毒を持つ!
ヒガンバナ
第799回 2005年9月25日
秋のお彼岸に、短い期間咲き誇るのが
ヒガンバナ
。しかし花屋さんに行ってもなぜか置かれていません。おまけに
全国に1000もの別名のある花
なのですが、
「ユウレイバナ」「ソウシキバナ」
など、その多くがあまり良いイメージのものではないのです。一体なぜ、こんな
ネガティブなイメージ
が付きまとうのでしょう?今回はちょっと変わった花、ヒガンバナを科学しました。
矢野さんが、町の花もヒガンバナである熊本県のヒガンバナの名所を訪ねました。しかし、開花予想は
あと1週間なのに、そこには花が無いのみならず、葉も茎も無かった
のです。これはどういうことなのでしょう?
ところが1週間後再び同じ場所に行ってみると、なんと開花予想通り、
ヒガンバナが咲き誇っていた
のです。花の高さを測ってみると約52cm。本当に、たった1週間で52cmも伸びたのでしょうか? そこで、まだ芽も出ていないヒガンバナを観察してみると、1日めに芽が出て、2日めでなんと20cmも伸び、5日めにはつぼみが赤く色づき、なんと7日めで開花したのです。確かに、ヒガンバナはちゃんと
1週間で発芽から開花までしてしまう
のです。
しかし、ヒガンバナをよく見てみると、
花は咲いているのに葉がありません
。一体、葉はどこにあるのでしょう?実は、この時
ヒガンバナの葉は球根の中にある
のです。
ヒガンバナは秋に花を咲かせた後、冬に球根から葉が出てきて光合成をし、球根を成長させます。そして春になると葉は枯れますが、養分が蓄えられた球根は分かれ、地下で新しい命を生みます。そして秋になると、また花を咲かせるのです。
ヒガンバナは発芽から開花までたった1週間しかかからない。
しかも、葉は冬に生えてくるのだ!
ヒガンバナの花は、なぜ巨大で、なおかつ真紅なのでしょう?
実は、
この花を好んでやってくる生物がいる
からと言われているのです。その生物とは、
アゲハチョウの仲間
。しかもアゲハチョウは、他の花には見向きもせず、ひたすらヒガンバナだけの蜜を吸っています。一体、なぜでしょう。
そこで、こんな実験。秋に咲く色が異なる4つの花、
黄色のオミナエシ、青紫のリンドウ、うす紫のキキョウ
、そして
赤いヒガンバナ
を準備。そこにアゲハチョウを放して、どの色の花に一番多くやって来るのかを観察しました。
すると、
アゲハチョウは圧倒的に多くヒガンバナに集まった
のです。実は、他のチョウと違い、
アゲハチョウは赤色がよく見える
と言われています。つまり、秋のこの時期に真っ赤に咲く花はほとんど無いので、
赤色をしているヒガンバナはアゲハチョウの仲間を独占できる
というわけなのです。しかし残念なことに、日本のヒガンバナは球根で増えるので、せっかくアゲハチョウが花粉を運んでくれても種子が出来ないのです。
ヒガンバナを探してみると、なぜか
田んぼのあぜ道に植えられている事が多い
のです。その理由を農家の方に聞いてみると、なんと
ネズミよけになる
からだとか。果たして、本当なのでしょうか?
そこで4匹のラットを用意し、ヒガンバナの球根でさえぎった先に大好物のチーズを置いてみました。しかし、どのラットもチーズの方へ行くために
球根をかじろうとはしません
。一方、コルクで壁を作りその先にチーズを置いた場合、
4匹のうち3匹のラットがいとも簡単にコルクをかじってチーズまでたどり着いた
のです。しかし、なぜネズミはヒガンバナの球根をかじらなかったのでしょう。
その理由は、ヒガンバナの球根の中には
リコリン
という有毒成分が入っているから。分析してみると、球根一つに15mgのリコリンが入っており、ネズミだと1500匹の致死量に相当するというのです。実は
ヒガンバナは、動物や虫から球根を守るため有毒成分を持つようになった
と言われています。確かに、農家の方が言うとおり、ヒガンバナはネズミよけになっていたのです。
ところが驚くべきことに、なんと
戦時中の食糧難の時にはヒガンバナの球根を食べていた
と言うのです。実は、
有毒成分のリコリンは水溶性
なので水でよく洗うと毒成分が抜けて、
ヒガンバナの球根から少量のデンプンが取れる
のです。
そこで目がテン!が、専門家の立会いの下、ヒガンバナの球根からデンプンを取り出し、
特製ヒガンバナ団子
を制作。それを所さんに試食して頂くと「味はともかく噛みごたえは良い」との感想でした。
ヒガンバナの球根には毒があるので、ネズミよけになる。
しかし、有毒成分を抜けば食べることもできるのだ!