オンフルールは、ノルマンディ地方のセーヌ川河口付近の古い港町で、クールベやブーダン、印象派の画家たちに好まれた町でもありました。ジョルジュ・スーラは、1886年の夏この町に滞在し、7点の作品を制作します。そのどれもが古風な港町の画趣に富むような景観ではなく、どこにでもあるような平凡な風景を描いたものでした。港の灯台は、この地で生まれたブーダンを始め、多くの画家が描いています。本作では灯台を構図の中心に据え、右手には養老院や家並みを描き、左手には海と空が占める広大な空間を導いて、港の寂寥感を強めています。オンフルールは、近郊の港ル・アーヴルの発展に押されて、19世紀にはかなり荒廃していました。無人の砂浜に打ち捨てられた船の残骸が、その様子を示唆しています。スーラは、色彩現象を色の点に置き換えて描く点描技法で知られていますが、本作にもその技法が取り入れられています。画面を覆う秩序だった色点の構成は、微妙な色彩の諧調をもたらすと共に、この港の静隠さを印象づけています。