謎の生き物・ホヤの魅力とは?金属空気電池への活用も【2024/9/15 所さんの目がテン!】
ホヤは、近年研究者の間で注目を浴びる生き物。ホヤを愛するあまりホヤの分類学者になった若き研究者や、60歳を過ぎて水中写真家になった女性が語る、知られざるホヤの魅力とは?さらに、未来を変えるかもしれないホヤの可能性とは?9月15日(日)放送の日本テレビ「所さんの目がテン!」は、謎の生き物・ホヤの秘密に迫りました。
ホヤが持つヒトに近い特徴
ホヤの分類・進化を研究している広島修道大学人間環境学部の長谷川尚弘先生を訪ねた、きょうきょうこと湯上響花。
まず先生が見せてくれた標本は、食用として市場などでも目にするマボヤ。大きさは約20cm、主に東北地方や北海道で食用に養殖されています。「一番の特徴は、やはりその場から動かない、動けないこと」「(マボヤの場合)この根っこみたいな部分で石とかにひっついてるんです」と長谷川先生。ホヤは固着性の動物で基本的には岩などに付着し、じっと動かずに暮らしています。「海水を吸った時にプランクトンが入ってきて、それをこしとって食べて生きています」とのこと。
ホヤには必ず、水を取り入れる入水孔と出ていく穴・出水孔があります。入水孔と呼ばれる穴から海水を取り込み、水中にいる植物プランクトンなどを餌としています。
体内には、鰓囊と呼ばれる茶漉しのような網の目のひだを持った器官があり、ここで水をろ過し、水中の微小な食物粒子やプランクトンをこし取ることで補食しています。
続いて、ハルトボヤを使ってホヤにどれだけろ過の力があるのか実験。ハルトボヤは私たちが食べるマボヤに近い種で、体が大きいのが特徴です。水槽の中に、ホヤの体に影響のない食紅を混ぜて濁った水を作り、その中にホヤを入れ様子を観察します。最初は真っ赤だった水が1日目、2日目とだんだん色が薄くなり3日目には水が見事、透明に戻りました。長谷川先生によると、ハルトボヤは鰓囊の面積が大きいため、驚異的な濾過能力を発揮したと考えられるそうです。
さらにホヤには、私たちヒトに近い特徴があるというのです。「子どもの時、オタマジャクシ型幼生という赤ちゃんの時の尻尾に、脊索と呼ばれる体の軸になる構造があって」と長谷川先生。ホヤは生まれたての幼生の時は、大人とは全く違う、オタマジャクシの形をしています。幼生時代のホヤには尾の部分に脊索があります。
ホヤは幼生の時期には尾部を振って泳ぎ回り、岩などに固着。その後成体の形に変化します。成体になると、移動しないため脊索を含む尾が消えてしまうといいます。
私たちヒトが含まれる哺乳類とホヤ類は、同じ脊索動物に分類されます。脊索動物のグループの中では、ホヤは尾索動物、ヒトは脊椎動物に分かれています。共通しているのは、ヒトもホヤも胎児や幼生の時に脊索を持っていること。大人になると消えてしまうのも同じです。
なお、同じ海の生き物でも硬い殻を持つ貝などは軟体動物門、サンゴは刺胞動物門、ホヤは脊索動物門と分かれています。脊索動物門であるホヤは人に近い存在なのです。
研究者と写真家が語るホヤの魅力
続いては、水中写真家で日本写真家協会会員の細谷克子さんもお招きし、長谷川先生との座談会を実施。さらにホヤの魅力に迫りました。
60歳を過ぎてからホヤの魅力に取り憑かれ独学で水中写真を学び写真家になった細谷さんは70歳を過ぎた今も、年に4、5回、東南アジアを中心に海に潜って精力的にホヤの水中撮影をしています。
ホヤの魅力を聞くと「美しいじゃないですか。その一言に尽きます」という細谷さんに選りすぐりのホヤの写真を見せてもらいました。まず「ホヤのいる風景」。「ここにいろんなホヤがいるんです」と細谷さん。「特徴的なピンクの(ホヤ)がすぐ目に入りますよね。これに近い仲間は日本にもいて、コバンイタボヤに近いものだと思います」と長谷川先生。コバンイタボヤは一つずつが約3mmと小さいそうです。ムネボヤの仲間や、ツツボヤの仲間、マボヤ目のホヤも写真から見られました。
ホヤには何種類があるかと聞くと、「世界には、大体3000種が報告されています」と長谷川先生。
次の写真は、ホヤに他の魚が卵を産みつけているところを撮影したものです。
ホヤは魚の卵を産みつけられることが多いようで、「ホヤを解剖していると、中からテッポウエビの仲間が入ってくる。オス・メスのペアでこの中に住み込んでいる」と長谷川先生も話します。
深海にいるという、エビを食べるオオグチボヤについて長谷川先生が「ホヤの入水管の部分が口の形になっていて、ここでも入ってきた小型の甲殻類をそのまま丸呑みしちゃう」と解説。ホヤの中でも、いろんな生き方があることがわかります。
