「Mother」「Woman」「anone」“ドラマ”という定型からはみ出していく坂元裕二作品の進化 ドラマ通の配信担当者が解説!【TVerで名作ドラマ大量無料配信中】
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今回は、2023年に公開された映画「怪物」でカンヌ映画祭脚本賞を受賞するなど、日本のテレビドラマ界から世界へと飛躍を遂げた脚本家・坂元裕二氏の、日本テレビ 水曜10時枠で放送した“坂元三部作”とも言える作品を紹介する。
○Mother(2010年)
坂元裕二氏は「東京ラブストーリー」(1991年、フジテレビ)で大ヒットを記録し、最近では映画「花束みたいな恋をした」(2021年)や「ファーストキス 1ST KISS」(2025年)など、恋愛ドラマの名手でもあるのだが、2007年の「わたしたちの教科書」(フジテレビ)で向田邦子賞(優秀なテレビドラマの脚本に贈られる賞)を受賞したことをきっかけに“社会派”の一面も垣間見せ、この作品によってその色をより強めていったと言えるのが「Mother」だ。
大学で渡り鳥の研究をしていたが閉鎖となり、やむなく小学校の教諭となった主人公(松雪泰子)が、実母から虐待を受けている教え子の少女(芦田愛菜)を救うために誘拐を企て、偽りの親子を装いながら逃避行を続けていくという社会派サスペンス。
“幼児虐待されている少女を誘拐”という超センセーショナルな導入部のドラマなのだが、それに加えて、主人公の出生の秘密、実の母(田中裕子)と育ての親(高畑淳子)、義理の姉妹たち(酒井若菜、倉科カナ)との微妙な親子関係、偽りの親子とバレてはいけない攻防戦に、誘拐した少女の母(尾野真千子)が連れ戻しにやってくる!などなど、導入部の衝撃を超えるようなめくるめくドラマティックが次々繰り広げられていく。
しかし、これだけのドラマティックの数々を、決して大げさな波乱万丈物語にはさせず、リアリティーを担保しながら“社会派サスペンス”たらしめたその要因は、やはり坂元裕二脚本によるものが大きい。
坂元氏の作品は、印象的かつポエティックなセリフの数々が特徴なのだが、今作はそれと同時に圧倒的なディテール描写が加わっている。特に“誘拐してしまう”までの心情のグラデーションと、決して誰にもバレてはいけない“偽りの親子”を完成させるまでのディテールが見事で、その導入部に説得力があったからこそ、その先のドラマティックに安心して没入することができたのだ。当然、今作でブレイクを果たした当時6歳とは思えない芦田愛菜の名演技や、主演 松雪泰子の存在感。田中裕子、高畑淳子など出演者たちの圧巻の演技合戦も見逃せない。
○Woman(2013年)
「Mother」と対(つい)になる作品と言っていいのが「Woman」。
不慮の事故で夫を亡くし、実の親にも頼ることができない“ある事情”を抱えたシングルマザー(満島ひかり)が、二人の子どもと共に様々な困難に立ち向かっていく社会派ヒューマンドラマ。
シングルマザーの生きづらさを描いた社会派ではあるのだが、今作も「Mother」同様、これでもかのドラマティックが待ち受ける。実母(田中裕子)との確執、夫(小栗旬)の死の真相、そこへ義理の妹(二階堂ふみ)が関与? はたまた主人公は病におかされ…という、高密度。しかし今作もまた、脚本による圧倒的なリアリティーとそれらを見事に体現する役者陣のおかげで社会派の体裁を保っている。
とはいえ、「Mother」が“誘拐の行方”がどうなってしまうのか? を様々なドラマティックによって魅せていったのに対し、今作のドラマティックは、困窮するシングルマザーにどうしてそんなドラマティック=悲劇が訪れてしまうのか? 視聴するのが辛くなってしまうほど、それに加わるリアルがとてつもなく重たいものに感じてしまう。
だがしかし、見進めていくうち、なぜこんなにも悲劇が訪れるのか…それは、母を捨てた主人公と子を捨てた母、捨てた母へ仕方なく頼ろうとする子、しかし子どもが犯してしまった罪を守ろうとする母…と、様々な視点と葛藤の中で、それは母としてなのか? 母を捨てた、ただの“女”としてではないのか? だからこそタイトルが「Mother」ではなく「Woman」…という、秘めたテーマが徐々に浮かび上がってくる構造だとわかってくるのだ。
導入部はかなりの深刻さが漂っているのだが、社会派と同時にエンターテインメント性にも優れており、ラストがどうなってしまうのか、最後の最後まで見逃せない作品にも仕上がっている。
○anone(2018年)
キャッチーなあらすじの「Mother」、圧倒的なリアリティーの積み上げでみせる「Woman」と比較すると、どんな話なのか? 端的には説明がしづらい、ある意味坂元作品の中で骨太な作品と言えるのが「anone」だ。
物語は、日雇いバイトでその日暮らしをしている孤独な少女・ハリカ(広瀬すず)が、“大量のニセ札”を発見したことからはじまる。そこから、ある秘密を抱えた亜乃音(あのね・田中裕子)と出会い、お互いに“死に場所”を探しているというるい子(小林聡美)と舵(かじ・阿部サダヲ)も巻き込まれ、さらには亜乃音がかつて働いていた印刷所元従業員の中世古(永山瑛太)も加わり…という、善悪問わず様々な境遇の人物たちと主人公が交わっていく群像劇でもあるのだが、ハリカの淡い恋物語や、亜乃音の重暗い母娘劇、るい子と舵のラブコメディ、ハリカと亜乃音たちとの疑似家族と、様々な要素が積み重なり構築されたまさにジャンルレスの作品になっている。
そんな混沌の中で描かれるテーマは“ニセモノ”で、ニセ札に始まり、偽りの記憶にウソ、疑似家族と、様々な“ニセモノ”を描くうちに“ホンモノ”の尊さと残酷さがつまびらかになっていくという複雑性もみせる。
中でも光っているのは、これまでドラマの構成やキャラクターの機微で発揮されていたディテールが、まさかニセ札にも応用されている点だ。もちろん今作を見たところでニセ札が作れるようになるハウトゥーではないのだが、これまで見たことがない、というよりも想像すらしていなかったニセ札をつくるその工程が、真似はさせないがありえないとも思わせない絶妙なディテールで描かれており興味深い。そして、これまでの二作と全く異なると言っていいのは、圧倒的なリアルの中で時折、ファンタジックが潜んでいることだ。
それがよく表れているのが最終回。中盤以降かなりダークな展開で、最終回前の第9話は絶望とも思えるほどに落ちるところまで落ちるのだが、最終回のファンタジックによって救われ、このために「anone」を見続けてきたんだ! という爽快感をも味わえる。
まだ見たことのない方はぜひ、「Mother」「Woman」「anone」の順番で見てほしい。連続ドラマという定型からどんどんはみ出していく、作品の進化も楽しめるに違いない。
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