ピエール=オーギュスト・ルノワールは、リモージュに生まれ、初めは陶器の絵付けをしていましたが、1862年にパリに来てシャルル・グレールのアトリエで学びました。1872年頃に筆触分割をもって戸外の光を捉え、風景や人物像を描きました。本作のタイトルであるポン・ヌフは、セーヌ川に架かるパリ最古の橋です。1853年からセーヌ県知事ウジェーヌ・オスマンがパリの都市改造を進め、この橋も美しく近代的になりました。ルノワールは、ポン・ヌフ近くにあるカフェ上階の部屋を借りて、制作したようです。向こう岸には、アンリ4世の騎馬像とシテ島の街並みが広がっています。明るい日差しの中、橋を往来する馬車、こども連れ、兵士、恋人たちなど、巧みな筆遣いによって活気溢れる近代都市パリの様子が見事に描かれています。ルノワールの弟エドモンの回想によると、兄が素早くスケッチできるように、橋を渡る人に声をかけて少しの間立ち止まらせたそうです。