2010年5月上旬 新芽動き出し/煎茶作り準備
心配していた新芽がようやく動き始めていた。例年よりも半月も遅い動きだし。
一般的には、一つの芯に五枚の葉がなる一芯五葉の上部2、3枚を摘むもの。しかし、茶葉は幼ければ幼いほど旨みが凝縮されているという事で、村では一つの芯に3枚の葉がなる一芯三葉の状態で摘む事にした。
3枚の葉が出開くまでおよそ1ヶ月。その間に、茶葉を揉む際に欠かせない作業台「焙炉」を準備する。茶葉を揉む台の部分は和紙とコンニャク糊でつくられる。和紙は丈夫で耐熱性が高い、茶葉の風味を損なわない天然素材。そして、さらに準備していたもの、それが茶筒。竹の節を利用し、漆とマコモ墨でコーティングを施した。これは完成した茶葉の湿気対策にもなる。

2010年6月 茶摘み
茶畑の6割の新芽が一芯三葉に。
晴れ渡り絶好の茶摘み日和となった。摘み方から、その後の加工法まで豊富な知識と経験を持つお茶の達人・赤堀九二男さんを指導者としてお迎えし、いよいよ4年越しの茶摘みを実行する。
お茶摘みのコツは指のひらで切り口をきれいに折ること。達人は手早く摘む。その姿を見て、真似してはみたもののなかなか早く摘めない。慣れて来ると少しずつ早くなったが、達人には遠く及ばなかった。
収量はこの日だけで1kgほどにもなった。





工程@ 蒸し[60秒]
摘むと茶葉は酸化がどんどん進行するので、すぐさま100℃の蒸気を茶葉に当て、酵素の働きを止める。蒸し時間がお茶の味を左右する。短ければ浅蒸し、長ければ深蒸し。今回はコクが出る深蒸しにすることに。深蒸しの目安は1分間。蒸気をまんべんなく当て、1分経過したら香りを逃がさぬようすぐさま冷ます。

工程A 葉振るい[40分]
冷ました茶葉を温かい焙炉の台に。ここからが手揉み。苦み、渋みを押さえ気味にして、旨みを最大限染み出させるには、その手揉みの前に行うのが葉振るい。茶葉は表面付近に渋みと苦みの成分が、中央付近には旨みの成分が多く存在するので、表面を傷つけすぎないよう、内部の組織を壊すのが手揉みのねらい。
まずは表面の水分を蒸発させるため、手ですくい上げた茶葉をまんべんなく空気に当て、やさしく揉みながら、30℃くらいに熱された焙炉の台に落としていく。この作業を繰り返す。終わりの合図は葉脈で判断する。蒸発したら葉脈がくっきりと浮かんで来る。

工程B 軽回転揉み[30分]
いよいよ茶葉内部の組織をイメージしながらの揉む作業に。茶葉を加工する上で一番重要で一番難解な工程。この揉み具合がお茶の旨味を決める。
軽い力で茶葉内部の水分を揉み出す作業でもあるが、うまく茶葉を転がし続けないと表面の傷が増え、苦みと渋みの強いお茶になってしまう。
同じ手の動きの繰り返しだが、これが本当に難しい。僕はうまく転がせず茶葉を台上で引きずってしまい傷つけるばかり。達人の動きを見て、イメージしながら手を動かしてみても、どうもうまくいかない。やはり積み上げられた経験数が違う。達人の「修行は一生」、この言葉の重みを深く感じた。

工程C 重回転揉み[30分]
引き続き揉みの作業が続く。内部の水分量が減り軽くなると重回転揉みの工程になる。
今度はしっかり力を入れながら、茶葉の塊を転がし続け水分を揉み出しつつ、内側の組織をしっかり壊す。

工程D 中上げ
ここまで計1時間40分。一度、茶葉を焙炉から上げる。
転がし、揉み上げる作業が続き焙炉の和紙には茶渋が付着。そのままの状態で揉み続けると渋みが茶葉に移ってしまうのできれいに拭き取った。

工程E 揉み切り
ここからが仕上げの段階。
焙炉に戻した茶葉を両手で30cmほどの高さに持ち上げ、細く撚っては落とす。

工程F 軽繰り揉み
最後は高く上げずに焙炉の中で包むようにやさしく揉む。この工程を終えた頃には、茶葉はきれいな針のような状態になった。ここまで、3時間と11分。あとは乾燥のみ。

工程G 乾燥
揉み上げた茶葉を暖かい台の上に薄く広げる。広げた茶葉の真ん中に丸く空間を持たせる事でそこから熱が放出され焦げにくく出来る。
15分ごとに崩し揉み上げては、また均等に広げる作業を繰り返す事2時間。外はすっかり暗くなっていた。半日以上手を動かし続け、ようやくお茶が完成した。およそ1kgの茶葉が最終的に200gまでになった。


煎茶完成
完成した茶葉を早速頂く。手揉み茶の旨みを最も引き出すには、湯の温度=50℃〜70℃。急須で蒸らす時間=約1分。


味わう
1分後、蓋を開けるとそこには摘んだ直後のようにきれいに開いた茶葉が。達人には、それが「丁寧に傷つけないよう揉めた証」と言ってもらえた。染み出しているはずの旨みを最大限楽しむに、最後の1滴まで注いで、湯のみに注がれたお茶は薄く優しい緑色に。これも茶葉に傷が少ない証拠という。
飲んでみれば、4年間の重みが口に広がるような奥ゆかしいお茶の味わいが広がった。薄い色に反して味は、濃く、それでいて深い旨み。村で育て、村で揉み上げた最高においしいお茶が完成した。



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