第1411回 2018.02.04 |
伝統工芸 の科学[Part2] | 物・その他 |
古くから脈々と受け継がれてきた匠の技・伝統工芸の科学Part2!
人気!曲げわっぱの秘密
硬い木を丸く曲げて作られた「曲げもの」は1000年以上前、平安時代の遺跡から発掘されたものもあり、古くから日本全国で使われ続けている伝統工芸品。中でも近年人気が高まっているのが秋田県大館市で作られる「大館曲げわっぱ」。お弁当箱が特に人気で、決してお財布に優しいお値段ではありませんが、ものによっては手元に届くまで3か月の順番待ちです。堅い木を曲げた不思議な形の曲げわっぱの秘密を探るべく秋田県は大館へ!曲げわっぱの作り方を解説していただのは木材加工の専門家、秋田県立大学の足立先生。先生と曲げわっぱの工場を見学します。世界自然遺産を有する白神山地に接する大館は昔から森林資源の杉が豊かな場所。その杉を使った産業が発展したんです。
早速、曲げわっぱづくりスタート!大きな材木からパーツを切り出します。切り出した木材は赤い部分と白い部分に分かれています。
先生によると、白身の部分は、狂いが生じやすく腐りやすいので、曲げわっぱには赤身の部分だけを使うそうです。赤身の部分は木の良い香りがします。赤い部分には香りの成分が入っており、それがカビや腐れに強い成分なのだそう。これで弁当箱にしたときにカビにくく変色に強い効果があるんです。
これを職人さんが曲げていくのですが、大館の曲げわっぱに使われる杉の木は曲げにくいとのこと。曲げ加工によく使われるヒノキの木片と、たわみを比較してみても、杉は5mmほどたわんだところで亀裂が。一方ヒノキは11mmまで押し込んでも割れることなく曲がります。
そんな曲げにくい杉を技術で曲げてしまうのが伝統の技なんです。
木を曲げるために使うのは釜。およそ80℃のお湯で杉の木材を煮ます。熱々の杉の板がいとも簡単に曲がっていきます。ポイントは、水に濡れているということと、温かくなっていること。乾いた木材は組織がしっかりくっついていますが、ぬれると木を形作る構造の中に水が入り込み、緩むため動きやすくなります。さらに、加熱されると水分子が自由に動き回り、もっと柔らかくなります。乾いている時よりも20倍も柔らかくなるんです!
そしてもう1つ注目すべき匠の技がつなぎ目にあります。重ねた部分も均等な厚みになるよう、微妙に調整して削ります。これは全て職人さんの勘なんだそうです。最後は、桜の皮のひもで固定して、底をハメれば完成。
こうして手間暇かけて作られた曲げわっぱについて、愛用者に使い心地を聞いてみると「ご飯の食感がちがう。冷めてもベチャッとしなくて、ふっくらと美味しい」との声が。
一体なぜご飯がべちゃっとしないのか?炊きたてのご飯をプラスチック容器に入れた時と比較しました。4時間後。プラスチック容器の内側には大量の水滴がついていましたが、曲げわっぱの方は、まったく水滴がついていません!
プラスチック容器は余分な水蒸気を吸水しませんが、木で出来ている曲げわっぱは吸水し、足りなくなったら水分を再び戻す保水効果もあります。だからいつまでたってもベチャッとならないのです。ちなみに、木の曲げわっぱは油分や洗剤の成分も吸ってしまいやすいので、使い方やお手入れには少し工夫が必要です。曲げ輪っぱにはご飯を。おかずだけ別の器に入れて持っていくのがおすすめです。
伝統工芸の曲げわっぱは、ご飯をおいしく保つための機能が備わっているのだ!
