2015年のノーベル賞。日本人の科学者が2人も受賞するという快挙を成し遂げました。まず、生理学・医学賞を受賞した大村智先生。約十億人を病から救った薬のもとを発見! そして物理学賞を受賞した、梶田隆章先生。宇宙の神秘を解明する鍵、ニュートリノについて研究されました!
そんなお二人に刺激を受けたのは…東京大学で生物の研究に没頭した、科学大好きな桝アナウンサー。2回に渡り「ノーベル賞」を受賞した研究を身をもって体験します!第一弾は、大村智先生が受賞した生理学・医学賞。大村先生はどのようにして、十億人を病から救う薬の基を発見したのでしょうか!?今回は…祝!ノーベル賞受賞スペシャル第一弾!大村智先生の研究をわかりやすくお伝えします!
①奇跡の薬のもと「放線菌」に迫る!
約十億人を救う「奇跡の薬」の基を発見した大村智先生。41年前の1974年、静岡県のゴルフ場の近くで採取した土から、ある微生物を発見!その微生物は「放線菌」と呼ばれる細菌の一種で、それが作り出す物質こそ、奇跡の薬の基だったのです!大村先生が発見した放線菌は、寄生虫を殺す効果がある抗生物質を作り出すことがわかり、その物質はエバーメクチンと名付けられ、寄生虫が原因の病に対する薬の開発が始まりました。1987年。エバーメクチンを基に、中南米やアフリカで流行していた感染症に効く薬「メクチザン」が誕生。
この薬は、失明につながるオンコセルカ症や、足の痛みや腫れを引き起こすリンパ系フィラリア症に効き、しかも年に1回の投与で効果があるという画期的なものでした。メクチザンは、これまで約十億人に無償で提供され、多くの人を病から救っていて、2020年にはこれら2つの病は完全に撲滅されると予想されているんです。今回、大村先生が発見したエバーメクチンを作り出す放線菌というのが「ストレプトミセス・エバーミチリス」。そもそも、土の中には様々な細菌が住んでおり、放線菌はその中の一種ですが、この放線菌がとても役立つ菌だったんです。
例えば、不治の病と言われていた結核。その治療薬として開発されたストレプトマイシンは、放線菌が作り出した物質が由来となっており、大村先生が見つけたエバーメクチンは、それに匹敵する大発見だと言われています。放線菌は、主に土の中に住んでいますが、これまでに発見されているものは全体の1割にも満たないと推測されています。残りの9割以上は、いまだ未確認。つまり、まだ見つかっていない放線菌がたくさんあるということなんです!しかし、薬の基となる放線菌を探すのはそう簡単なことではなく、例えるなら、広い砂場から砂ぐらいの大きさのダイヤモンドを1粒探すようなものなんです。
②日テレの土から薬のもとを探す!
身近な場所で、放線菌を探したいとやってきたのは…桝アナが担当している番組「ZIP」のオープニングを行っている汐留日本テレビ前。日本テレビの土から、薬の基になる、役に立つ放線菌を探したい!ということで、お呼びしたのは…バイオテクノロジーセンターの浜田盛之さん。浜田さんが勤めるバイオテクノロジーセンターは大村先生が発見した放線菌のゲノム解析などを行い先生の研究をサポートしてきた機関です。浜田さんも日々、放線菌の収集・保存などを行っているスペシャリストです。日本テレビにある土は、このビルが建てられた後に他の場所から持ち込まれたものです。さっそく土を採取。大村先生も、どんな場所でも土が採取できるよう、小袋とスプーンを常に財布にしのばせているそうです。浜田さんによると、土の取り方のコツは一番表面の太陽があたるようなところは紫外線で殺菌されているため、少し掘った方が良いとのこと。放線菌は、紫外線のあたる表面や酸素のない土の中では、ほぼ生息できません。地表より、深さ5センチから10センチあたりの土が狙い目だそうです。私たちが普段嗅いでいる土の匂いは、主に放線菌が作り出すジオスミンという物質の匂いだったんです。続いて向ったのは、日テレ北玄関横の植え込み。匂いをかいでみると…こちらの土は、さきほどの花壇の土より匂いが強く、期待大!そして、最後にむかったのは…日テレタワーにあるうどん屋さんの横の土。この土がかなり乾いていてかたく、掘るのに一苦労!さらに目がテンが今年から放送している、科学者たちの田舎暮らし企画の舞台、茨城県の常陸太田市のサトイモ畑の土も採取しました。
全4種類の土、この中にダイヤの原石ともいうべき、人の役に立つような放線菌はいるのでしょうか?
③奇跡の薬のもと"放線菌"に迫る!
採取した土を持ち込んだのは、目がテン!スタッフルームにある桝太一研究室。ここからの作業は、大きく分けて4つ。土の中にいるたくさんの細菌の中から、放線菌だけをとりわけ、さらに、放線菌を一種類ずつ種類ごとに分けていきます。この作業に、およそ3週間もかかるんです。
まずは工程1。土の中をできるだけ放線菌のみの状態にします。紙の上に土を広げ、数日置き、乾燥させます。これにどんな意味があるのでしょうか?浜田さんによると、「乾燥させると水がない状態になるため、普通の一般的なバクテリアは死んでしまう。しかし、放線菌というのは乾燥してくると、身の危険を感じて、胞子という種みたいなものをつくる。
そうすると熱にも乾燥にも強い休眠状態、眠っている状態の細胞に変わる」とのこと。放線菌の顕微鏡写真を見てみると、トゲトゲした塊が胞子。放線菌は、胞子となって、殻に閉じこもることで過酷な環境でも生き延びることができる、強い菌なんです!土を置いて乾燥させること3日。水分が飛んで、パラパラした状態になりました。さらに、放線菌以外の菌を殺すダメ押しの作業!なんと!土を100℃のオーブンで1時間も加熱。
しかし胞子になることで、放線菌だけは100℃の中でも生き延びられるんです。乾燥と熱で、放線菌以外の細菌をほぼ殺菌。土の中は、ほぼ放線菌だけが残った状態になりました。これにて工程1が完了!では工程2!
