手押しポンプ
ハンドルを手で上げ下げして水を汲み取るもの。
江戸時代に灌漑用として伝わる。明治時代中期以降、政府は、開放型井戸の汚染によるコレラなどの伝染病拡大を懸念し、密閉型手押しポンプへの改善を勧めていき、やがて各地に広まった。


手押しポンプの名称
シリンダー
手押しパイプの本体部分(筒)
ピストン
シリンダー内部で上下するパーツ。手押しポンプの心臓部分。
ハンドル
この部分を上げ下げする事によって、本体内のピストンも上下に動き、水を汲み上げる。
ハンドルを押し下げる → ピストンは上がる
ハンドルを引き上げる → ピストンが下がる

ピストンが上下する事によって発生する圧力によって弁が開閉され、水が出入りする。
手押しポンプには、シリンダー本体の底と、ピストン上部の二箇所に弁がある。

2010年3月 井戸の茅屋根老朽化
今年の大雪の被害を受けたのは作物だけではなかった。
7年前に井戸が完成した時に建てられた屋根の茅が、積もった雪の重みで崩れ落ちた。
その一部は、井戸水にも落ちてしまっていた。
普段、井戸は内蓋で密閉しているのだが、釣瓶式なので使用する時は開放せざるをえず、その際にこういった異物が入り込んでしまう。

2010年4月 井戸内の清掃
茅が入り込んでしまった井戸の水は、畑の水やりだけでなく、僕らの飲み水としても使用する大切な水。井戸内を掃除し、水をきれいにすると同時に、内蓋を開放しなければ使えないこの釣瓶式井戸のシステム自体も見直す事にした。
話し合った結果、明雄さんも若い頃に使用した事がある密閉型の手押しポンプに改良する事にした。これならゴミなどが入り込む事はない。

2010年7月 手押しポンプの視察
現役で手押しポンプを使用しているという集合農地を訪問し、その使い具合を体験させて頂く。実際に使用してみると、連続的に水の汲み取りができ、利便性に優れていた。
各所で所有している方に話しを聞いていたさなか、とある農家さんに、現在は使用していないという一基の古い手押しポンプを譲っていただける事になった。ただ、手押しポンプの心臓部分であるピストンはとてもそのまま使える状態ではなかった。
手押しポンプの分解点検/錆び落とし
頂いたポンプを分解し細かくチェックすると、ピストン以外は問題なかった。
しかし、鉄鋳物のパーツは全体的が錆ついており、これを削り落とさなければせっかくの水を汚す原因になってしまうので、落とせる限り全て落とさなければいけなかった。
この錆落としはなかなかの重労働。数日がかりで、終わった頃には腕がくたくたになってしまった。
ピストン修復
ピストンは3つのパーツで構成されており、これら全てのパーツが劣化してしまっていた。
基盤となる木玉にはひびが入り、シリンダーと木玉を密着させる巻皮は縮みあがり、そして水の出入りを司る弁は穴を塞げない状態になっていた。どれも作り直すしかなかった。
木玉の修復
木玉に使用するのはクリノキ。水を含んだ時にしっかり膨張するので、シリンダーに密着させる上でもってこい。太く芯がしっかりしたクリノキを選び、始めは鉈で粗く削り、その後カンナで徐々に細めていった。
巻皮の修復
巻皮には、相当するちょうどいい物があった。家にお邪魔して頂いた、昔使っていたという古い皮ベルト。
そこで初めて明雄さんが毎朝筋トレをしているという事実を知った。
「俺の腕っ節は強いんだぞ」と言われ、実際に触った時、80歳とは思えない程の硬さだったので驚いた事があった。その秘密がこんな所にもあった。
この時、ベルトの他に、井戸内の水を汲み上げる為に必要な塩ビパイプも譲って頂いた。

2010月8月 ピストン修復 続き
頂いた厚さ5mmのベルトに合わせ、木玉の巻皮取り付け部分を削る。シリンダーと木玉を密着させなくてはならないミリ単位の作業のため、相当な時間がかかった。ある程度削り進めたら、巻皮を木玉に固定しシリンダーとの密着具合を確かめる、の繰り返し。

2010年9月 ピストン完成/井戸屋根解体
最終調整後ベルトの厚みも、結果3mmにまで削った。
シリンダーに入れて窮屈さを確認してみると、、、ピストンは抵抗無く落ちてしまった。
削り過ぎてしまったのかと心配ではあったが、木玉は水を含み膨張してシリンダーと密着するものなので、この大きさでひとまずチャレンジしてみる事に。
ベルトのバックルを重りに利用して作った弁も取り付け、2週間の水浸け。

その間、老朽化が進んでいた茅葺き屋根の方は解体し、新たに杉皮を敷き詰めた屋根に改築。

2010年10月 手押しポンプ式の井戸完成
10日後、膨張したピストンをシリンダーにはめ込んでみると、心配を吹き飛ばす見事なまでの密着具合だった。
今まで使っていた内蓋を利用し、明雄さんに頂いたパイプを取り付け、設置が完了した所で、シリンダー内の空気を閉じ込める為の「呼び水」を入れ、いよいよ手押しポンプを稼働させる。ハンドルを動かしてみると、シュポシュポと水がパイプ内を汲み上がってくる音!そして口から一気に水が噴射!ピストンの性能が良いからか、汲み上げる量もかなりのものだった。
ポンプの口に竹を取り付け、蓋で密閉し、手押しポンプ式井戸はついに完成した。
短時間で連続的に水が汲み取れ、畑の水やりも快適に。透き通った奇麗な水は乾いた喉をも潤してくれた。



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