ミュシャには1909年に生まれた娘のヤロスラヴァと、1915年、ミュシャが55歳の時に生まれた息子のイージー(ジリ)の2人の子がいるが、子煩悩のミュシャは幼い頃から2人の肖像をしばしば描き、作品のモデルにもしている。ミュシャが亡くなる数年前のこの肖像はおそらくヤロスラヴァが25-26歳頃のものである。両手を顎に乗せ、じっと正面をみつめる彼女の眼差しは、通常の若い娘のそれというより、内なる目ですべてを見通す巫女、あるいは予言者のそれを思わせる。頭に巻いた大きなスカーフとその両側の大きくふくらんだ布も日常的な次元を超えて、どこかオリエンタルな風情を漂わせている。手にした赤い花は特別な意味を持った象徴的なものではなく、色彩的なアクセントとして加えられたものであろう。