驚き
ビール
は太らない
第833回 2006年5月28日
間もなくサッカーのワールドカップ!開催国のドイツといえば
ビール
でお馴染みです。そこで今回は、ワールドカップ観戦のお供にも最適、おいしく飲める季節も到来した、
生ビール
を科学します。
ビールの原料といえば
“麦芽”
。よく耳にしますがいったい何者なのでしょう?
実は、麦芽とは
ちょっと芽が出始めた麦
のこと。ビールでは、たいてい大麦の麦芽が使われます。しかし工場で見ると、実際に使うときは、機械で芽を取り除いていたのです。
なぜわざわざ、麦芽を使うのでしょう?
その理由は
麦芽を使わないとアルコールが出来ない
から。そもそも
アルコールは、酵母菌が糖を分解することで作り出される
もの。しかし通常の麦に含まれているのは
デンプン
で糖はありません。ところが、
麦は芽を出すときに、蓄えていたデンプンを糖に変えて発芽に使う
のです。そのためビールは、デンプンが糖に変わった状態の麦芽を使い、作られるのです。
さらに、ビールの原料には
“ホップ”
も使われます。ホップは、高さが6m近くになる植物で、上のほうにできる
「毬花(きゅうか)」
という花の部分を使うのです。そのため、ホップの収穫は竹馬のようなものに乗って行います。このホップを入れることで、あの
ビール独特の苦味
が生まれるのです。
続いて生ビールの作り方を見てみましょう。まず、麦芽をすりつぶして煮た甘い液体の中に、苦味の素となるホップを加えます。これをこしたものに、酵母菌を加え、密閉されたタンクの中で約2週間
「アルコール発酵」
させます。このとき、酵母菌が糖からアルコールを作り出し、同時に
炭酸ガス
を作り出すのです。そしてこの後、酵母菌の発酵を抑えるため、約0度に保たれた密閉タンクの中で2ヶ月間熟成。これで、生ビールが完成します。
しかし、
生ビールの「生」とは何なのでしょう?
実は、生ビールとは、工場などで飲んだりする出来立てのビールで、
酵母菌が生きたまま残っているビール
のこと。生ビールは、常温になると酵母菌が再び活動を始めアルコール発酵が進むので、低温で保存しすぐに飲まなければいけないのです。一方、生ビールではないビールとは、
常温でも保存できるように低温殺菌という方法で、酵母菌を殺しています
。これを、生ビールに対して
「熱処理ビール」
と言います。
しかし、ビールケースやお中元などで常温で運ばれるビールにも、なぜか「生ビール」の文字がありました。のみならず、
今や日本のビールの99%は「生ビール」
だというのです。一体どういうことなのでしょう?
実は、生ビールにはもう1種類あって、
なんと熱処理をせずに酵母菌を無くした生ビール
があるのです。このため、生ビールなのに常温で保存したり、長期間輸送できたりできるのです。
その方法が、
「珪藻土(けいそうど)」
という特殊な土を使う方法。これを酵母菌の生きている生ビールに混ぜると、
珪藻土の表面のデコボコに酵母菌が付着し大きな粒子となるので、ろ過すると酵母菌のいない生ビールが出来る
のです。
今や、日本のほとんどのビールが生ビール。
それは、熱処理をせずに酵母菌を除去できる「珪藻土」のおかげだった!
ビールといえば気になるのが「ビール腹」。しかし驚いたことに、
ビールは意外とカロリーの低い飲み物
だったのです。さらに、ビールのカロリーの約7割はアルコールによるもの。実は
アルコールのカロリーは、体温の上昇に使われてしまうので脂肪として体に蓄えられることはない
のです。つまり、ビールの飲みすぎでビール腹になるというのは、間違いだったのです。
ではなぜ、ビール腹と言われるのでしょう。その秘密は
「とりあえず生(ビール)」
という言葉にあるというのです。
そこで、こんな実験。学生さんに最初にビールを飲むチームと、途中でビールを飲むチームとに分かれてもらい、お腹一杯になるまで焼肉を食べてもらう実験をしました。すると、
最初にビールを飲んだチームの方が焼肉を多く食べることが出来たのです
。
実は、
ビールに含まれるアルコール分と、ホップの苦味、炭酸ガスには胃の粘膜を刺激する働き
があって、その相乗効果で胃の活動が活発になるのです。実際に、ビールを飲んだ胃を見てみると、水や焼酎を飲んだときと比べて胃が活発に動いていました。つまり
ビール腹の原因は、ビールの食欲増進作用による単なる食事やつまみの食べ過ぎだった
のです。
実は、ビールは低カロリーの飲み物だった!
ビール腹の原因は、ホップや炭酸ガス等の食欲増進作用による食べ過ぎだった!