5月13日(水)深夜2:29〜3:29

指 揮 藤岡幸夫
ギター 村治奏一
管弦楽 読売日本交響楽団
司 会 古市幸子(日本テレビアナウンサー)

ロドリーゴ作曲:
アランフェス協奏曲
シベリウス作曲:
交響曲第5番

※2009年2月25日 昭和女子大学人見記念講堂にて収録

ロドリーゴ作曲
《アランフェス協奏曲》
今月のソリストは、今注目の若手新鋭ギタリスト、村治奏一さん。お父様、お姉様(村治佳織)もギタリストという環境の下で育ったという、1982年生まれの26歳です。幼少の頃、お父様にギターの手ほどきを受け、学生コンクールから国際コンクールまで多くの賞を受賞。ニューヨークのマンハッタン音楽院を卒業し、現在はニューヨークを拠点に世界中で活躍されています。

ギタリスト 村治奏一 × 指揮者 藤岡幸夫 × 日テレアナウンサー 古市幸子
古市:お父様もお姉様もギタリスト、という環境の中で、もう自然とギタリストを目指されるように・・・?
村治:最初は、おもちゃ代わりとしてギターを与えられていたんです。だから気が付いた
   時にはもうギターが生活の一部になっていた、というかんじ。楽器も、6分の1という
   子供用の小さいサイズがあるんです。

古市:藤岡さんは、お姉さんの村治佳織さんとも共演されているそうでね。
藤岡:そうですね、アランフェスを今まで3回か4回か。
古市:やっぱり兄弟だな〜と思うところってありますか?
藤岡:ものすごい、魂がしっかりしてる。なんか、“あやふや”なところがない。音楽に
   清潔感がある、っていうか・・・。品がありますよね。

村治:姉がフランスに留学したんですけど、ちょうど帰ってくるぐらいに僕がアメリカに行ったんですよね。だから、一緒に生活する
   時間が最近ずっとなくて、レパートリーもついた先生も違いますが・・・。昔は、演奏について姉に意見を聞きに行くと、大抵
   喧嘩になったので、あんまりしてなかったんですけど。最近は本番前に聴いてもらったりとか、共演する機会も増えてきて
   いるので、一緒にリハーサルしたりしています。今はさすがに喧嘩はないですね。僕が和声進行のことを話して、姉が
   感情的なことを話してくれたり、とか。だから、全然違う情報を言い合っています。

藤岡:そういうの、面白そうですよね。男性女性だけでも全然違うと思うけれども、
   逆に言えば、全然違う考え方や感じ方を話し合える、ってすごくプラスになって
   素敵なことだと思います。

古市:本日の、「アランフェス協奏曲」の聴き所を教えてください。
村治:実際に、アランフェス宮殿というのがスペインにあって、それにロドリーゴが
   感銘を受けて作曲したと言われています。去年ちょうど、その宮殿を見に
   行ったんですけど、その頃(16〜18世紀)は、スペインの王族と市民たちの
   間で特に交流が深かった時代らしく、庶民的な部屋もあれば高貴な部屋も
   ありました。曲を見ると本当に、すごく崇高なメロディもあれば、親しみやすいセクションもあって。ギターって、直接自分の爪で
   はじく楽器なので、いろんな音が出せるんですけど、その良さを、フルに発揮できる楽曲だと思います。

藤岡:僕がこの曲を指揮するときいつも思うのは、この作品が書かれた時、スペイン戦争があり大勢の人が亡くなったんですよね。
   ロドリーゴは自分の息子さんも亡くしていて、奥さんも重い病気になって・・・そういう中で書かれたのが、この2楽章なんです。
   ものすごい悲しみがロドリーゴの中にあるんだけれども、スペインの太陽は優しくスペインの人たちを照らし続けて、スペインは
   スペインのまま、スペインであり続けて欲しい、っていう。ものすごい“スペインへの愛”があるんですよね。


シベリウス作曲
《交響曲第5番》

2曲目は、藤岡幸夫さんの「世の中で一番好きな曲」、シベリウスの交響曲第5番。日本を代表する大指揮者、故渡邊暁雄の最後の愛弟子であった藤岡さんは、師匠が大好きだったシベリウスの作品を勉強し、徐々に理解していき、今ではこの曲が世の中で一番好きなのだそうです。少し前までは、好きすぎて指揮するのが恐いくらいだった、と作品に対する強い想いを語ってくれました。

故 渡邊暁雄
提供:日本フィルハーモニー




古市:古市:藤岡さんにとってこの曲はどんな曲ですか?
藤岡:世の中で一番好きな曲ですね!
   僕は、渡邉暁雄先生が亡くなる前の最後の5年間、ずーっと内弟子だったんです。毎日寝食共に
   するようにして、ものすごくかわいがってくださって。そして、先生が癌になった時にご自分で、次の
   年にシベリウスの4番5番、というプログラムを組んだんです。〈4番〉はシベリウスが癌になった時に
   書かれて、〈5番〉はその癌を克服した時に書いた曲なんですよ。で、ご自分も癌だと分かって、でも
   どうしても振りたいと。結局お振りになれなかったんですが。ただ、僕はそのとき、全然この曲の
   良さを分かってなかった。そして、ヨーロッパに留学するようになって勉強し直したら、本当に
   素晴らしい曲だ!と思って。それから、本当に好きで好きで、のめり込んでいって、逆に指揮するの
   が恐くて、全然指揮したことなかったんです、しばらく。いろんな思いが強すぎて、選ばなかったんですよね、僕自身も。

