「今年はよく降りますね」
 「んだなぁ」

 ここで生まれ育ち全てを分かっているかのような僕の生意気な言葉に、明雄さんはそう答えてくれた。そして、僕は嬉しくなった。

 僕と明雄さんの会話はとてもシンプルだ。まるでクイズみたいな会話。問題が出て、答えて、正しい答えを聞く、そんな簡単な流れだ。でも、最初の問題を出すのは僕でも明雄さんでもなく、その時二人が見ているモノ。そして、そのモノについて僕がいつも一言何か言う。そうすると、明雄さんがいつも答えを教えてくれる。




 
 春、桜のつぼみの前で、「あと2、3日ですね」「いや、もうちょっとかかるな」。夏、実ったキュウリの前で、「もう食べられますね」「まだまだ」。秋、縁側で、「今年も綺麗ですね」「今年はあんまりだ。去年の方が綺麗に染まってたよ」

 そんな風に、その時、そこにあるものでそんな会話を何度もした。僕の答えがあっていようと間違っていようと、いつも明雄さんは何も分かっていない僕に詳しく教えてくれる。
 そうやって僕はいろんなことを学んでこられた。都会では気付かないようなこと、静か過ぎるほどの時間の中でしか気付かないこと、いろんなことを学べた。

 役場の中から窓ガラス越しに降ったり止んだりを繰り返す外の雪を眺めて、明雄さんが「んだなぁ」の一言で言葉を終えた時、まるで「大正解!!」と言われたような気がして、僕は一人で喜んだ。

 今週で今年が終わるけれど、こういった会話は来年もまた続けていきたいと思った。
 そして、来年はもっと多くを学べる一年にしたい。




 

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