演奏レビュー

日時

2020年2月20日(木)2:29~3:29(水曜深夜)予定
BS日テレ 2月29日(土)朝7:00~8:00予定

2月放送プログラム

ジョン・アダムズ作曲 サクソフォン協奏曲
グバイドゥーリナ作曲 ペスト流行時の酒宴(日本初演)

指揮
下野竜也
サクソフォン
上野耕平

(2020年1月15日 サントリーホールにて収録)


【2月の演奏・聴き所】
音楽プロデューサー 新井鴎子の演奏レビュー

新井鴎子プロフィール
読響シンフォニックライブの構成を担当
クラシック音楽のコンサート・テレビ・ラジオ番組の構成を多数手掛け、長年にわたりその楽しみや魅力を親しみやすく伝えてきた。
音楽祭のディレクターやオペラ・ミュージカルの脚本、執筆活動など〈クラシック音楽〉の分野で幅広く活躍している。
現在、東京藝術大学特任教授。

【ジョン・アダムズ作曲 サクソフォン協奏曲】
多彩な音色と超絶技巧のスーパー・サクソフォン奏者上野耕平さんと、下野竜也さん指揮読響の緻密なアンサンブルでなければ演奏し得ない難曲中の難曲。ジャズの要素がふんだんに盛り込まれたジョン・アダムズのこの作品は、一見すべてアドリブのように見えるような自由さを持ちながら、楽譜の細部までが管理され計算され尽くして構成されています。それをまるでサクソフォンが天衣無縫に即興を繰り広げているように見せてしまう上野さんのテクニック、まさにスーパープレイヤーです。サクソフォンとオーケストラがこだまのように同じフレーズを真似するところの計算されたズレのスリル、ストラヴィンスキーの「春の祭典」の終盤を思わせる低音のオスティナート(繰り返し)にのって、サクソフォンが縦横無尽に吹きまくるところは大興奮です。

【グバイドゥーリナ作曲 ペスト流行時の酒宴(日本初演)】
まずこの曲を日本初演した下野さんと読響に心からの拍手をおくりたいです。音楽による拷問をうけたような、心も身体も打ちのめされた感覚。音楽に癒しを求めるといった生っちょろい考えがぶっ飛んでしまう凄絶な音楽体験でした。下野さんは楽器ひとつひとつの音に生き物のような生命力を与え、しまいには指揮者の手のつけられない猛獣に育ってしまった管弦楽と死闘を繰り広げます。その苦痛が頂点に達したあとに突然現れる楽園の残酷で空虚な明るさ。
曲の最後の方で異質なデジタル音が不意に現れた時の、背筋がゾッとするような恐怖は、言葉にたとえようがありません。デジタル音は浮かんでは消え、浮かんでは消え、聴き手の狂気を煽り、次第に管弦楽を侵食していきます。しかしその不快な連鎖もあっけなく断ち切られ、気がつくと静寂が戻っていました。
下野さんの「楽譜」へのマゾヒスティックなまでの奉仕と献身、それに応える読響がこの曲の真実を伝えてくれました。

演奏者の略歴

下野竜也(指揮)
下野竜也(指揮)
Shimono Tatsuya
1969年鹿児島生まれ。鹿児島大学教育学部音楽科、桐朋学園大学音楽学部附属指揮教室、イタリア・シエナのキジアーナ音楽院で学んだ後、大阪フィルの指揮研究員となり、朝比奈隆ら巨匠たちの薫陶を受けた。文化庁派遣芸術家在外研究員としてウィーン国立演劇音楽大学に留学中、2000年の東京国際音楽コンクールと01年のブザンソン国際指揮者コンクールで優勝を飾った。
国内の主要オーケストラはもとより、チェコ・フィル、シュトゥットガルト放送響、ローマ・サンタ・チェチーリア国立アカデミー管などと共演し、国際的に活躍している。また、出光音楽賞、渡邉暁雄音楽基金音楽賞、新日鉄音楽賞・フレッシュアーティスト賞、齋藤秀雄メモリアル基金賞、芸術選奨文部科学大臣賞、東燃ゼネラル音楽賞洋楽部門奨励賞など受賞も数多い。06年から読響の正指揮者、13年から17年3月までは首席客演指揮者として多大な功績を残した。14年9月にはカレル・フサの〈この地球を神と崇める〉を日本初演し、読響をミュージック・ペンクラブ音楽賞受賞に導いた。17年4月から広島響の音楽総監督を務めるほか、広島ウインドオーケストラ音楽監督、京都市響常任首席客演指揮者(2020年3月まで)、京都市立芸術大学音楽学部指揮専攻教授、東京音楽大学吹奏楽アカデミー特任教授などの任にある。
上野耕平(サクソフォン)
上野耕平(サクソフォン)
Ueno Kohei
茨城県東海村出身。東京芸術大学卒業。日本管打楽器コンクールに史上最年少で第1位及び特別大賞、アドルフ・サックス国際コンクール第2位を受賞。スコットランドでの世界サクソフォン・コングレスにソリストとして出場し、喝采を浴びた。常に新たなプログラムにも挑戦し、サクソフォンの可能性を最大限に伝えている。テレビ「題名のない音楽会」「情熱大陸」などにも出演。「The Rev Saxophone Quartet」メンバー、吹奏楽でも活躍中。2018年第28回出光音楽賞受賞。鉄道と車もこよなく愛し、深く追求し続けている。昭和音楽大学非常勤講師。
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