過酷な環境で、胞子になった放線菌を増やしていきます。放線菌には、他の細菌は利用できない栄養素が入っていて、放線菌だけを増やすことができるんです。しかしここで、さらに細かい作業が!手で小さな振動を与え、土をそーっと培地にまいていきます。なるべく土の粒をバラバラにしてまくのが、上手に放線菌を増やすコツなんですが、これが相当、難しいんです!土をまいた培地を、放線菌が育ちやすい温度、28度の保管庫に入れ、10日ほど待ちます。そして、土をまいてから10日後。後藤アナウンサーと訪れたのは、浜田さんの所属する、バイオテクノロジーセンター。
日本テレビと田舎暮らしの土地の放線菌は増えているのでしょうか?なんと、土の粒についていた放線菌の胞子から菌が目に見えるまで増殖し、コロニーと呼ばれる塊を作っていました。コロニーは、それぞれ1種類の放線菌が膨大な数に増え、目に見えるようになった状態です。
例えば、三日月のような白いコロニーと横にあるベージュのコロニーは、それぞれ違う放線菌の集まり。色や形がちがえば、種類が違う放線菌が集まっている可能性が高いんです。そこで、工程3。この種類の違う放線菌を取り出します。コロニーの色や形を見ながら、顕微鏡で、放線菌の形を観察。種類の違う放線菌を探し出していきます。サトイモ畑の培地を、実際に顕微鏡でのぞいてみると…バネのような形の放線菌が姿を表しました。次にうどん屋さんの横の土から出てきた放線菌。明らかに先ほどの放線菌とは違う、別の種類の菌です。まだまだあるという、種類の違う放線菌たち。まず色や形を見てから、コロニーを選び、顕微鏡で菌の形を確認。
いままでにない形のものを見つけるという地道な作業を繰り返します。この中のどれかが、薬の基になるダイヤモンドの原石かもしれません。後藤アナウンサーと40種類さまざまな形の放線菌を選びました。
そして、選んだ放線菌を取り出します。爪楊枝で菌をほんの少しとり・・・4つに区分けされた培地に、そーっと広げていきます。
そして、最後の工程4。取り出した種類の違う放線菌を1種類ずつ増やしていきます。放線菌を取り出してから3日後。この工程で、別の細菌が混じっていないかをしっかりと確認し、最後に新しい培地、一皿に一種類の放線菌を広げていきます。そして4日後。再びセンターを訪れると…色も見た目もさまざまな放線菌たち!ここまでに要した期間は、実に3週間。地道な作業を経て、日本テレビの土と田舎暮らしの土から全部で40種類もの放線菌を取り出すことに成功しました!
④日テレの土から薬のもとは見つかるのか!?
私たちが取り出した放線菌の中に抗生物質を作り出す、役に立つ菌がいるのでしょうか?用意したのは、2つのプレート。それぞれに、酵母とバクテリアの代表的なものがあらかじめまいてあります。放線菌がこれらの増殖をおさえることができれば、何らかの抗生物質を作っている証拠となります。というわけで、まずは皿いっぱいに培養した放線菌を培地ごと、ストローで打ち抜き竹串を使って培地から外し・・・それぞれのプレートの上に、そっと置いていきます。二人で手分けして、40種類の放線菌を2つのプレートに置いていきました。全部で80個。くり抜いた培地がプレートの上に並んでいます。これを一晩おけば、いよいよ結果が出るんです!果たして、この中に私たちの役に立つ抗生物質を作り出す菌はいたのでしょうか?結果は…酵母では40種中6種が、黄色球菌では40種中7種が抗生物質を出していました。そしてこの中で、一番、透明な円が大きく抗生物質の効果が強く出たのが、「時計前10号」です。そこで、時計前10号について新種の可能性がないか、浜田さんに調べていただくと…残念ながら、こちらは既に知られている種である、Streptomyces anandii (ストレプトマイセス アナンディ)という名前の放線菌でした・・・。ただ!この種の放線菌は、「ギルボカルシン」という抗腫瘍薬、つまりがんのような腫瘍を抑える働きのある物質を作るものがいる、ということが報告されており、役に立つ放線菌だというんです!
今回調べた菌は新種ではなかったんですが、新種を見つけられたとしても、薬になる物質を作り出す放線菌を見つけることは相当難しいんです。
1人の研究者が人生をかけて探しても、実際に薬として使えるような物質を作る放線菌を一つも見つけられないこともあるんだそうです。
今回、ノーベル賞に輝いた大村先生は、エバーメクチン以外にも、たくさん薬となる菌を発見されていて、25種類もの物質が薬などとして実用化されているんです。それらは、世界中で利用されており、その功績は本当に大きいんです。
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