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驚き 赤トンボ の逆立ち
第951回 2008年9月21日


 稲穂が揺れる田園に、アカトンボが舞う風景は秋の訪れを感じさせてくれます。今回は童謡でもお馴染みの秋の風物詩、アカトンボの知られざる生態に迫ります。

 アカトンボとは、日本にはおよそ30種類ほどいる、赤い色をしたトンボの総称で、今回は、中でも日本に最も多く生息するアキアカネに注目します。そんなアカトンボは、秋になると一斉に姿を現すイメージですが、専門家に伺うと、なんと夏にはすでに生まれているというのです。では、夏の間は一体どこにいるのでしょう?8月に矢野さんは、その姿を求め栃木県の那須高原に向かいました。そして標高1000mという高地で、飛び回っているたくさんのアカトンボを発見!しかし、なぜ夏にこんな山の中にいるのでしょう?そこで実験です。アカトンボが入った箱の天井に太陽に見立てた照明を設置し、徐々に温度を上げ真夏の平地を再現してみました。逆立ちするアカトンボ(逆立ちは体温調節法)すると、アカトンボは真夏の猛暑日と同じ35度に達した途端、お尻を上げ始め、36度になると、なんと逆立ちをしたのです!アカトンボの体温は、室温と同じく上がっていき、逆立ちの状態の時には38・7度にまで達しました。しかし、なんとここから上昇が止まり、体温はだんだん下がっていったのです。なぜこんな事が起きたのでしょう?アカトンボの模型に照明を当て検証してみると、逆立ちの姿勢になるにつれて影の面積が小さくなっていくのが分かりました。つまり、アカトンボは逆立ちして体に光を受ける面積を減らし、体温が上がらないように調整していたのです
 実は、アカトンボの祖先は2万年前の最終氷期にアジア一帯に生息していましたが、気温が上がるとほとんどのアカトンボは寒い地域に移動。しかし、一部が日本に取り残されてしまったんです。だからアカトンボは暑さに弱く、夏には山に昇り、秋に涼しくなってから平地に下りてくるように進化したのです。私達がよく目にするアキアカネは世界で唯一この習性を持つ珍しい種類なのです。

所さんのポイント
ポイント1
秋の風物詩・アカトンボは、暑さが苦手なので、夏は高地で過ごし、秋になって涼しくなると平地に下りてくるのだ!

 次に、山から平地まで時には50kmも移動するというアカトンボの飛行能力を探るため、1周すると1mになる、くるくる回る棒の先にアカトンボをセットし、飛ぶ距離を測ってみました。比較のために飛ばしたカブトムシの記録は42m、コガネムシの仲間は231mでしたが、なんとアカトンボはわずか22mで止まってしまいました。そこで、目印のリボンを付けたアカトンボを山の上から放してみると、アカトンボは最低でも1km以上も長く飛び続け、やがて見えなくなりました。なぜ自然の中だと長く飛び続けることができるのでしょうか?専門家によると、アカトンボは自然の風を上手く利用して飛んでいるのだそうです。そこで今度は箱の中に風を送り、自然と同じ環境を再現して飛ばしてみると、アカトンボは途中で羽の動きを止め、風を受けて飛んでいるのがわかりました。これは滑空飛行といってトンビやグライダーと同じ飛び方。アカトンボはこの省エネ飛行で山から平地までの長い距離を飛んでいたんです。では、なぜアカトンボは秋にわざわざ平地に移動してくるのでしょうか? 
稲穂の上で交尾するアカトンボ  一足先に秋を迎えた北海道の水田に飛び交うアカトンボを観察してみると、群れの中にハート型でくっついて飛ぶ2匹を発見しました。実はこれ、アカトンボの交尾。まずオスが尻尾で精子を作り、それをお腹に移します。その後、オスは尻尾の接続器でメスの頭をつかみ、それに反応したメスが産卵管をオスの腹部につけて交尾するので、ハート型になるのです。この形だと、オスとメスが同じ方向を向いているため、外敵が襲ってきても交尾をしたまま飛んで逃げられるというメリットがあるといわれています。
 さらに観察を続けると、アカトンボは交尾をやめ、2匹つながったままどこかへ飛んでいってしまいました。そこで、観察用に穴を掘って水田と同じように水を張ってみると、2匹つながったアカトンボがやってきて、お尻を水に打ち付け始めたのです。さらによく見るとお尻の先からなにやら黄色いものが出ていました。実はこれがアカトンボの卵。アカトンボは交尾と産卵をするために秋になると山から平地の水辺を目指して飛んでくるのです。

 ところで、アカトンボといえば真っ赤な体ですが、実は、初夏に羽化したばかりの時は黄色い体をしています。それが、山へ昇り、エサを食べて成長するにつれだんだん赤みが増し、秋に真っ赤になるのです。では、なぜ赤くなる必要があるのでしょうか?その理由を探るため、アカトンボの天敵である緑色のギンヤンマの実物大模型を釣り竿に吊るし、近づけてみます。すると、当然のようにアカトンボたちは模型から逃げていきました。ならばと、緑色のギンヤンマを真っ赤に塗って近づけてみると、なんとアカトンボは警戒せずに近づいてきたのです。実は、赤いのは婚姻色といい、交尾・産卵が可能な証拠だったのです。アカトンボは秋になると赤く染まり、ハート型で愛を育む、なんともロマンティックな虫でした。

所さんのポイント
ポイント2
アカトンボは秋になると赤く色づく理由は、交尾・産卵がOKというサイン。アカトンボの赤色は恋の色なのだ!




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