「炎の音を聞く」

タイルづくりは、僕にとっては初めての焼き物の世界。
昔から、ロクロを使った茶碗づくりなどに興味はあって、やってみたいとは思っていたが、火守りまで経験する日が来るとは全く考えてもみなかった。

この火守りを通して、1250℃という想像も出来ない世界を体験した。焚口を塞ぐ鉄板を開けると、炎の熱気が圧力となって体全体に押し寄せてくるのが分かった。あまりの熱気に頭に巻いていたタオルは焦げ、着ていたジャンバーが若干融かされたのかシワシワになってしまった。それ程の熱気なのだ。ついつい反射的に「熱い」と言う言葉が口から何度も出てしまった。明雄さんには何度も「そんなの当たり前だ」と言われたが、どうしても出てしまうのだ。焚口の奥では炎がメラメラと踊る。何だか、まるで生き物かのように感じた。




そして、職人・長橋さんに火守りの方法を教えて頂いた。まずは薪のくべ方。くべ方にはちゃんと規則があり、タイミングは「炎の音」。薪をくべ、その薪が自ら燃焼し始めるとパチパチと音がする。この音が聞こえなくなったら薪を足すのだ。
そして、「炎を読む」という事も必要になる。炎を読むとは、焚口を開け、中の炎の様子から温度や炎の状態の確認すること。これは、初心者の僕にはまだまだ判断しきれない事で、やはり職人の世界だった。長橋さんたちプロはもう感覚で分かってしまうようだった。
一中夜続く火守り。夜が深まると、相当冷える村。白い息を吐きながらも薪をくべる。窯の中の温度を下げないため、薪をくべ終えたらすぐに鉄板を戻し、焚口に蓋をしなければならないのだが、何度か手を止めて少し見入ってしまった。壁一枚を隔てて温度が何百℃も違うこの状況が不思議で中が気になって仕方がなかった。

素焼き・本焼きと2回の窯焼きを通し、触れた焼き物の世界。まだまだ奥深く、片足の指先を触れたくらいの僕は、まだまだ知らない事が多いと思うが、本焼きの最後の方には長橋さんの言う「火を読む」「火と会話をする」ということが少しだけだが分かった気がした。
今回のこの「タイルづくり」では、焼き物の職人の仕事に触れられて本当に色々と学べた。タイルづくりも成功し、流し台も出来た。実際に使える日はまだ先だけど、流しを使う度にこの貴重な経験を思い出すんだろうな。

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