このドラマは、母国の勝利を信じ国への奉仕に励む模範的な日本人家族の記録。
歴史は地獄へひた走るとも知らず、壮絶な試練の連打を懸命に受け止めようとした父、母、幼い娘、そして運命の犬の4年間の記録である。
暮らしに恵まれ愛に溢れた幸福な家族、松倉一家は、誰の目にも美しかった。
男は主(あるじ)たらん。
家族は勿論、おんな子供、友人、仕事仲間を守り、いかなる時も先頭に立ち。
気概を持って戦争の後押しに努め、国のために範となる。
誰もが男を尊敬し、愛し、従った。
しかし、ある時から日本は致命的な大敗、戦況悪化の事実を国民に偽るようになる。
ついには玉砕という言葉で、壊滅の事実さえ摩り替えた。
男は疑問を抱き始める。
どんなに踏ん張っても物資は滞り、家計は逼迫するばかり。
反比例するように、国民が互いを牽制し縛りあう空気が濃密になってゆき、息もできない。
そして命が…。
指の間を落ちる砂のように、男のまわりから消える命を、どうにも止められない!
一人娘は仔犬のような黒い瞳で男を見上げる。
真直ぐな視線で戦争の意味を無言で問う。
間髪を入れず隣組の回覧板が家族に命じた「犬の供出」
『そんなに犬を集めてどうするの? 私の犬はいい子よ! 賢くて優しいの!』
絶叫する娘の腕から温かい仔犬が剥ぎ取られる!
男はそれを止められなかった。
命令には背けない、非国民にはなれない…。
慟哭する娘を母は抱きしめるが、家族の箍は外れ、それぞれが孤独の淵へと落ちてゆく。
それでも必死に繋いだ手を、東京大空襲の炎が舐め尽そうとしていた。
一夜明けて、広がるのは焦土。
全てを失った家族を待ち受ける、さらなる試練。
それは一体……。