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八つ当たりでスッキリ
第1036回 2010年5月29日


 怒りを表現する言葉は、「頭にくる」、「腹が立つ」、「堪忍袋の緒が切れる」、「キレる」など頭や腹の身体に関する表現と、何かが「切れる」という表現に分類できます。今回は、本当に怒りによって身体に変化が現れるのか、科学で徹底解明します!

検証① 腹が立つなど「お腹に関する表現」
 人が実際に怒ると胃はどうなるのでしょうか?実験内容を知らずに病院へやってきた矢野さんの胃袋を見てみると、胃が輪のようにゆっくりと腸に向って食べ物を送り出す、蠕動(ぜんどう)運動の様子が見られました。平常時と怒った時の胃 2面比較そして、実験スタート!矢野さんには、鏡を見ながら箸で小さなブロックを積み上げるイライラゲームをやってもらいながら、仕掛け人がわざと悪口を言って怒らせるように仕向け、胃の変化を観察します。すると、悪口に少しムッときた矢野さんの胃は動きが鈍くなり、さらに悪口を続けて怒らせると、なんと胃の中の動きがほとんど止まってしまいました。さらに時間が経つと、底の方に胃酸がたまり始めたのです。つまり、怒ると胃の動きが止まり、食べ物どころか胃酸も腸に送れなくなり、むかついたり気持ち悪くなったりするので、「腹が立つ」や「むかつく」という表現が生まれたと考えられます。

所さんのポイント
ポイント1
人は怒ると胃の動きが止まり、胃酸がたまって、本当にむかついてしまうのだ!

検証② 頭にくるなど「頭に関する表現」
 「頭にくる」や「頭に血が上る」という、頭に関する怒りの表現がありますが、本当に怒ると頭に血が上るのでしょうか?
 先ほどと同じイライラゲームと仕掛け人の悪口攻撃で、今度は佐藤アナを怒らせ、番組スタッフがサーモグラフィーで顔の皮膚温度の変化を観察します。すると、佐藤アナはちょっとイライラした様子でしたが、なんとゲームをクリアし、怒ったようには見えませんでした。実験は失敗、画像もほとんど変化していないように見えました。そこで学生さんでもう一度実験。すると、今度は見事に怒りをあらわにしたように見え、顔の温度も上がったように見えました。
 この実験結果を後日、明星大の野澤昭雄先生に詳しく分析してもらったところ、イライラしただけに見えた佐藤アナの左頬の一部の皮膚温度が約0.4℃上昇、一方、怒ったように見えた学生さんはほとんど顔の温度が上昇していないことが判明。その反面、2人とも鼻の皮膚温度が約0.8℃低下していることが分かったんです。これはいったいどういうことなのでしょうか。
 実は、人間はイライラしたり、怒ったりすると、怒りの対象である敵に立ち向かうため、身体が戦闘体制になると考えられています。具体的には、脳の奥深くにある扁桃体の指令でホルモンが出て、交感神経の活動が活発になります。この交感神経のはたらきによって、胃など消化器官の活動が低下するとともに、手足指先などの末梢の血流量が減り、脳や筋肉へ血液が集まることになります。つまり、イライラしたり怒ったりすることで、戦いにあまり重要でない部分から、戦いに重要な部分へと血液を集めているというわけ。
 顔には表情を作るための表情筋という筋肉がたくさんありますが、鼻だけは特別な場所で、手足指先と同じ末梢部なので、2人とも鼻の温度が下がったんです。一方、筋血流の増加による皮膚温度の上昇は比較的小さく、人によっては観測が難しい場合があります。佐藤アナの場合は、きちんと頬の温度が上昇したのが分かりましたが、学生さんはこのケースだったようです。
 実際にアメリカの大学で行われた実験でも、怒った時は、平常時よりも脳に行く血液の量が増えることが確認されています。怒ると頭に血が上るという言葉は本当だったのです! 

検証③ 堪忍袋の緒が切れるの「切れる」
 ガマンも限界に達すると、突然キレるのが堪忍袋!諏訪理科大の篠原菊紀先生によると、なんと堪忍袋は脳の中にあるといいます。そこで、イライラゲームと仕掛け人の悪口で矢野さんを怒らせ、脳の活動をリアルタイムで見ることができる光トポグラフィという装置で観察します。しかし、矢野さんは最後までキレることはなく、実験失敗…。そこで今度は同じ実験を若者で行うと、悪口を浴びせられ脳が活発に反応。そして、怒りが頂点に達すると…おでこのあたりが、活動の弱まったことを示す青色に変化したのです。篠原先生によると、堪忍袋は、右のこめかみ周辺の理性をつかさどる前頭前野にあり、脳の奥にある扁桃体の怒りを抑えているそうです。ところが、怒りが我慢できなくなると、前頭前野の働きがストンと落ち、抑えていた怒りの感情が一気に表に出て、突然キレてしまうのだそうです。

所さんのポイント
ポイント2
人の堪忍袋は、右のこめかみ周辺の脳にあり、扁桃体の怒りを抑えているのだ!

ちゃぶ台返しする女性  さて、最近ゲームセンターではちゃぶ台返しのゲームが人気を集めていますが、本当に八つ当たりで感情が静まりスッキリするのでしょうか?そこでこんな実験!男女各3名、計6名に今までで一番怒った時のことを思い出してちゃぶ台をひっくり返してもらい、「平常時」、「思い出した時」、「ちゃぶ台返し後」の怒りの強さに関する唾液中の酵素・アミラーゼの量を比較します。すると…なんと4人連続でちゃぶ台返しをした後にアミラーゼの数値が下がったのです。
 ところが、最後の2人はちゃぶ台を返した後に、アミラーゼの数値がさらに増してしまいました。なぜ全員がスッキリしなかったのでしょう?専門家に理由を伺うと、状況が解決している場合には八つ当たりで怒りが発散でき、問題が解決していなければ、かえって交感神経が活性化し、興奮して怒りが増幅されるそうです。確かに、最初の4人が思い出したのは、過去に解決済みの出来事でしたが、最後の2人が思い出したのは、現在進行中のトラブルだったのです。つまり、問題が解決していない時の八つ当たりは、逆に怒りが湧いてくるかもしれないのでご注意を。



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