木美佐子 (51歳)
自宅で機織り、草木染め、羊毛クラフトの教室(工房おりをり)を開き、作成した作品の販売も行う他、全国各地に直接赴き講習を行うなど様々な人に羊毛クラフトを広めるため尽力している。さらには、廃棄される古い道具を引き取り修理し、再利用もしている。
修行の為にインドやニュージーランドに行っていたそうで、たまに英語のフレーズが出てしまうなどお茶目な先生だけど、何にも分からなかった僕らに優しく分かりやすく教えてくれました。


セーターづくりの工程
@ デッサン C 双糸づくり
A カーディング D 草木染め
B 糸紡ぎ E セーター編み

2010年8月 お祝いの準備開始
11年目に突入した村の大先輩であるTOKIOのリーダー城島さんが今年いよいよ40歳を迎える。御歳81歳になる明雄さんと比べたらまだまだ半分ほどだが、40代に突入する城島さんを村総出でお祝いする事にした。
準備を始めたのは、まだまだ猛暑真っ只中の8月。
城島さんの誕生日である11月17日には大分冷え込んでいるので、テンとシロの一生に一度のヴァージンウールを使ってセーターを編む事にした。
今年の春先、初めて毛刈りをしたテンとシロの毛の合計量は3・5kg。寒い冬に向けて何か作ろうと、乾燥させて、風通しのいい場所で保管していた。
こうして、男だらけのセーターづくりプロジェクトがスタートした。
デザイン
まずは肝心のデザインを考える。
長年付き添っているだけあって様々な案が持ち上がったが、40歳になるという記念ということで後ろ身ごろには背番号のように真っ赤な「40」という文字と緑色で「しげ」。
そして、前身ごろには「クチビル」の模様を入れる事になった。何故、唇なのか僕には分からなかったが、太一さんのこの案にみんな納得していた。やっぱり、僕には分かり得ないTOKIOのメンバー内の城島さんへの思いがあるんだと思った。なんだか、このデザインの話し合いでTOKIOメンバーの仲の良い雰囲気を感じる事が出来た。
カーディング
城島さんには、明雄さんの腹巻きを作ると思い込ませて、いよいよ秘密のセーターづくりがスタートした!しかし、いざ作るにしても刈った毛をどうすればいいのか誰も分からなかったので、先生に教えて頂く。
まずは原毛を毛糸にするためにカーディングという作業を行う。
カーディングとは、針金が付いたラケットを2つ使って羊毛を梳いて、一方方向に揃える。コツは、力を入れないこと。ラケットで羊毛を撫でるように優しく扱うと、羊毛がうまく解れていく。これを何度か繰り返し、最後に綺麗に梳かれた羊毛を丸める。これでやっと糸が紡げるようになった。
糸紡ぎ
以前使った綿毛用の糸車が手で車輪を回しながら紡ぐのに対して、羊毛に使用する糸車は、足を使って車輪を回転させて両手で紡ぐ「足踏み糸車だった。
先生は見事に羊毛を糸に紡いでいっていた。羊毛を送り出すだけで自然に糸になっていくように見えたが、実際に紡いでみると、これが本当に難しかった。松岡さんも少し手こずっていたが、さすがドラムを演奏しているだけあって、足と手の動きの連動が難しいこの糸車での紡ぎ方をすぐに取得していた。城島さんも自分のセーター用の糸づくりとも知らずに糸紡ぎに挑戦していたが、紡ぐ羊毛の量を調節するのが難しいので、糸が細すぎてしまったり、太くなり過ぎてしまったり、縒れ過ぎて糸が詰まり巻き取れなくなったりしていた。糸紡ぎのコツは、頭で考え過ぎないこと。とにかく、練習して体で覚える。みんなすぐに上手くなっていて、改めて器用さに驚いた。


2010年9月 双糸づくり
セーターづくりに必要な1400mほどの糸づくりが完了した。しかし、出来上がった糸は単糸と言われる細い糸。単糸は主に織物などに使用するが、今回はセーターを編むので保温性に優れ、仕上がりが均一に綺麗に仕上がるという双糸にする。
双糸は単糸を二本撚り合わせる為、足踏み糸車を逆回転させてつくる。


材料採取
双糸が出来たら、デッサンを元に糸を染める。
先生によると村に自生する植物で様々な色が出せるそうなので、先生と里山を探索する事にした。
メンバー4人で考えたデッサン通りのセーターを作るには白の毛糸以外に赤、黄色、緑が必要。赤を出す植物は少ないそうだが、染料として太古から使用されていたというニホンアカネが自生していた。真っ赤な夕焼けを茜色と表現する事があるが、これはこのアカネが語源で、夕日のような真っ赤な色に染まるそうだ。
そして、黄色にはコブナグサという草を使用する事になった。村のあちらこちらで生えているこの草は、今まで全く気にする事がなかったがこういった草花が染色として使用出来ると知って、びっくりした。
この草木染めは、時期やその時の環境によって同じ草でも色が変化するらしく、村の自然の環境がそのまま色として表現される。同じ色を出すのも相当難しく、一度きりの色なのだ。

