第100回全国高校サッカー選手権大会が2021年12月28日~2022年1月10日の日程で行われました。11年ぶり40回目の出場となった徳島県代表の徳島商業は初戦で優勝候補の一角、静岡県代表の静岡学園と対戦。高い個人技に裏打ちされた圧倒的な攻撃力を持つ静岡学園と「無尽蔵のスタミナ」を持つ堅守の徳島商による注目の1戦を振り返ります。
■前半・先制許すも徳島商が粘りの守備を発揮
大会2日目の2021年12月29日。千葉会場の一回戦・第2試合に登場したのは太陽のように輝くオレンジのユニホームに身を包んだ75回大会ベスト4の徳島商と、過去2回優勝し2大会ぶりの全国制覇を目指す緑のユニホーム静岡学園です。
徳島商は2021年に創部100周年を迎えたサッカーの伝統校です。個々の能力で突出した選手はいないものの、コンパクトで堅い守備と山道や砂浜での走り込みで得た強靱なスタミナによる「走り勝つサッカー」で復活を果たした古豪です。
一方の静岡学園は個人の技術が高く、テクニックを前面に出した伝統の南米スタイルのサッカーで今年度のインターハイはベスト4入りしています。プロ内定4選手を擁し、今大会屈指の攻撃力を持つタレント軍団でした。
試合は序盤から動きます。前半3分、静岡学園のコーナーキックからボランチの小泉龍之介選手(3年)が頭で押し込み静岡学園が先制点を奪います。「前半は無失点で終えたい」と話していた徳島商の小西健太監督(31)にとっては想定外のスタートとなりましたが、その後は徳島商が粘りを見せます。静岡学園の素早いドリブルとショートパスの攻撃に何度もピンチを迎えますが、主将の増田太陽選手(3年)と森輝記選手(2年)のセンターバック2人を中心に、数的優位をつくるコンパクトな守備で追加点を許しません。一瞬の隙を狙ってストライカーの守岡樹希也選手(3年)がミドルシュートを放ちますが同点には追いつけず、静岡学園が1点リードで前半を終えます。
■後半・大差でも諦めない徳島商
立ち上がりの失点後は堅守を発揮した徳島商。しかし、後半は静岡学園に圧倒的な攻撃力を見せつけられます。後半7分、またしてもコーナーキックから北九州内定で189センチの大型センターバック・伊東進之輔選手(3年)のヘディングで2点目を奪われると、その2分後にはU-17日本代表候補の高橋隆大選手(2年)、さらに磐田内定・古川陽介選手(3年)にもドリブルで切り込まれ追加点を許すなど後半17分までに4ゴールを奪われ、絶望的な状況になります。それでも攻撃の手を緩めない静岡学園に徳島商も身体を張った守備で必死に食らいつきます。最後まで諦めない徳島商には伝統校としての意地がありました。
今大会で着用したユニホームは創部100周年を記念してOBから贈られたものです。徳島商は過去39回の出場で最高成績は75回大会のベスト4。しかし、ライバルである徳島市立(98回大会ベスト8)の壁は厚く、ここ10年は県大会優勝から遠ざかっていました。ユニホームには苦しい時期を乗り越えた末につかんだ全国の舞台で「もう一度、輝かしい黄金期のような活躍を見せてほしい」というOBの想いが込められています。選手達はOBを含め、これまで支えてくれた全ての人達の期待を背負いピッチに立っていました。
徳島商はボールを奪うと、スピードが持ち味のU-16日本代表候補の冨士村優選手(1年)らがすぐさま裏のスペースを狙いますが、攻守の切り替えが速い相手の守備陣を突破することができません。結果は5-0で静岡学園の勝利となりました。ゴールこそ奪えなかったものの徳島商の選手は試合終了のホイッスルが鳴るまで、誰一人足を止めることなく走り抜きました。伝統校の誇りを胸に戦った選手達の目には大粒の涙がこぼれ、スタンドからは両チームを称える大きな拍手が送られました。
■全国で勝てるチームに
「前後半ともに立ち上がりで決められたのが大きかった」と試合を振り返る徳島商の小西監督。序盤から相手にペースを握られ、得意のカウンターや裏への飛び出しを完全に封じられての敗北でした。選手のみならず就任2年目の監督にとっても静岡学園のような全国屈指の強豪チームと、それも選手権のような大舞台で戦うのは初めてのことでした。常連校と言われていた頃から11年たった今、攻守において自分達を上回るチームを相手に、全国の厳しさを身をもって感じたようでした。
敗北から約2週間、「全国に出ることが目標」だった徳島商の姿はもうどこにもありません。「全国の強豪に勝つために、そこで通用するテクニック・スピード・フィジカルを手に入れる必要がある」と1、2年生の意識も変わりつつあります。次こそは全国で1勝。さらにその先へ。若手監督と伝統チームの新たな挑戦が始まります。
(取材・文:高校サッカー選手権民放43社/四国放送)
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