演奏レビュー

日時

2017年11月23日(木)午前2:35~3:35(水曜深夜)
BS日テレでは2017年12月2日(土)朝7:00~8:00

11月放送プログラム <2017年9月1日 東京芸術劇場にて収録>

フィリップ・グラス作曲 「ヴァイオリンとチェロのための二重協奏曲」 ほか

ヴァイオリン
ギドン・クレーメル
 
チェロ
ギードレ・ディルヴァナウスカイテ
指揮
ヤツェク・カスプシク
 

【11月の演奏・聴き所】
音楽プロデューサー 新井鴎子の演奏レビュー

新井鴎子プロフィール
読響シンフォニックライブの構成を担当
クラシック音楽のコンサート・テレビ・ラジオ番組の構成を多数手掛け、長年にわたりその楽しみや魅力を親しみやすく伝えてきた。
音楽祭のディレクターやオペラ・ミュージカルの脚本、執筆活動など〈クラシック音楽〉の分野で幅広く活躍している。
現在、東京藝術大学特任教授

【フィリップ・グラス 作曲
「ヴァイオリンとチェロのための二重協奏曲」】

鬼才・異才といわれたクレーメルも70歳。それでもなお果敢に新しい音楽に挑戦している姿は見事。
グラスのミニマルミュージックの演奏には、音を「モノ」のように響かせることが求められます。とくに弦楽器にはノンビブラートによる無機質な音、純粋な音が必須です。クレーメルの演奏で注目すべき点は、ほぼノンビブラートによるヴァイオリンの音の美しさ! 弦楽器ではビブラートをかけるよりも、ビブラートをかけずに美しい音を出すことがすごく難しいのですが、ノンビブラートによるヴァイオリンの美音はクレーメルの真骨頂です。
そして「モノ」のような無機質な音の連なりでありながら、あちこちに胸がきゅんとする瞬間がある、それがグラスの音楽の最大の魅力だと思います。

1990年代、バブルの好景気を背景に、日本でクラシックとポップスのコラボレーションが流行りだし、ジャンルのボーダーライン上にある音楽としてフィリップ・グラスやスティーブ・ライヒのミニマルミュージックがもてはやされました。そういうクロスオーバーなジャンルを得意とする演奏家と、ブラームスやベートーヴェンを得意とする演奏家は普通は重ならないのですが、両ジャンルとも完璧に演奏できた初のヴァイオリニストがクレーメルだったように思えます。
そんな背景も考えると、クレーメルのヴァイオリンで、フィリップ・グラスのミニマルミュージックをじっくりと聴ける11月の放送は、必見です!

【ヴァインベルク 作曲 「ポーランドのメロディ」】
「ポーランドのメロディ」は、最初から最後までクレズマーミュージックのメドレーのよう。クレズマーとはユダヤ民謡をルーツとする音楽のことで、簡単にいえば「屋根の上のヴァイオリン弾き」の音楽をイメージしていただければいいでしょう。物悲しい旋律にドンチャン騒ぎのリズムという組み合わせの音楽です。長年ポーランドで活躍している指揮者カスプシクさんの「民謡」こぶし回しは、さすがでしたね。

演奏者の略歴

ギドン・クレーメル(ヴァイオリン)
ギドン・クレーメル(ヴァイオリン)
Gidon Kremer (Violin)
孤高の音楽を奏でるヴァイオリンの世界的巨匠が、ライフワークとして取り組む作曲家、ヴァインベルクのヴァイオリン協奏曲を日本で初披露する。
1947年リガ生まれ。モスクワ音楽院でオイストラフに師事した後、70年のチャイコフスキー・コンクールで優勝。独創的な演奏解釈と技巧でたちまち世界的名声を確立した。カラヤン、バーンスタイン、アバド、小澤征爾、メータらの指揮で世界の一流オーケストラと共演を重ね、室内楽でも活躍。近年は若手の育成にも力を注いでいる。
読響とは31年ぶりの共演となる。
ギードレ・ディルヴァナウスカイテ(チェロ)
ギードレ・ディルヴァナウスカイテ(チェロ)
Giedre Dirvanauskaite (Cello)
クレーメルが創設したアンサンブル「クレメラータ・バルティカ」のチェリストであり、ソリストとしても活躍している。リトアニアのカウナスに生まれ、ロストロポーヴィチやゲリンガスのマスタークラスで学んだあと、ロッケンハウス音楽祭に招かれ、クレーメルらとのアンサンブルにて注目された。リトアニア国立響、リトアニア室内管などに所属し、室内楽でアルゲリッチ、アファナシエフ、バシュメット、ホリガーらと共演を重ねた。最新の録音は、クレーメル、ピアノのトリフォノフとのトリオ(ドイツ・グラモフォン)。読響とは初共演。
ヤツェク・カスプシク(指揮)
ヤツェク・カスプシク(指揮)
Jacek Kaspszyk (conductor)
名門ワルシャワ・フィルの音楽監督を務めるポーランドの名匠が、ヴァイオリンの巨匠クレーメルと共演し、母国生まれの作曲家ヴァインベルクのヴァイオリン協奏曲を日本初演する。ショスタコーヴィチの交響曲第4番も注目だ。
1952年ポーランド東部のビャワ・ポドラスカ生まれ。ワルシャワのショパン音楽大学で指揮と作曲を修め、77年にカラヤン国際指揮者コンクールで3位に入賞して注目された。
その後、ポーランド国立放送響の首席指揮者、音楽監督、北オランダ・フィルの首席指揮者などを経て、98年から2005年までポーランド国立歌劇場の音楽監督、芸術総監督を務めるなど、名実共にポーランドを代表する指揮者として活躍する。13年にワルシャワ・フィルの音楽監督に就任した。
ベルリン・フィル、バイエルン放送響、パリ管をはじめとする一流オーケストラのほか、ベルリン・ドイツ・オペラ、リヨン国立歌劇場、チューリヒ歌劇場などの名門オペラにも客演し、コンサートとオペラの両方で高い評価を得ている。ピアニストのアルゲリッチやツィメルマンら著名なソリストとの共演も多く、20世紀・現代音楽にも精力的に取り組んでおり、とくにシマノフスキやルトスワフスキなどポーランドの作曲家の作品の指揮では定評がある。
読響とは1989年以来、28年ぶりの共演となる。
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