超パニック
地震
生存法
第960回 2008年11月23日
今年は岩手・宮城内陸地震や中国四川大地震など、大きな
地震
が立て続けに起こりました。そこで今回は地震の対策や、危険の中で生き残る方法を科学します。
近年、最も被害が大きかった阪神淡路大震災で、最も多くの負傷者を出したのは家具の転倒でした。では、家具が倒れるとどのくらい危険なのか、60kgのタンスの前に瓦を10枚重ね、さらに倒れた時の衝撃力を測定してみました。すると、瓦は7枚も割れ、かかった力はなんと160kg!やはり家具転倒対策は重要なようです。では、
一般的な突っ張り棒はどのくらい効果があるのでしょう?
矢野さんが訪れたお宅では、畳の上のタンスの前側が突っ張り棒で固定されていました。これと全く同じ状況を起震装置の上に再現し、
震度7の揺れを起こしてみると…なんとたったの30秒で突っ張り棒が外れ、タンスが転倒してしまいました。
本来、突っ張り棒は家具の後側を固定するもの。正しい使い方をしなければ、充分な効果が得られないのです。さらに、専門家によれば足元にも問題があるとのこと。そこで
床材をフローリングに変えて再び揺らしてみたところ、突っ張り棒なしでも、タンスは大きく傾いても堅く反発力がある床に押し返され、震度7でも倒れなかったのです。
それに比べ、畳や絨毯の場合は素材が柔いので一旦家具が傾くと一気に倒れてしまいます。フローリングの床は家具の転倒防止になるようです。
さらに、
マンションでは家具の配置によっても倒れやすさに差が出ます。
マンションの形に多い長方形の模型を前後左右に揺らし真上から見てみると、幅の短い側が大きく揺れました。実際に幅の短い側と、幅の長い側にそれぞれ家具を置いて揺らしてみると、幅の長い側に平行に置いた家具が倒れてしまいました。つまり、
横長の建物の場合は幅の短い側に家具を配置すると、倒れにくいのです。
さて、家具の転倒を防ぐことができたとしても、食器など家具の中身が落下し、床に散乱してしまうと大変なことに。でも、食器が落下しにくい置き方なんてあるのでしょうか?そこで主婦と建築学の専門家に、棚にお皿やコップを置いてもらい、地震を起こして比較してみました。まずは主婦の場合、埃が入らないようにと下向けにしたコップは真っ先に落ち、震度6強ではほとんどの食器が落ちてしまいました。一方専門家の配置では、震度6強の揺れでもコップとお皿が落ちなかったのです。専門家によると、
コップは底の部分が重いため上向きに置くと重心が低くなり揺れても安定する
のだそうです。
ワイングラスも同様に上向きの置き方のほうが安定していました。さらに主婦は、
お皿を下から大、中、小の順に重心が下にくるように重ねていましたが、専門家は下から中、大、小と置いていた
のです。実はお皿など重ねて置く食器のポイントは重ねたもの同士の
「遊び」
、下から大、中、小の重ね方ではそれぞれのお皿が動ける遊びが大きいため揺れが起こると下から次々と揺れが伝わって不安定な状態になるのです。一方、下から中、大、小の重ね方では中皿と大皿の間の「遊び」が小さいため、大皿部分で下からの揺れが弱まるのです。
食器の落下を防ぐには、コップは底を下にして重心を低くさせ、お皿の場合はお皿の動く「遊び」を考え重ねるのが重要なのだ!
ところで「地震が起きたら火を消せ!」とよく言いますが、実際に矢野さんが震度7の揺れの中、コンロの火が止められるものなのか試してみました。すると、揺れで足が進まず、コンロまでたどり着いたのは揺れが止まってからでした。実は
火を止めようと近づくと、お湯や油が体にかかる可能性があるので逆に危険!
さらには倒れた家具により傷ついた電気コードなどから発火するケースもあるので注意が必要です。そして、火災が起こってしまった時は、消火よりも避難を優先した方がいい時もあるのです。そこで、
地震後を想定し、物を散らかした部屋に煙を充満させ、どのくらいの時間で避難できるのか矢野さんが挑戦
してみました。すると視界が悪いため、次々と障害物にぶつかり、
脱出まで3分以上もかかってしまいました。
煙に含まれる一酸化炭素は1〜2分吸い込んだら致死量に達するため、これでは一酸化炭素中毒になってしまいます。ところが小学校4年生の男児が挑戦したところ、なんと5秒で脱出!実は、
煙は空気よりも軽く、上のほうにたまる
ので、身長が低い彼の視界はクリアだったのです。そこで、今度は
一般の男性の方に四つんばいになって脱出してもらうと、なんと20秒で脱出できた
のです。
煙は空気よりも軽いので上のほうにたまる。火災現場から脱出するときは身をかがめると視界が良くなり、早く脱出できるのだ!
さて、大人数で地震に会ったとき怖いのが集団パニック。では地震のとき、狭い出口に大勢が殺到するとどうなるのでしょうか?そこで、
会議室の中にいる20人に一斉に狭いドアから脱出してもらうと、出口は大混雑で、全員が脱出するまでに14秒かかりました
。この危険を避ける方法を渋滞学の専門家に伺うと、意外にも、出口の近くに何かしらの障害物を置くと効果的だというのです。そこで
出口の手前にポールを設置してもう一度実験してみると、なぜか混雑があまり起きず、タイムも10秒に縮まった
のです。よく見ると、真ん中にポールがあることで、自然とポールにぶつからないように交互にバランスよく整列していくのがわかりました。つまり、災害の時は急がば回れで、焦らず落ち着いて行動することが自分の身を守る秘訣のようです。