即席で上達
きれいな字
第926回 2008年3月23日
入学や入社で新しい生活が始まるこの季節、何かと字を書く機会が増えますよね。そこで今回はちょっとした工夫で
きれいな字を書く方法
を科学します。
実は字が汚くて悩んでいる矢野さん。そこで、科学の力で字をキレイにし、奥さんへキレイな字でラブレターを書こうという悪筆改善プロジェクトを発足しました!
そんな矢野さんが書いた文章を見てみると、字にひどいクセが目立ちます。そもそも、
字のクセはいつ頃できるものなのでしょうか?
そこで佐藤アナが小学校を訪ね、小学1年生のクラスを見学しました。すると意外にも、
1年生の書く字はとてもしっかりしていて正確
だったのです。特に漢字の基礎である「はらい」や「はね」の部分が忠実でとてもきれいでした。比較のため5年生の字も見せてもらうと、なんと
5年生はバラバラで個性的でクセのある字を書いていた
のです。そこで、ある女の子に1年から5年まで5年間のノートを見せてもらいました。すると、1年生の頃はとてもキレイですが、2年生から徐々に変化し、5年生ではとても個性的な文字になっていました。なぜこのような変化が生まれるのでしょうか?1年生と5年生に「日本文学」という同じ4文字を書き写してもらってみたところ、1年生はゆっくり丁寧に見本を見ながら書き写し、時間は平均2分30秒かかりました。一方、5年生は同じ文字を書いているのにかかった時間は平均40秒だったのです。実はこの速さの変化は、高学年になるに連れて
授業中に書く文字数が増え、書くスピードが上がる
からなのです。実際に、ある国語の授業では、5年生の書く文字数は1年生の10倍以上に増えていました。では、書くスピードが上がるとなぜクセがつくようになるのでしょうか?そこで、紙の下にカーボン紙を置いて、ペン先にかかる筆圧をチェックしたところ、1年生は5枚先まで何を書いたかわかるのに対し、5年生は3枚目でうっすら見える程度で終わってしまいました。さらに機械で筆圧を測ると5年生は平均300gで1年生は500g以上もありました。つまり
書くスピードが上がることで手の力が抜け、それにより文字を省略したりつなげたりと文字の基礎が守られず、自分のクセが出てきてしまう
のです。
高学年になるにつれ、授業で書く文字の量が増えるため、スピードが上がり手の力が抜け、字のクセが作られていくのだ!
速く書こうとして出てきた自分の文字のクセ。ならば初心に帰れば文字がキレイに書けるのでは?ということで、矢野さんは小学一年生のゆいちゃんと共に、今まで全く書いたことのない韓国のハングルを書いてみることにしました。
矢野さんはゆっくり丁寧に書き上げましたが、韓国人の方々の10人中6人がゆいちゃんの字の方が上手いと判定したのです。なぜこのような結果になったのでしょう?ハングル書道家の方によると、ゆいちゃんの字はお手本に忠実で、左と右の背丈が揃っていて読みやすいのだそうです。一方矢野さんの字は縦の線が長すぎ、左と右の大きさが違い、文字のバランスが崩れていました。
初めて書いた文字なのに、日本語のクセが無意識に現れてしまっていた
のです。実は、自分の文字のクセは、泳ぎ方や自転車の乗り方など、繰り返し行う行動を覚える、脳内の
小脳
にインプットされます。つまり、
長い時間かけて一旦憶えてしまった字のクセは、なかなか消えにくい
のです。
さて、字のクセは簡単には直りにくいと知った矢野さんはプロの書道家のもとへ駆け込みました。すると先生は
クセを直すより全体のバランスを意識したほうが良い
と言うのです。そこで、矢野さんの書いた文章を字の形を一切変えずに、プロに教わったポイントを参考にパソコンで加工して、加工前と後のどちらが読みやすいか道行く人に聞いてみました。すると30人全員が加工後の文章の方が読みやすいと判定しました。その差を生んだポイントの一つ目は、ひらがなの大きさです。
画数が少なく字の密度が低いひらがなは、目の錯覚で大きく見えてしまうのです。つまり
画数の多い漢字は大きく、画数の少ないひらがなやカタカナは小さく書くと読みやすくなります。
実は街頭の標識や看板などにもこの法則が利用されています。
続いてのポイントは改行です。矢野さんの元々の文章を読んだ人の視線を調べると、改行の部分で視線の動きが止まってしまうことがわかりました。改行の場所が悪く、単語の意味がすぐに読み取れず、読みづらいと感じてしまっていたのです。そこで改行点を意味が伝わりやすく直すと、つっかえることなくスムーズに視線が移動して、読むスピードが変わったのです。そして、読みやすく見せる最後のポイントは、
行間と字間
です。矢野さんの文章は行間と字間が詰まっていたため読みづらかったのですが、この
間隔を均等にしてみると、とても読みやすくなった
のです。
ひらがなは小さく書き、意味が伝わりやすいように改行し、行間・字間をそろえれば、クセ字でもキレイに感じ、読みやすくなるのだ!
いよいよ矢野さんはこれらのポイントに注意して書いたラブレターを奥様に渡しました。すると、奥様は「いつもより読めて前より気持ちが伝わった」という感想で、プロジェクトは大成功!キレイな字で書いた文章は人の心にも伝わるようです。