• 11月12日(水)深夜2:14〜3:14

  • 指 揮 井上道義 《ラプソディ特集》
    管弦楽 読売日本交響楽団
    司 会 古市幸子(日本テレビアナウンサー)
  • 伊福部昭作曲
    日本狂詩曲 から
    リスト作曲
    ハンガリー狂詩曲第2番
    エネスコ作曲
    ルーマニア狂詩曲第1番
    ラヴェル作曲
    スペイン狂詩曲 から
  • ※2008年8月26日 サントリーホールにて収録


今月は、ラプソディ特集。4つの国の個性あふれる作曲家たちの、4つの作品をお送りしました。 「ラプソディ」とは日本語で「狂詩曲」という意味。自由な形式で書かれ民族的な色合いを持つ、という 特徴があり、作曲家によってそのは装いは様々です。指揮者の井上道義さんには、「ラプソディ」の魅力をたっぷりとおうかがいし、それぞれの曲の特徴・聴き所などをお話していただきました。

〜熱血“オレ流”指揮者 井上道義 × 日テレアナウンサー 古市幸子

古市:今回は全て「ラプソディ」のプログラムですが、その意図とは??
井上:僕はいつも思っていることなんだけど、“お仕着せ”のプログラムはいやなのね。
   来てくれたお客様に、その演奏会を覚えておいてもらいたいから。今回は字だけ
   見ると、ちょっとイカレてるように見えるけど、どこかに“引っ掛かり”が
   欲しかったんです。
   でも、ラプソディって面白いんですよ。ラプソディって、昔、リュートなどを抱えて、
   旅をしながら歌う「吟遊詩人」と呼ばれた人達の、“語りかける音楽”
   オーケストラになったんです。だから、割と指揮者として自由度が大きい
   ので、僕はこういう音楽、好きです。

古市:ラプソディを指揮するときの心構えは?
井上:僕は指揮をする時いつも、自分がその作曲家になっていくような気持ちに
   なるんです。でもラプソディの場合は、反対に、自分の方に引きつけて、
   好き勝手にやらせろ、という感じですかね。



〜日本〜
 《 伊福部(いふくべ) 昭 作曲 日本狂詩曲》 I.夜曲  II.祭

「ゴジラ」の音楽で知られる伊福部昭(1914〜2006)、北海道出身。 ほぼ独学で音楽を学び、1935年21歳の時、「日本狂詩曲」でデビューを果たす。彼はこの曲を、憧れのラヴェルに聴いてもらいたいと、パリで開催されていたチェレプニン賞に応募し、見事第1位を獲得した。大編成のオーケストラによるこの曲は、特に打楽器のオスティナートのリズムによって土俗的な要素が色濃く表れている。



井上:彼は昔、かなり批判されていたと聞いたことがあります。書く曲が、あまりにも民族的すぎて、流しの音楽のようだ、とか低級の音楽だ、とか言われたそうです。当時、「クラシック音楽」という形式の中で、「和」の要素がふんだんに盛り込まれたこの曲は、そのころの日本人にとっては恥だった、という考えがあったみたいね。でも僕が考えるこの曲の魅力は、泥の上を裸足や草履で踏み固めながら歩いている感じ、農業の感じ。逆にそれが“日本の力強さ”が表れている、聴き所だと思いますね。


〜ハンガリー〜
 《リスト作曲 ハンガリー狂詩曲第2番 ハ短調》


リスト

ピアノの名手だったリスト(1811〜86)は、19曲から成るピアノのための「ハンガリー狂詩曲集」を作曲した。故郷ハンガリーで、当時ロマがよく演奏していたといわれる旋律などを集め、それらを素材として書いたものである。この中から6曲をオーケストラ用に編曲し、第2番が特に有名。

井上:ピアノのために書かれた曲なので、ダーン!と縦に響くような曲にしたいね。弦楽器が入ると横にうねうねしがちだけど、力強く、男の音楽!というような。途中からは、ダンス音楽。踊りまくるんです。


〜ルーマニア〜
 《エネスコ作曲 ルーマニア狂詩曲第1番》


エネスコ

ジョルジュ・エネスコ(1881〜1955)は、20世紀を代表するヴァイオリニストである。彼の門下には、メニューイン、グリュミオー、ギトリスなど錚々たる顔ぶれが並び、一方作曲家としても、数は少なくとも、ルーマニアの国民音楽とも呼ぶべき優れた作品を残している。中でも最も有名なこの曲は、東洋風のメロディやダンス音楽が登場し、華やかな作品に仕上がっている。

井上:この曲はヴァイオリニストがとても楽しそうに弾くんです。テクニック的に難しいんだけど、それが報われる難しさで、みんな「ヴァイオリニストでよかった!」って実感しながら弾いているね。 ルーマニアって東欧の中でも、言葉なんかもラテン的で、イタリアの言葉を話すの。ローマの明るさと、ちょっと女々しい甘い感じが混ざってる曲かな。


〜フランス〜
 《ラヴェル作曲 スペイン狂詩曲》
I.夜への前奏曲  II.マラゲーニャ  III.ハバネラ   IV.祭り


ラヴェル


スペインに強い興味を持っていたといわれるラヴェル(1875〜1937)の、最初期の管弦楽曲。母親がバスク地方の出身であることや、生まれた場所がフランスでもスペイン国境に近い町だったこともあり、彼はスペインの民族音楽を取り入れた作品を数多く残している。この曲にも、マラゲーニャ、ハバネラなどのスペイン民族舞曲が取り入れられている。



井上:この曲は、オーケストレーションが本当に良く出来ていて、とても都会的です。スペインに憧れを抱いた、フランス人ラヴェルの繊細な部分が、細かく表われている曲ですね。 「I.夜への前奏曲」は、ろうそくの炎がゆれてたり、向こうからタベルナのいい匂いがしてきて・・・というスペインの夜の情景がよく描かれていますよ。「III.ハバネラ」は、あの独特のハバネラのリズムが、女性の色気で誘惑するような感じですね。



井 上 道 義 (指揮者)
Michiyoshi Inoue(conductor)
71年グィド・カンテルリ指揮者コンクール優勝。83〜88年新日本フィル音楽監督、90〜98年京都市響音楽監督・常任指揮者、2000年〜新日本フィル首席客演指揮者。シカゴ響、ロイヤル・フィル、ミュンヘン・フィル、スカラ・フィル、レニングラード響、マルセイユ歌劇場等にも客演。近年では、新日本フィルとともにマーラー・チクルス、3年にわたるコンサート・オペラ・シリーズなど意欲的な活動を展開しており、各方面から絶賛されている。07年東京・日比谷公会堂にてショスタコーヴィチ交響曲全曲演奏プロジェクトを開催、音楽・企画の両面で大きな成功を収めた。現在オーケストラ・アンサンブル金沢音楽監督ならびに石川県立音楽堂アーティスティック・アドバイザーに就任。
https://www.michiyoshi-inoue.com/