続いては、細谷さんが一番好きだというムネボヤの仲間の写真。「筋肉の繊維が縦に走っています。周りに網目状に、血管だと思いますけど、光の加減で出ているのが分かりますね」と長谷川先生。
外側に見える薄い膜は被嚢と呼ばれる殻。ホヤは、殻が柔らかいマメボヤ目と、殻が硬めのマボヤ目の二つに進化の過程で分かれたことが最近わかったそうです。
ホヤには、1つずつで暮らす単体性のホヤとたくさんの同じホヤが増えて集まり、固まって暮らす群体性のホヤがいます。「コバルトツツボヤも透明です。私が見たものは、イカリが海中に落ちていたんですけど、それ全部をコバルトブルーのホヤが覆っていて。とにかく大きい群体を作ります」と教えてくれた長谷川先生。群体性のホヤは無性生殖を行い、体の一部から自分の複製を作り、体の一部が繋がっているといいます。共通の殻や管でつながっていることがほとんどで、かたまりで一つとみなします。
「あえて動かないという生きざまを選んだ動物。その動かないという状況に対して適応するために群体になるとか、体の殻を持つとかいろんな戦略を持っていて、どうしてそう進化したのかなというのを突き詰めるのが楽しくていま研究しています」と長谷川先生は話してくれました。
ホヤの被嚢を有効活用
続いては、そんなホヤを有効活用させた先生のもとへ。
宮城県の名物・ホヤの刺し身。私たちが食べるのはホヤの中の部分で、食べられないホヤの外側・被嚢と呼ばれる殻は、捨てるしかありませんでした。
しかし、この捨てられてしまう殻を有効活用する方法を開発したのが、東北大学 材料科学高等研究所 藪浩教授。
藪先生はホヤの殻を使って最先端の燃料電池の1種である金属空気電池を作っています。金属空気電池は、空気中の酸素と金属を化学反応させて電気を生み出し、先端から出ている紙に塩水を染み込ませるとすぐに発電、LEDライトが点きます。
金属空気電池の中はどうなっているのか中を見ると、マグネシウムの板、紙、触媒などでできています。
塩水が紙にしみこむと、そこにマグネシウムが溶けて電子を放出。この電子が導線を通ることで電気が流れます。すると、触媒側にある電子を酸素が受け取り化学反応。この化学反応を促すために、たくさん酸素を引き付ける、かつ電気を通す力がある触媒が必要なのです。この触媒である黒いシートの中にホヤの成分が入っています。
ではホヤからどうやって触媒を作るのでしょうか?藪先生は「殻を取っていって、これは漂白剤で漂白すると白い塊になります。これを細かく分散すると、ホヤ殻からセルロースという成分が取れます」といいます。セルロースとは、植物の細胞壁の主要成分で木材や綿、麻などの元となるもの。実は、ホヤは動物で唯一セルロースを作り出せる珍しい生き物。
ホヤ殻由来のセルロースと木質のセルロースを比較した電子顕微鏡写真を見ると、ホヤのセルロースの方が分子が規則正しく並んでいて、密度が高くなっています。
また、電気が流れやすいようセルロースを高温で熱して炭にする必要があるのですが、木質のセルロースは熱分解がおきて失われてしまいます。一方、ホヤ殻のセルロースは高温で熱してもしっかり炭素として残るため、ホヤ殻のセルロースは、触媒にうってつけの素材なのです。
ですがそれだけでは触媒にならず、他の成分を混ぜる必要があります。今まで燃料電池の触媒には、電気が流れ、酸素を引きつけ酸化還元反応を促進させるプラチナなどの白金が使われてきました。しかし、白金は高価で貴重な金属なため、電気を流すホヤ殻の炭に加えるものとして藪先生が目をつけたのが、血中のヘモグロビン。酸素とくっついて体中に運ぶ役割をするものです。
畜産廃棄物から作る乾燥血粉の中のヘモグロビンと、ホヤの殻を掛け合わせ焼くことで、白金に引けを取らない、新しい触媒を作り出すことに成功しました。
触媒としての能力を比較すると、ホヤから作られた新しい触媒が、白金の触媒と同等の性能を発揮することがわかっています。
この触媒の性能の実験で訪れたのは菖蒲田海水浴場。きょうきょうが、藪先生開発の金属空気電池がついたライフジャケットを着て海に入ります。
海水に触れると反応し、発電が始まりGPSが起動するという仕組み。これをつけておけば、海で遭難者が出ても瞬時に居場所を特定できるというものです。
きょうきょうが海に入ると早速先生のパソコンに装置から座標が届き、居場所を正確に特定することができました。
なおこのシートは自然由来のものでできており、例え海に廃棄されても分解し、環境に影響を与えないという点も特徴です。