知識の宝庫!目がテン!ライブラリー


食虫植物 の科学
第1188回 2013年7月28日


 夏の太陽を浴びて植物が輝く季節になりました!そんな中、いま人気上昇中の植物といえば「食虫植物」。実は、ホームセンターの園芸コーナーやお花屋さんで大人気なんです。
 そこで本日の目がテンは!食虫植物の魅力は一体何なのか?その驚くべき“生態の謎”に迫ります。

 ①ハエトリグサのメカニズムに迫る
 ②ウツボカズラ消化液の秘密とは?
 ③食虫植物はなぜムシを食べる?

①ハエトリグサのメカニズムに迫る

 食虫植物の魅力を探るべく、さっそく向かったのは日本食虫植物愛好会の田辺直樹さんのお宅。ベランダに並べられた食虫植物を覗いてみると・・・素早く葉を閉じてムシを捕らえる「ハエトリグサ」を発見!ハエトリグサはエサを捕らえると、5分ほど時間をかけて葉をさらにきつく絞り込んでいきます。この「葉」を閉じるためには、葉の内側にある「感覚毛」と呼ばれるトゲ状の毛に触る必要があり、実はこの毛に“2回”触らないと葉は閉じないんだそうです。これは、雨粒や葉っぱなど、エサ以外のものが触れても閉じないようにするための工夫。つまり「確実にムシが入り込んだ!」と分かってから閉じるんです。

 では、ハエトリグサは触られた回数を覚えているということなのか?ハエトリグサの運動を研究する東北大学の上田先生に伺うと「この現象は、19世紀にダーウィンが観察して以来の大きな謎であった。しかし2010年、私たちのグループが、この記憶現象に関する物質を発見し、この物質を『ジャスモン酸グルコシド』と名付けた」という。さらに上田先生は、「ハエトリグサの感覚毛の根本に刺激を与えるとこの物質が出る。この物質に反応して運動が起こるのだが、1回だけの刺激では物質が出る量が足りず運動は起こらない。ところが1回目、2回目と2回合わせることで出た物質の量が、運動を引き起こすのに十分な量に達する。これが、2回刺激を与えないと葉が閉じないという仕組み」だという。

 さらに、ダーウィンはこんなことも観察していました!「ハエトリグサは触られたことをどれくらいの時間覚えているのか?」時間を空けて感覚毛に2回触る実験をしてみると・・・ 1回目と2回目の間が10秒だと閉じ、20秒でも閉じました。しかし、30秒だと閉じません!この様に「1回目と2回目のタッチの間隔が30秒程度開くとハエトリグサが反応しなく」ということはダーウィンが発見しましたが、「なぜか?」という理由までは解けなかったんです。

 ところが2010年!上田先生たちがダーウィン以来、150年ぶりにその謎を解明!このジャスモン酸グルコシドは30秒程度で拡散してしまうため、葉を閉じる運動が起きなかったんです。

 さらにもう1つ、別の実験も実施!ハエトリグサがムシを捕まえてから5分くらいかけてエサを絞り込んでいくのは、葉の中で追加の刺激があると起こる現象で、エサを確実に閉じ込め、消化液が漏れないようにするため。では、“ハエのおもちゃ”を食べさせるとどうなるのか?観察してみると、パクッと噛みつきましたが・・・絞り込みません。そのまま観察を続けると、再び獲物を待ち受けるために1日以上かけて葉を開くことがわかりました。
 なぜここまで複雑な仕組みを取り入れたのか?それは、ハエトリグサにとって、運動は成長するのと同じエネルギーを使い、とても負担が大きいことなんです。それに、絞り込むのも消化液を出すのも負担になります。エサがとれていないのに閉じたり消化液を出したりといった無駄を減らすために獲得したメカニズムだと考えられています。

所さんのポイント
ポイント1
ハエトリグサが複雑な仕組みを持った理由は、ハエトリグサにとって負担になる運動を無駄に行わないようにするためなのだ!

②ウツボカズラ消化液の秘密とは?

 食虫植物はどうやってムシを消化するのか?田辺さんのお宅で拝見したのは、東南アジアで見られる「ウツボカズラ」。ウツボカズラは、甘い蜜でムシをおびき寄せ、ツルツルの入り口でムシを落とし込むんです。
 では、中に溜まった消化液に落ちたムシはどうなるのか?ウツボカズラの消化液の研究をしている先生の指導のもと、「水道水」と「消化液」で比較実験!水道水と消化液をそれぞれ同じ量用意し、双方同時にアリを入れると・・・水道水に落ちたアリは水面に浮いていますが、消化液に落ちたアリは、なんと消化液にどんどん沈んでいくばかり!この理由を専門家に伺うと「ウツボカズラの消化液には“界面活性”という働きがあり、水と油をなじませ易い効果なので、ムシの中に水が入り込んで沈んでしまう」という。しかし、袋の中のムシは形がそのままで、一見溶けていないように見えます。

 そこで再び実験!昆虫と同じ節足動物の「甘エビ」2切れを同じ長さに切り揃え、それぞれ「水」と「ウツボカズラの消化液」につけて1週間観察。そして1週間後、双方を見てみると・・・ 水道水が入っていたビーカーからはエビの殻も身も出てきましたが、ウツボカズラの消化液からは殻しか出てこなかったのです!
 この理由を専門家に伺うと、「ウツボカズラの消化液には動物性のタンパク質を溶かす“ネペンテシン”という酵素が入っており、外側の硬いところは溶けず残ってしまう」という。昆虫の殻は、消化液ではほとんど分解されませんが、ウツボカズラの袋が枯れて地面に落ちると、バクテリアなどに分解されて、結局は根から栄養として吸収されるんです。

所さんのポイント
ポイント2
ウツボカズラが捕らえたムシは、袋の中で殻までは分解できないが、最終的には袋が枯れて地面に落ちた後、根から栄養を吸収するのだ!

③食虫植物はなぜムシを食べる?

 食虫植物の自生地を訪ねやって来たのは、都心から車で90分の場所にある、千葉県山武市「成東・東金食虫植物群落」。日本で最初に天然記念物指定を受けたというこの一帯には、数多くの食虫植物が自生しています。今回見てきた食虫植物は、色々な工夫でムシを捕らえてきましたが、そもそも、なぜムシを食べる生態になったのか?
 専門家に聞いてみると・・・「食虫植物は、とてもやせた土地に生えており、通常の生活は光合成でできるが、種子を残すためには栄養分が必要になる。ムシを捕ることによって、より良い子孫を数多く残すことができる」という。

所さんのポイント
ポイント3
食虫植物は他の植物との戦いを避けて、やせた土地に根をおろした。土地がやせているので、ムシの栄養を求めるようになったのだ!




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