染色
収穫したアカネとコブナグサを水に煮出す。すると、アカネのお湯は真っ赤に染まり、コブナグサのお湯は黄色に染まった。いよいよ、毛糸をここに浸け込んでいくが、その前に毛糸に施す事があった。漉した液体に分量の羊毛を浸し、ゆっくり煮立てる。それは、草木染めをする上で重要な『媒染』という作業。


媒染
媒染とは、繊維にあらかじめ金属性の物質を浸透させることにより、後から入れた色素とイオン結合させ、それだけでは浸透しにくい色素を定着させる。媒染する事により、色が抜けにくくなるだけではなく、より鮮やかな発色を促す。同じ染料でも媒染剤が違うと色素と繊維のイオン結合の仕方が変わるので全く違う色に染まる。
羊毛の場合、「無媒染」というわざと媒染しない場合もあるが、色が薄く、時間が経つと色が抜けてしまう事がある。染料する前に媒染する「先媒染」と染色した後に媒染する「後媒染」があり、使用する草木や出したい色によって使い分ける。
今回、村ではサザンカのアルミニウム成分を抽出したものと鉄から抽出した媒染剤を使用した。
まず、サザンカの灰から抽出したアルミニウムでアルミ媒染をした毛糸から
赤、黄色を染め、より鮮やかな色を出した。さらに緑は、黄色に染めた後に鉄から抽出した媒染剤を使用する事により渋めの緑を出す事が出来た。こうして、どの色も草木染め独特の渋く奥深い色になった。




2010年10月 編み 【セーター作りの工程】
@ ゲージを作って基準となる大きさを決める。
A 設計図を作る。
B 作り目を編んでから、メリヤス編みで編んでいく。
C 後ろの40となる赤い部分は色を変え編む。
D 前のフェルトでワッペンを作る。
E 前、後ろ、袖を編み終わったら最後に縫い合わせ完成。

前身ごろと後ろ身ごろと両腕と、それぞれの部位をメンバー内で担当割し、最後に繋ぎ合わせる。TOKIOのメンバー4人全員で城島さんへのセーターを編むのだ。しかし、最後にそれぞれの部位を合わせるので全部が揃い、一つのセーターが出来上がるように編み目の目安を決めなくてはならない。その目安を元に今回作るセーターの設計図を作成したので、いよいよ編み始めだ。
僕も袖の部分をお手伝いさせてもらえる事になった。


編み始めたが、メンバー全員、編み物の初心者。何も分からなかったけれど、先生が丁寧に教えてくれたので、複雑な編み方を徐々に理解出来るようになった。同じ作業の繰り返しが続くので、慣れるとみんな無心で編んでいた。けれど、無心になり過ぎて、「今、何目編んだか?」とか「これっ表編みだっけ?裏編みだっけ?」などと基本的な事まで分からなくなる事がよくあった。僕がお手伝いした袖の部分は白一色のメリヤス編みのみだったが、達也さんが担当する後ろ身ごろは「40」という赤色で模様が入るので、色も変わるし、目数・段数を細かく気にしなければならないので難易度がグンと上がる。何でも器用にこなす達也さんが、今回はかなり苦戦していた。
太一さんが担当する前身ごろには、フェルトで作る唇のワッペンがワンポイントでつく。フェルトとは、羊毛を専用のニードル針で絡ませる事によって不織布にして作る。立体的にも作れるので、粘土のように、造形しやすくすごく楽しそうだった。出来上がった唇のフェルトワッペンは本当にかわいらしかった。特に、3色の羊毛を混ぜ合わせた下地には太一さんのセンスの良さを感じた。

徐々に形になっていくセーター。メンバー全員が仕事の合間だったり、城島さんにバレないように夜を徹して苦労しながらも一編みずつ編んでいる姿を見ていると、これ一つだけ作るにしても本当に大変だとつくづく感じた。城島さんの40歳のおめでたいお祝い用のセーターは、TOKIOのメンバー全員の城島さんに対する心がこもったすばらしい贈り物になったんじゃないかと思いました。

2010年11月 城島さん、40歳の誕生日
いよいよ城島さんの40歳の誕生日。
似顔絵ちらし寿司を作り、みんなでお祝いする。ずっと隠しながら進めていたので、開けた時は驚いていた。僕もお手伝いした袖の部分が長過ぎてしまったが、世界にただ一つだけの心がこもったセーター、この贈り物に城島さんはすごく嬉しそうに喜んでいたので、今回のこのプロジェクトは大成功でした。


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