春と言えば潮干狩りも楽しいシーズン。しかしめったに採れないのが、大きなハマグリ。今やその99%が輸入になってしまっているとのことです。大きくておいしいハマグリは焼いてもよし、潮汁もよし。海外ではクラムチャウダーにも使われています。殻も碁石に使われるハマグリ、実は様々な隠れた能力を持った、驚異の貝だったのです。
矢野リポーターが訪れたのは、「それは桑名の焼きハマグリよ」で有名な、三重県桑名市。ここならハマグリが採れるはず、と勇んで出かけた矢野さん。しかし干潟は埋め立てられ、天然のハマグリは見つかりませんでした。苦労の末ようやく沖合に作られた人工干潟を見つけた矢野さん、早速潮干狩り開始です。しかし採れるのはアサリばかり。実はアサリのいる場所には、ハマグリはまずいないのです。アサリは潮の満ち干する砂浜に棲んでいるのに対し、ハマグリは一日中海水に浸かった海の浅瀬にいます。ハマグリやアサリの棲む干潟の辺りの海は、海底まで日光が当たり、エサである植物プランクトンが豊富です。さらに海面の波の動きなどで酸素も多く、生き物が棲むのには適した場所なんです。けれど、アサリのいる砂浜は潮の満ち干のために半日は海水がなくなり、海の生き物にとっては過酷な場所です。一方ハマグリの棲む場所にはいつでも海水があり、とても快適な環境だったのです。しかしそれは、外敵にとっても棲みやすいということです。そこでハマグリは、驚くべき特技を身に付けていました。試しにハマグリの横に、天敵のツメタガイを置いてみます。すると、ものの1分という早業で、ハマグリは砂に潜ってしまいました。ハマグリは、こうして身を守っていたのです。アサリも砂に潜ることは出来ますが、ハマグリほど素早く潜ることは出来ないので、満潮時にはしばしばツメタガイなどの餌食になってしまいます。そこでアサリは、わざわざ外敵の少ない過酷な環境を選んだのです。
| ハマグリは砂潜りの名人だった!
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ハマグリを生で開けようとしても、なかなか開きません。閉める力をアサリと比べると、アサリがおよそ2kgで殻を開いたのに対し、ハマグリは倍以上の5kgまで耐えました。ハマグリなどの二枚貝は、中に2つついている、いわゆる貝柱、閉殻筋(へいかくきん)という筋肉で殻を閉じています。反対に開く時の力は、2枚の貝をつなぐちょうつがいの横にあるじん帯の力です。じん帯がゴムのように縮もうとして、絶えず開く力がかかっていますが、それを強い閉殻筋で閉じようと引っ張りつづけているために開きにくいのです。さらにこの閉殻筋をくわしく見ると、平滑筋と横紋筋の2種類に分かれています。横紋筋は素早く殻を閉じるための筋肉で、閉じた殻を長い間閉じつづけるのが閉滑筋です。そしてこの平滑筋の割合は、ハマグリが40%でアサリが30%と異なります。ハマグリの方が平滑筋が多いために閉じる力が強いのです。でも、貝を焼くなどして加熱すると、閉殻筋が変質して殻からはがれてしまいます。そのため貝にかかるのがじん帯の力だけとなり、貝はパカリと開いてしまうのです。それにしてもハマグリはなぜこれほど強く貝を閉じているのでしょう?それはやはり外敵の多さに関係していました。今度は貝殻をこじ開けて中身を襲う、ヒトデをアサリとハマグリのそばに置いてみました。アサリはヒトデに飛びつかれてから、30分ほどで食べられてしまいました。一方ハマグリは、ヒトデに襲われたものの、結局食べられませんでした。
閉じる力の強いハマグリは、貝殻そのものも丈夫でした。断面を比べても同じ大きさのアサリよりはるかに分厚い貝殻です。更に電子顕微鏡で見ても、ハマグリは縦と横の組織が緻密に折り重なった構造になっているのがわかります。そのため殻に上から圧力をかけても、アサリはたった4kgで割れてしまうのに、なんとハマグリの記録はおよそ126kg!恐るべしハマグリ!しかし何と言ってもハマグリの貝殻の大きな特徴は、強く閉じるために2枚の貝がぴたっと合わさるようになっていて、その形は2つとして同じ物は無いことです。これが貝合わせという遊びがあるゆえんです。
しかし本当なのでしょうか?何事も実際に試してみるのが「目がテン!」。築地の市場から貝殻100組200個をもらい、AD君がこれを全部合わせる壮大な実験に挑戦です。実験開始は夜中の0時。複雑な形のちょうつがいに苦しめられ、なんと1組めを見つけるまでに20分!その後3時間かけてようやく50組めのペアが見つかり、100組がぴたっと合わさったのは、実験開始からゆうに5時間後の午前5時。あたりはもうすっかり朝でした。
| ハマグリの貝殻は、厚く、丈夫で、しかも合わせにくい。!
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なかなか色々な武器を持ったハマグリ。しかしもっと凄い能力が有ったのです。
しんきろう、ご存知ですか?海の上などに、実際煮はない光景が浮かびあがる現象ですが、漢字で書くと“蜃気楼”となるのです。何とこの“蜃”の字、“オオハマグリ”という意味なのです。つまり、しんきろうは、中国の言い伝えによると、オオハマグリが出したものとなるのです。
ハマグリはしんきろうを出すのか?ハマグリをぎゅうぎゅう詰めにすると出すらしい、という噂を聞いて早速実験です。すると、ハマグリがもぞもぞ動き始めたかと思うと、次の瞬間ヌルヌルとした粘液を吐き出したのです。これは一体何なのでしょうか!?そこで流れのある海に見立てた回流水槽に、粘液を出したハマグリと出していないハマグリを入れて実験してみました。するとなんと、ぬるぬるハマグリが動き出したのです。まるで軽やかにステップを踏むように、流れにのって進んでいきました。ハマグリは、水管の付け根にある粘液腺から透明な粘液をひものように出すことが出来るのです。仲間が一箇所に増えすぎたりしてハマグリの棲む環境が悪化すると、ハマグリは粘液を出し、引っ張られるように潮の流れに乗ります。そして環境のいい所まで来たところで、粘液を切り離して着底するんです。
蜃気楼の語源は、このハマグリから来ているのだそうです。古代中国では、蜃、つまり巨大ハマグリがだした気、粘液の中に現れた楼閣、それが蜃気楼の正体だと考えられていたのです。
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