古市:知れば知るほど好きになった、この曲のポイントとはどういう所なのでしょうか?
藤岡:この曲には、シベリウスのいろんな思いが強烈にこもっているんです。この曲が
   最初書かれた時は、第1次世界大戦前で、世の中はものすごく不安な状況でした。
   それから、シベリウスは自分が癌で、もう死ぬと思っていたんです。それがやっと
   治ったけどまた再発するんじゃないか、という死に対する恐怖。もういろんなものが
   混ざっているんですよ。
   で、最初第1次世界大戦前に書かれて、1度演奏されてるんですが、それは
   破棄されて、第1次世界大戦も終わり、フィンランドも独立し、病気も完璧に回復した
   後に、もう一回書き直されてるんですよ。 シベリウス自身の言葉で言うと「狂喜」。
   狂うばかりの喜びね。あと、死の恐怖を知った人の“深い優しさ”みたいなのもあるし。
   最終楽章も本当に“自然への愛”があって。シベリウス自身がいろんなことを言って
   るわけ。例えばこの曲の冒頭は、『朝靄に陽光が差し込むような・・・』と。それから、
   『ある朝16羽の白鳥が空を旋回していてそこに朝日が差し込み、皆朝日の中へ
   飛んで行ったのが、1本の銀色のリボンに見えた』というシベリウス自身が今までに
   見た最も美しい光景、があるんだけど。その光景が終楽章の最後に出てくるん
   です。そこは、弦楽器が、ミュート(消音機)をつけてフォルテで切なく歌ってさ、
   遠くでトランペットのメロディ(白鳥)が飛んでる姿が見えるんだよね。それが、
   ものすごく高貴な気品ある姿だった、と書いてあるんです。スコアにも、メロディを
   吹く金管楽器に「ノービレnobile」って書いてあるんですよ。「高貴に」という意味。
   非常に珍しい書き込みなんですけども。

古市:興味深い曲ですね・・・!
藤岡:そう。でも本当に美しい曲ですよ。取っつきにくいとこもあるかもしれないですが。
   シベリウスという人は、昔若い頃ものすごい酒飲みで浪費家で、経済破綻したんです。それに、留学先で飲んで暴動起こして
   牢屋に入れられちゃったり。でもその反面、ものすごく優しい人だった。そういう血気盛んな人間が、一度死の淵を歩き、
   死の恐怖に向かって、そして本当に自然を愛して。そういう人がこういう曲を書いてる時って、人がおそらく変わってるんで
   しょうね。だからこそ余計、味がある、というか・・・。


村治奏一 (ギター) Soichi MURAJI
1982年生まれ。幼少よりギターを父、昇の手ほどきで始め、その後、福田進一氏、鈴木大介氏に師事。 93年ジュニア・ギター・コンクール、96年学生ギター・コンクール、97年クラシカル・ギター・コンクール、98年スペイン・ギター・音楽コンクール、同年、第41回東京国際ギター・コンクール、全てに優勝。 99年9月、渡米。ギター・レッスンをニューイングランド音楽院でディビッド・ライスナー及びエリオット・フィスク教授に師事。2003年6月、『シャコンヌ』でCDデビューを果たす。9月、ニューヨーク・マンハッタン音楽院に進学。06年3月、ワシントン・ケネディーセンターにて本格的米国デビュー。その模様はインターネットで全世界へ発信された。08年5月マンハッタン音楽院を卒業、優秀卒業生に贈られるアンドレス・セゴビア賞を受賞。6月にはモンテカルロ・フィル、指揮・西本智実のアランフェス協奏曲ツアーのソリストに抜擢され、モナコ及びサントリーホール他国内ツアーで成功を収めた。今までにCDを6枚リリースし、最新アルバムは19世紀作曲家作品集『夢』。現在もニューヨークに在住し、米国及び日本での様々な活動を予定。今後の活躍が大いに期待されているギタリストである。
<村治奏一オフィシャル・ウェブサイト https://www.jvcmusic.co.jp/murajisoichi/>
藤岡幸夫 (指揮者) Sachio FUJIOKA
慶応義塾大学文学部、英国王立ノーザン音楽大学指揮科卒。93年BBCフィルハーモニックの定期演奏会に出演、「タイムズ」紙などで高く評価され、94年にロンドンの夏恒例の名物「プロムス」に同オケを振ってデヴュー、大成功を収める。  近年では06年スペイン国立オヴィエド歌劇場にて「ねじの回転」でスペイン・オペラにデビュー、ベスト・パフォーマンス賞を受賞。すぐに09年に「ナクソス島のアリアドネ」で再客演が決定。  現在関西フィルハーモニー管弦楽団首席指揮者として活躍中。

公式ファンサイト:http://www.fujioka-sachio-fan.com/