江戸時代から伝わる打ち刃物
東京の食の中心、築地にある天ぷらの名店で職人が愛用しているピカピカの包丁。これが作られているのが東京都葛飾区にある八重樫打刃物製作所。昔ながらの製法で刃物を作っています。一緒に見学していただくのが東京大学で金属の研究を行ってきた朝倉先生。長年刃物を研究されています。
現在の工場のご主人は葛飾区伝統工芸士の認定を受けた4代目・八重樫 宗秋さん。叔父の忠夫さんと共に打刃物の伝統を守り続けています。職人によると、包丁作りは日本刀を作る原理と一緒なんだそうです。日本刀も伝統的な和包丁も鋼と軟鉄という硬さの違う2種類の鉄をくっつけることでできています。硬い鋼は刃先に使われ、ものを切る役割。柔らかい軟鉄には刃を支えて衝撃を受け止める役割があります。
それでは、日本刀の魂が息づく技術を見せていただきます。まず、適当な大きさにカットした鋼に鉄ノリと呼ばれるホウ酸などからできた物を塗ります。ノリの調合は鍛冶屋ごとに違うそうです。続いての工程は火造り。800℃まで熱せられた軟鉄の上に素手で鋼を重ねます。そして再び加熱。真っ赤になったところで、金槌でたたき鋼と軟鉄を圧着させます。ハンマーを何度も打ち付ける。これが打刃物たるゆえん。朝倉先生によれば手でハンマーをふるう鍛冶職人はかなり少なくなってしまい、この風景も貴重なものなんだとか。鍛冶屋さんと言えば、この熱しては叩いての繰り返し。叩くことで、鉄の分子の結びつき方が変わり堅くなるそうです。
繰り返し叩くうちに次第に包丁らしい形になってきました。これで火造りが終わり。次に、型紙に沿って鉄を切る作業。職人さん、まだ熱い鉄に素手で印をつけていきます。そして、金属用のはさみでザクザクとカット!一度ゆっくり冷ましたら、今度は熱せずにたたき形を整えていきます。でも、まだ、ぼこぼこなまま。次にコレを滑らかにします。機械で表面を削り、大分、包丁らしくなったところでここからが鍛冶職人の腕の見せ所「焼き入れ」です。再び鉄を熱してから水槽に入れて一気に冷やすのですが…突然シャッターが閉められました。これは暗くならないと本当の鉄の色が見極められないから。経験を頼りに見極めたダイダイ色がおよそ1000℃だそうです。
色が確認できたら一気に水で冷やします。この温度を間違えると研いでも切れないなまくらになってしまうんです。鉄の硬さを決めるのが炭素。焼き入れ前の炭素は鉄の中でまばらな状態。しかし、1000℃まで熱すると炭素が均一に広がります。その状態のまま水で一気に冷やすと、均等に広がった炭素が固定され鉄全体の硬さが増すんです。
鉄が十分に硬くなったところで、続いての作業は「研ぎ」。まずは機械を使ってピカピカに。しかしこの状態では何も切れません。ここから職人が包丁に命を吹き込みます。この工場では荒さの違う3種類の砥石を使って仕上げていきます。切れ味を決める大切な工程です。
打ち刃物の包丁は長年の経験と伝統の技から生まれる職人技の結晶なのだ!
職人の包丁はどれくらい切れるのか!?
市販の3000円の包丁と紙の束を1000回切る、切れ味比較を行ったところ、市販の包丁は25枚切れたのに対して職人の包丁は3枚!なんと職人の包丁が市販の包丁に負けてしまったんです!これは想定外の結果。しかし注目すべきポイントがありました。3回切った段階では市販の包丁が63枚だったのに対して職人の包丁は94枚。およそ25%も切れ味が高かったんです!職人の手作り包丁はプロの料理人がよく愛用しているんですが、プロは日頃から包丁を研いで使っているので、この抜群の切れ味のまま使い続けることができるんです。
一方、市販の包丁は、切れ味は職人のモノには敵いませんが、研がなくても長い時間一定の切れ味をキープできるということなんです。
さらに、鍛冶屋職人の技を必要としているのはプロの料理人だけではないんです。八重樫さんの工房でちょっと変わった形の刃物がありました。一周ぐるっと繋がった刃物。何をするかというと・・・パッケージのふたをカットする機械。
商品を包装する機械にも職人の刃物が使われています。さらに、木工品が名産の小田原でも使われている特殊な形状の刃は木材を加工する機械に使われています。削られた木はかわいい人形や便利な道具に変身!続いて、職人さんがごりごりと削っているものは世界遺産の日光東照宮!平成の大改修が行なわれた東照宮に携わる大工さん達が使う昔ながらの伝統的な道具も八重樫さんが作っている刃物なんです。
伝統の業は今も様々な場面で活躍しているのだ!