の心臓なのです。この心臓で、1分間に家庭用のお風呂2つ分を一杯にするだけの血液を体中に送り込み、毎分85リットルもの酸素を取り入れているのです。
そんなウマにも思わぬ弱点が有りました。ご存知の通り、ウマは足を骨折すると、即安楽死になってしまうのです。いったいなぜウマは足を1本失っただけで死ななくてはならないのでしょうか?実はウマの足は、進化の過程で速く走れるようになると共に長く伸びていったのですが、その伸びた部分というのは、ヒトでいうと、中指一本がにょきにょきと伸びていったものなのです。450〜500kgの体重を支える細い中指4本のため、一本でも折れてしまうと、残りの足に大きな負担がかかってしまうのです。
さらにこんな理由もありました。「目がテン!」では、ウマの一晩を観察しました。すると一晩の内に横になって眠ったのは、立ったの12分間で、それ以外は、立ったままの睡眠を断続的にとっただけだったのです。サラブレッドは、皮フが大変薄く、長時間横になると自分の体重の重さから、その部分が圧迫されて血行障害を起こして腐ってしまうのです。そのためウマが骨折すると、人間は助けてやることが出来ずに、苦しみながら死んでいくのをただ見ているしかないため、安楽死をさせるのでした。
ウマが速く走るには、騎手も重要な役割を果たしていました。“人馬一体”とも称されるその技。いったいその技とは?そこで西の武豊、東の後藤浩輝と称される後藤騎手にご協力頂き、矢野さんと、電動木馬に乗ってもらいその重心の動きを比較してみました。コンピューターで解析すると、矢野さんの重心はグラグラと揺れて不安定なのに対し、後藤騎手は重心がほとんど動きません。しかもそれがウマの重心の上にピタリと来て、ウマへの負担を最小限に押さえていたのです。
さらにレース終盤の追い込みにも科学が有りました。400mのコースを実際に走ってもらうと、最初の100mのタイムは9秒3、そしてラスト100mでは5秒2と半分近くになっています。このラスト200mで、騎手は自分の体を激しく上下させます。これが追い込みという動作で、ウマの重心の上で騎手自身の重心を上下させています。この動きを、体重49kgの後藤騎手に体重計の上でしてもらうと、35kgから65kgまで大きな振幅がありました。ウマが後ろ足で地面を蹴る時に騎手が最大の体重をかけてやることで推進力を増してやることが出来るのです。この動作がサラブレッド以外にも通用するかどうか、ポニーを追い込むという前代未聞の実験を後藤騎手にお願いしてしまいました。すると、最初の100mが15秒5に対し、ラスト100mが8秒4と、見事に追い込みは成功しました。
| 騎手は、ウマの実力を最大限に引き出して人馬一体を実現していた!
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